SOMATOM Force : Tin(Sn) Filtration imaging 
岡田宗正(山口大学医学部附属病院放射線部)
<Session Ⅴ Focus on New Performance of Dual Source CT>

2017-11-24


岡田宗正(山口大学医学部附属病院放射線部)

当院で稼働するシーメンスのDual Source CT「SOMATOM Force」には,錫(Sn)フィルタ(Tin filter)によりX線のスペクトラムを最適化する新しい被ばく低減技術“Spectrum Shaping技術”が搭載されている。本講演では,胸部,頸部,腹部の診断におけるTin filterを用いた被ばく低減の有用性を中心に報告する。

Tin filterのエネルギー分布の特徴

錫はX線の遮蔽効果の高い金属であり,Tin filterを用いたSn100kVと通常の120kVにおけるX線のエネルギースペクトル形状を比較すると,Sn100kVの方がより高エネルギーとなり急峻な立ち上がりを示す。つまり,Sn100kVでは低エネルギー成分が除去され,スペクトル全体が高エネルギー側へとシフトすることで,実効エネルギーが120kVのものより高値を呈していた。

低被ばく撮影を実現する技術

CTにおける被ばく低減技術は,Low-kVあるいはLow-mAを用いる方法が主流である。当院の胸部CT撮影における被ばく線量の変遷を見ると,かつては120kV,201mAでCTDIvol 14.57mGyであったものが,120kV,50mAのLow-mA撮影によって3.61mGyへ,さらに,SOMATOM ForceのTin filterプロトコルでは,Sn100kV,262mAで0.91mGyへと
大幅に低減し,胸部単純X線撮影(正面)の診断参考レベル(diagnostic reference level:DRL)の0.3mGyに近づいている。
そして,被ばく低減のためのLow-kV撮影を実現する技術として,新型X線管「VECTRON」が挙げられる。VECTRONは,最大管電流1300mA(2管球で2600mA)の出力が可能なため,70,80,90kVのLow-kV撮影でも画質が劣化することなく,体格や症例を問わず被ばく低減が可能となる。また,検出器「StellarInfinity Detector」は,回路上に生じる電気ノイズを最大で25%にまで抑制でき,Low-kV撮影でも十分な信号が得られるため,低線量・高画質の両立を実現している。加えて,逐次近似画像再構成法“ADMIRE”によって,さらなるアーチファクトやノイズの低減が可能であり,より低線量でも高画質が得られるようになった。

Tin filterを用いた低被ばくCT撮影─胸部,頸部,腹部への応用

Tin filterを用いた低被ばく撮影を行うにあたり,当院ではまず,大ファントムを120kVとSn100kVで撮影してCT値を測定した。実効エネルギーは,前述のとおり,120kVよりもSn100kVの方が高いため各CT値は1割程度低下したものの,その標準偏差(SD)も低下したためノイズは改善していた。また,同一症例で画質を目視で比較したところ,Sn100kVにて120kVと遜色のない画像が得られた。さらに,胸部CTを用いた定量評価では,ヒストグラム解析にてskewness(歪度)
やkurtosis(尖度)で,120kVとSn100kVに有意差は見られなかった。

1.胸部への応用
CT撮影時のDLP(dose-length product)に変換係数を掛けて実効線量を求め,胸部の低被ばく撮影について実際の症例で検討を行った。
症例1は,60歳代,男性。胸部単純X線写真では異常は認められないが,実効線量0.2mSvの超低線量CTにて微小病変が認められた(図1)。胸部単純X線写真では検出が困難な,臓器に隠れた領域の病変検出能は,CTの方がかなり優れている。CTDIvol 0.3mGyと低被ばくでありながら,このような良好な画像が得られることを考えると,将来的には超低線量CTにて胸部のスクリーニングを行う時代が来ると思われる。

図1 症例1:臓器に隠れた微小病変の検出

図1 症例1:臓器に隠れた微小病変の検出

 

症例2は,70歳代,女性,ペースメーカ留置例である。通常は,Low-kVで撮影するとアーチファクトが強く出るが,Tin filterを使用することでアーチファクトやノイズの少ない,肺野も十分に評価可能な画像が得られた(図2)。

