技術解説(シーメンスヘルスケア)

2014年4月号

Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

新技術FlowMotionを搭載したPET・CT装置Biograph mCTの活用

寺田 泰陽(イメージング&セラピー事業本部MIビジネスマネージメント部)

PETなどの機能イメージングでは,分子レベルの検出感度があり,CTやMRIなどの形態イメージングに定量計測をはじめとした補足的な情報を与えることで,さまざまな形で活用されている。例えば,放射線治療計画においては,PET・CTは代謝活動性のあるターゲットボリュームの同定に利用される。また,PETを使用した治療モニタリングや,治療効果判定も注目されている。2010年度より,悪性リンパ腫を含む全がん(早期胃がんを除く)に対し,PETによる病期・転移・再発診断にも保険適用され,PETを活用する環境整備が大きく前進している。図1の症例では,CTでは正常と見なされる領域で,PET・CTでは小さな頸部リンパ節の転移を示しており,治療方針に影響を及ぼした1)

図1 PET・CTによる口腔がん原発巣と頸部リンパ節転移の検出 (画像ご提供:テネシー大学様)

図1 PET・CTによる口腔がん原発巣と頸部リンパ節転移の検出
(画像ご提供:テネシー大学様)

 

■頭頸部腫瘍の治療計画におけるPETの役割と課題

頭頸部腫瘍は,周囲が重要臓器で囲まれており,一般的に外科手術が困難である。同領域の治療は,生命予後とともに機能と形態を温存した治療が可能な放射線治療が有用であり,病期によらず第一選択となる場合が多い。したがって,重要臓器ができるかぎり保持されうる効果的な放射線治療が必要とされる。
放射線治療では,マルチリーフコリメータを搭載した装置が導入されはじめており,高精度なビーム照射が可能である。さらに,最近ではCTによる解剖学的な腫瘍形状のみならず,PETを治療計画に用いることで代謝活動性のある腫瘍領域を同定し,最終的なターゲットボリューム設定に活用されるケースがある。これにより,重要臓器に対する照射リスクを下げ,代謝領域に特定して線量増加(Dose Escalation)を行うなど,効果的な照射に応用されている2)。また,IMRTなどの放射線治療期間中に腫瘍サイズが縮小した場合,定期的にターゲットボリュームと線量分布を再検討する治療計画手法も注目されており3),フォローアップ画像において腫瘍形状の変化を高精度に追跡できる画質が求められている。このように,重要臓器への照射リスクを下げ,照射効果の高い領域を高精度に同定するため,CTと同様PETにおいても高分解能画像が求められる。
また,PET薬剤は腫瘍組織量を同定するFDGが主流であるが,腫瘍細胞の増殖能が高い領域や低酸素症の領域を示すバイオマーカーも研究されており,放射線感受性に応じた照射計画を立てることも期待されている。一般的に,これらのバイオマーカーはFDGより摂取率が低いため,装置性能として高い感度かつ信号雑音(S/N)比が得られるものが望ましいと考えられる。
頭頸部腫瘍の局所再発など再照射の必要性を診断する場合,粘膜が浮腫状になるなど,形態イメージングではわかりづらい症例がある。これに対し,分子レベルの感度を持つPETを用いて,より効果的に転移の有無や腫瘍内の代謝領域の同定が可能である。ただし,PET・CT検査では,転移・再発診断を目的とした全身撮像だけでなく,頭頸部であれば高分解能イメージングが有用であり,S/N比を維持するため撮像時間を延ばした追加撮像が必要となるケースがある。追加撮像に伴う検査時間の増加,CT被ばくの増加などが課題である。

