技術解説(シーメンスヘルスケア)

2014年4月号

Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

進化した静音技術“Quiet Suite”MR Imaging

打越 将人(MRビジネスマネージメント部)

近年のMR技術の進歩による撮像シーケンスの高速化は,画質の向上や撮像時間の短縮など被検者への検査負担を低減し,多くの情報を効率良く提供できるようになった。その一方で,高い勾配磁場強度,早い立ち上がり・スイッチング技術の向上により,多くの被検者に深刻な騒音問題を引き起こしている。騒音は体動による画質低下だけでなく,再検査,再撮像など検査現場への経済的・精神的負担を引き起こしている。
国内外において,医療被ばくの観点から,小児MR検査への期待・ニーズが高まっている昨今,検査のための鎮静に対する安全性の担保が求められており,2013年には日本小児科学会,日本小児麻酔学会,日本小児放射線学会から「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」(https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_130704.pdf )が報告された。そのため,小児MR検査は,できるかぎり自然睡眠下で施行できる環境を整えることも医療機器メーカーとしての命題であり,これからのMR技術の進歩に「騒音」の解消は必然的なファクターである。
本稿では,シーメンスが開発した新たな静音技術“Quiet Suite”の技術的・臨床的有用性について紹介する。

■Quiet Suiteの技術的・臨床的有用性

図1 Quiet Suiteシーケンス:勾配磁場の最適化

図1 Quiet Suiteシーケンス:勾配磁場の最適化

Quiet Suiteは,大きく分けて2つの技術により構成されている。1つは,今までの勾配磁場の変調を最適化することで,スイッチング時に発生する騒音を解消したシーケンスデザインとなっている(図1)。シーメンスのMRIシステムは,当初より高い勾配磁場の制御技術を有しており,そのため,このQuiet Suiteシーケンスは,さまざまなハードウェアの交換やスイッチング交換などが必要なく,現在ご使用いただいている製品のソフトウェアのバージョンアップのみでご使用いただける機能である。また,対応するシーケンスに制限はなく,パラメータカード内を切り替えるだけで静音シーケンスに切り替わり(図2),検査初動のプレ・スキャンをはじめ,ルーチンでご使用いただいているシーケンス全体(GRE,TSE,SEシーケンス)に静音化技術を用いて検査いただける。静音効果は,自社比で70%以上の低減が可能で,バックグラウンドノイズ(70dBA)に近い静音効果が得られ,背景の冷凍機のコンプレッサー音が聞こえるレベルである。一般的に,磁場勾配を弱めるだけでは,勾配モーメントの総量を担保するために印加時間の延長が伴い,さまざまなアーチファクトを誘発し,結果として画質低下を来す要因のひとつになる。しかし,Quiet Suiteは,単に磁場勾配を弱めるのではなく,アーチファクトを誘発しないように最適化したため,結果としてEddy-currentを低減し,撮像時間の延長もほとんどなく,画質を落とさず,今までと同様に診断に役立つ高い画質を得ることができる(図3,4)。

図2 Quiet Suiteシーケンスのユーザーインターフェイス上の切り替え 四角枠内のAcoustic noise reduction

図2 Quiet Suiteシーケンスのユーザーインターフェイス上の切り替え
四角枠内のAcoustic noise reduction

 

図3 頭部ルーチンMR検査の一例 黒塗り枠:従来,白塗り枠:Quiet Suite。撮像時間の延長なく静音検査が可能。

図3 頭部ルーチンMR検査の一例
黒塗り枠:従来,白塗り枠:Quiet Suite。撮像時間の延長なく静音検査が可能。

 

図4 頭部ルーチンMRI

図4 頭部ルーチンMRI

 

Quiet Suiteのもう1つの新しい技術は,“PETRA”と呼ばれるUltra short TE(uTE)技術を利用した静音シーケンスである(図5)。PETRAは,従来のuTE技術の諸問題を改善した技術のひとつで,大きなポイントのひとつとして,k-空間の埋め方が従来法とは異なる。従来のuTEの大きな問題点のひとつとして,ラジアルトラジェクトリーのみでk-空間を充填することや,zeroTEによるT2 filtering 効果,勾配磁場印加中のRamping中に信号を取得することなどによって誘発されるEddy-currentなどにより,画質低下,特に空間分解能の低下が懸念されていた(図6)。シーメンスが開発した“Quiet PETRA(qPETRA)”は,いままでのuTEでの諸問題を解決するために,k-空間の中心部をpointwise(1point/TR)にエンコーディングし,外側をラジアルサンプリングすることで,TRごとに磁場勾配を段階的に変えていくことで静音化を実現した(図5)。さらに,磁場勾配を印加しながらRFハードパルスを印加することで,uTEを実現しつつも,Eddy-currentの影響を低減できた。また,一般的にuTEに用いるRFパルスは,non-selectiveなハードパルスが用いられているが,実際の周波数励起プロファイルは励起帯域の広いsinc波〔sin(x)/x〕であるため,特にこの励起効果は磁場勾配の強いラジアルサンプリングの際に顕著であり,画像のボケの原因となる。そのため,qPETRAはラジアルサンプリングごとのデータを補正することにより,画像ボケの少ない高空間分解能画像を得ることができた(図6)。

図5 Quiet PETRA シーケンスデザイン (参考文献1)より引用改変)

図5 Quiet PETRA シーケンスデザイン
(参考文献1)より引用改変)

 

図6 uTEシーケンスとPETRAシーケンスの違い (参考文献1)より引用改変

図6 uTEシーケンスとPETRAシーケンスの違い
(参考文献1)より引用改変

 

ここで,qPETRAの症例を提示する(図7)。従来のMPRAGEとqPETRAによる3D T1強調画像の比較を示している。静音効果は,従来法と比べて自社比で90%以上低減されていることがわかる。また,qPETRAは静音性だけでなく,prep IRを対象の組織のT1値に合わせたInversion Timeに設定することで,従来よりも高いT1コントラストが得られていることがわかる。

図7 頭部ルーチンMRI 3D T1強調画像

図7 頭部ルーチンMRI
3D T1強調画像

 

今までのMR技術進化の過程において,さまざまな静音技術が開発されてきた。今回,シーメンスは一歩先に進んだ静音技術Quiet Suiteを発表した。われわれの開発コンセプトは,一連のルーチン検査で使用でき,特殊性がなく,静音性が常に担保されることである。これらの技術により,術者と被検者にとって本当の「やさしいMR検査」を実現できると確信している。

 

●参考文献
1)Grodzki, D.M., et al. : Ultrashort Echo Time Imaging Using Pointwise Encoding Time Reduction With Radial Acquisition(PETRA). Magn. Reson. Med., 67, 510〜518, 2012.

 

●問い合わせ先
シーメンス・ジャパン株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
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TEL 0120-041-387
http://www.healthcare.siemens.co.jp/medical-imaging

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