図2 症例2:ペースメーカ留置例

図2 症例2:ペースメーカ留置例

 

2.頸部への応用
症例3は,当院にてTin filterを頸部に応用するきっかけとなった症例である。食道がん術後で食道気管支瘻により誤嚥を繰り返していた。気管あるいは食道のステント留置術は適応外のため,その都度,内視鏡検査か通常線量でのCT検査を行う必要があると考えていたが,Sn100kVで撮影したところ,実質と軟部組織のいずれも非常に明瞭な画像が得られた(図3)。
2011年4月に,国際放射線防護委員会(ICRP)が,眼の水晶体の新しい等価線量限度として,「5年間の平均を年20mSv以下,かつ年間最大で50mSv未満にすべき」と示した。これは,白内障の閾値線量が,疫学調査の結果を受けて従来の8Gyから0.5Gyに一気に引き下げられたことによるものである。これにより,今後は副鼻腔の検査(特に小児)では,低線量CTが必須になってくると思われる。
そこで,小ファントムを用いて頭頸部における低線量CTについて検討を行った。Sn100kVでは120kVと比較して,大ファントムでの検討結果よりもCT値とSDの低下率が大きく,バックグラウンドのノイズも減少しており,ある程度の画質は期待できると考えられた。

図3 症例3:食道がん術後の食道気管支瘻の描出

図3 症例3:食道がん術後の食道気管支瘻の描出

 

当院では,キネティックでの頸椎のCT myelography検査を施行しているが,前屈位での撮影では眼球被ばくが問題となる。そこで,倫理審査委員会(IRB)の承認を得て,仰臥位では120kV,前屈位はSn100kVで撮影し,実際の画像を検討したところ,頸椎レベルではSn100kVでも120kVと遜色のない画像が得られた(図4)。さらに,頸髄と脳脊髄液にROIを置いて第三頸椎レベルでノイズを計測したところ,前屈位では頭蓋骨が入ることによりSDが大きくなるものの,肉眼的な形態評価には問題ないため,今後もこの方法を継続していく予定である。

図4 超低線量CTによる頸椎のキネティックCT myelography

図4 超低線量CTによる頸椎のキネティックCT myelography

 

3.腹部への応用
腹部領域では,尿管結石の検出などにTin filterプロトコルが有用と思われるが,Sn150kVでは平均CT値の低下により微小な結石までは描出できない可能性があるため,検討が必要である。
一方,CT urography(CTU)にはTin filterプロトコルがきわめて有用である。症例4は,60歳代,男性,膀胱がん症例である。CTUは,Sn150kVで胸部より少しmAsを上げて撮影することで,通常線量よりも被ばく線量を抑えつつ尿管の十分な描出が可能となる(図5)。このように,高吸収な領域やCT colonographyのような高コントラストが得られる撮影では,特にTin filterの有用性が発揮できると考えられる。
そこで,金属などの異物にも適応があると考え,検討を行った。症例5は,80歳代,男性,小腸出血症例である。トポグラムでは確認できなかったパテンシーカプセルが,Sn150kVにて明瞭に描出されている(図6 )。

図5 症例4:膀胱がん症例におけるCTU

図5 症例4:膀胱がん症例におけるCTU

 

図6 症例5:小腸出血症例におけるパテンシーカプセルの描出

図6 症例5:小腸出血症例におけるパテンシーカプセルの描出

 

まとめ

Tin filterを用いた超低線量CTでは,一般X線撮影並みの被ばく線量で,はるかに多くの情報を得られるため,領域によっては今後,飛躍的に適応が増えていくと思われる。特に,胸部CT撮影では,mAsをさらに下げることで,従来のCTの約1/60〜1/70の線量で十分に評価可能な画像が得られる可能性がある(図7)。これは,人類にとって非常に有益であり,今後急速に普及する可能性がある。
一方,一般X線撮影がCTに置き換わると,読影量が膨大となり,マンパワーが圧倒的に不足するため,AIを活用した診断補助システムの進歩が期待される。

図7 当院の胸部CT撮影における被ばく線量の変遷

図7 当院の胸部CT撮影における被ばく線量の変遷

 

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