■FlowMotion(速度可変型寝台連続移動方式)を搭載したBiograph mCT Flow

図2 Biograph mCT Flow

図2 Biograph mCT Flow

「Biograph mCT Flow」(図2)に搭載されているLSOクリスタルは,光出力が高く,光減衰時間が短いため,検出応答性能が高くなり,高S/N比を達成している。さらに,設計上のクリスタルサイズに最適な400×400マトリックスを採用することで,等方性を持つ87mm3の高い容積分解能を得ることができる。治療計画では,三次元的な線量分布を計算するため,画像ピクセルの等方性も重要となる。これらの特性により,高い感度かつS/N比で撮像され,治療連携に用いるPET・CTとして最適な高分解能画像を得ることができる。
また,治療期間中または治療後フォローアップ期間中の定量的再現性も重要であるため,“Quanti・QC”を搭載し,装置の安定化を図っている。毎日同じ線源分布を持つ68Ge密封円筒線源を用いて,毎日ノーマライズとクロスキャリブレーションを行い,装置状態を簡便かつ安定的に管理・調整することで,装置の定量的再現性を維持することができる。
新しく開発された速度可変型寝台連続移動技術“FlowMotion”では,寝台を連続移動させながらPET撮像を行えることから,PETの体軸方向視野に制限されることなく,一度の全身撮像の中で,目的臓器ごとに適切な撮像範囲,撮像モード(呼吸同期),撮像時間,再構成条件(マトリックス,後処理フィルターなど)を指定することが可能である。検査時間の増加,CT被ばくを伴う追加撮像を行うことなく,目的の画質が得られることが期待される。
加えて, FlowMotionで撮像した画像では,頭尾にわたる体軸方向全域の感度分布が均一となる。フォローアップ検査のように患者がいったん寝台から降り,再撮像する場合でも,患者の体軸方向のポジショニングに配慮する必要がなくなり,フォローアップ期間の検査時の作業効率と定量的再現性がさらに向上することが期待される4)。また,Biograph mCT Flowのガントリ開口径は78cmであり,固定具を伴う撮像や通常の仰臥位のポジショニングが困難な患者に十分なスペースを提供できる。
このようなFlowMotion技術は,3つのキーテクノロジーに支えられている(図3)。まず,リニアモータ駆動の片持ち式スライディング寝台である。これにより,スムーズで正確な速度制御(0.1~10mm/s)とサブミリメータの位置制御を可能にした。次に,ソリッド・ステート電子回路である。同時計数イベント収集時刻の寝台位置におけるイベントの空間・時間情報(x,y,z,t)を連続的に記録し,TOFや同期信号に対応した大容量のリストモードデータを扱うことができる。最後に,ダイナミックデータプロセッシングであるが,撮像中に視野内で被写体が連続的に移動するため,リング検出器に対する視野内の計数成分が撮像中に変化することを考慮しなければならないが,本技術では連続的に収集されるLine of Response(LOR)ごとのノーマライズ係数を応用することで対応している。

図3 FlowMotion技術を支える3つのキーテクノロジー

図3 FlowMotion技術を支える3つのキーテクノロジー

 

■FlowMotion活用例と治療計画例

1.FlowMotionを用いた頭頸部高分解能撮像を含む全身プロトコル例

一度の全身撮像の中で,高分解能画像が求められる頭頸部範囲に対して,高マトリックス(400×400)の画像再構成,それによるS/N比低下を補う十分な撮像時間を確保するため,低速度モードを指定している(図4)。加えて,頭頸部以外の範囲に対して,リーズナブルな撮像時間(高速度モード)で,200×200マトリックスの画像再構成により,読影に十分な画質を得ることができる。これにより,従来のように全身検査後,高分解能画像に耐えうる十分なS/N比を確保するために収集時間を増加させた追加撮像を行う必要がなく,それに伴う検査時間の増加やCTによる被ばくリスクがなくなる。

図4 FlowMotionにより,一度の全身撮像内で頭頸部のみ高分解能撮像を行い,頸部リンパ節の描出を改善(画像ご提供:ミシガン大学様)

図4 FlowMotionにより,一度の全身撮像内で頭頸部のみ高分解能撮像を行い,
頸部リンパ節の描出を改善
(画像ご提供:ミシガン大学様)

 

2.PET・CTを用いた治療計画例(舌がん)

PET画像のSUVmaxに対する閾値をベースに代謝領域を同定し,ターゲットボリュームを設定している。原発腫瘍とリンパ節領域に高線量を照射する線量計画とし,放射線治療が行われた。放射線治療完了から3か月後に行われた二度目のPET・CTでは,残存や再発腫瘍の兆候は見られなかった(図5)。

図5 FDG PET・CTを用いたターゲットボリューム設定と治療後のフォローアップ経過(画像ご提供:コペンハーゲン大学病院様)

図5 FDG PET・CTを用いたターゲットボリューム設定と治療後のフォローアップ経過
(画像ご提供:コペンハーゲン大学病院様)

 

●参考文献
1)Bruce, E., et al. : Relationship Between Cancer Type and Impact of PET and PET/CT on Intended Management ; Findings of the National Oncologic PET Registry. J. Nucl. Med., 49, 12, 2008.
2)Soren, M., et al. : Molecular Imaging Based Dose Painting ; A Novel Paradigm for Radiation Therapy Prescription, Semin. Radiat. Oncol., 21・2, 101〜110, 2011.
3)Little, M., et al. : Reducing xerostomia after chemo-IMRT for head-and-neck cancer ; beyond sparing the parotid glands. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 83・3, 1007〜1014, 2012.
4)Lodge, M.A., et al. : Noise considerations for PET quantification using maximum and peak standardized uptake value. J. Nucl. Med., 53・7, 1041〜1047, 2012.

 

●問い合わせ先
シーメンス・ジャパン株式会社
イメージング&セラピー事業本部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1 ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:0120-041-387
http://www.healthcare.siemens.co.jp/medical-imaging

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