腹部領域の臨床応用 
吉川  武(神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野)
<Clinical Benefit of Area Detector CT>

2014-10-24


吉川  武(神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野)

本講演では,腹部CT Perfusion(CTP)の最近の進歩と,「SEMAR」の腹部領域における初期経験について報告する。

上腹部CT Perfusionの臨床応用

CTPは,造影剤を注入しながら同一部位をシネ撮影して血流情報を得る方法で,ソフトウエアで解析する。上腹部領域では,肝腫瘍の診断あるいは肝機能評価に臨床応用されている。
肝腫瘍に対しては,形態診断不可能な微小転移の検出や治療効果判定,再発診断,鑑別診断などを目的に行われる。
肝機能評価では,線維化の程度,門脈圧亢進症や肝うっ血の程度・範囲,経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術(TIPS)や部分的脾動脈塞栓術(PSE)の治療判定などを目的に行われており,最近では急性膵炎における壊死領域の予測にも用いられている。

上腹部CT Perfusionの検討

1.肝腫瘍での検討1)

肝腫瘍の血流については,これまでに多くの検討が行われており,転移性肝腫瘍では,腫瘍を含むセグメントは正常な対側葉と比べて全体の血流が上昇しているという報告が多く見られる。
しかし,肝腫瘍の周囲肝実質の血流を評価した報告はないため,当施設にて320列ADCT「Aquilion ONE」を用いて検討を行った。腫瘍,腫瘍周囲(病変の辺縁より10mm厚),正常実質(病変の30mm以遠,原則として別の区域)にROIを取り,これらの領域の血流を各解析間で同一の関心領域を用いて測定した。なお,評価は各領域間で行った。その結果,有意差を持って,腫瘍内および腫瘍周囲の肝動脈血流比(APF)が高値となり,悪性腫瘍が示唆された。腫瘍内および腫瘍周囲の平均通過時間(MTT)は有意差を持って低値となり,良性腫瘍が示唆された。

2.肝疾患群・非肝疾患群の比較2)

肝疾患が疑われた38名(肝疾患群:8名,非肝疾患群:30名,平均年齢63.6歳)を対象に,肝疾患群と非肝疾患群の比較,ならびに肝硬変4名のIVR・放射線治療前後の肝機能を比較検討した。
肝疾患群と非肝疾患群の比較では,肝疾患群で肝動脈血流量,動脈血流比が有意に高く,過去の報告に一致した。また,肝硬変の治療前後の比較では,TIPSやPSE後に肝動脈血流量が増加したこと,放射線治療により門脈腫瘍塞栓が縮小し,肝実質に門脈血流が回復することが確認できた。

3.軽度肝機能障害の評価3)

肝疾患が疑われた58名を対象に肝機能の検討を行った。内訳は,正常肝機能群が35名,肝機能障害群(Child-Pugh分類でAまたはBの軽度障害)が23名である。結果として,肝血流パラメータは差はあるものの有意ではなく,脾臓と胃の血流パラメータに有意差を認めた。このことから,CTPが初期の門脈圧亢進症をとらえられる可能性があることが示唆された。

上腹部CT Perfusionの最適化の検討

CTPのパラメータについては最適値のエビデンスがいまだなく,被ばくや造影効果など課題も多い。われわれはCTPの最適化について検討を行っており,これまでに次のような結果が得られている。

・解析には,常に同じソフトウエアの同じバージョンを用いる。
・肝血流測定には呼吸停止下撮影を推奨
・上腹部臓器の血流測定では,動脈相で3秒ごと以下の撮影を推奨
・肝の血流パラメータは他臓器と比べ造影手法の影響を比較的受けにくい。
・造影剤注入条件は解析理論から決定されてきたが,減量や注入速度低下が可能と考えられる。
 総量21mL・3.5mL/sまでは可能であり,15mL・2.5mL/sを検討中。
・造影剤濃度はある程度高いもの(320mgl/mL以上)を推奨
・造影CT後にCTPを追加することは避ける。

また,CTPは撮影範囲も検討課題であるが,肺領域ではすでに全肺CTPの撮影が可能になっており(W.I.P.),腹部への応用が期待される。

低侵襲CT Perfusionの検討

われわれは,腹部領域でAIDR 3Dを用いて少量造影剤による低侵襲CTPを検討している。造影剤を15mL・2.5mL/sと従来法の半量とし,線量を平均で33mAs,CTDIvol:25.1mGy,DLP:405.2mGy・cmと,従来法の半分以下に抑えて,安定した血流測定を行えるかを検討している。AIDR 3D群10名の検討では,各臓器の血流量の低下は従来法と比べてパラレルに安定した変化であり,動脈血流比は変化がないことから,本手法は臨床応用できる可能性があり,被ばく線量,造影剤量の大幅な低減が期待できる。
低侵襲CTP(80kV,35mAs,造影剤15mL・2.5mL/s)について,量子ノイズ除去フィルタ(QDS)の画像とAIDR 3Dの画像を比較したところ,元画像,Perfusion Mapともに大幅なストリークアーチファクトの改善が認められた。AIDR 3Dは,低侵襲CTPにおいて必須の技術である。
さらに,80kV,20mAs,0.5mm厚という厳しい条件のCTPについて,QDS,AIDR 3D,Full IR(W.I.P.)の元画像を比較したところ,Full IRではAIDR 3Dよりもさらに顕著な画質改善が認められた。Full IRによるPerfusion Mapでも妥当な画像が得られており(図1),今後の開発,応用が期待される。
また,線量,造影剤量を抑えた低侵襲CTPデータからcine CTAも取得でき,腹部でも門脈を含めて30mLほどの造影剤で,高精度のCTAが可能ではないかと考えられる。連続的に撮影するためタイミングを合わせる必要がないことから,造影剤量を抑えることが可能となる。

図1 Full IRによるCTPのPerfusion Map(W.I.P.) 80kV,20mAs,造影剤15mL・2.5mL/s

図1 Full IRによるCTPのPerfusion Map(W.I.P.)
80kV,20mAs,造影剤15mL・2.5mL/s

 

腹部領域におけるSEMARの初期経験

体内金属によるアーチファクトは,画像を劣化させ,読影の妨げとなっている。金属アーチファクトは,金属部分のX線吸収率が高度となるにもかかわらず,FBP法では各検出器のデータが等しいと仮定しているために生じる。これまでもさまざまなアーチファクト低減方法が提案されてきたが,効果が限定的であったり,Dual Energyなど特殊な撮影が必要であったり,再構成に時間を要したりと,解決には至っていなかった。
SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)は,逐次近似画像再構成を応用した新たな金属アーチファクト軽減手法であり,すでに骨軟部や頭頸部などで有用性が示されている。今回,われわれが行った,上腹部領域におけるSEMARの初期的検討を報告する。

1.対象と撮影プロトコル

外科的またはIVR的に挿入された体内金属を有する肝細胞がん患者58名(男性:48名,女性:10名,平均年齢68歳)を対象とした。体内金属は,外科クリップ28名,血管塞栓コイル30名である。経過観察のDynamic CTにおいて,通常の画像再構成にSEMARを追加し,画像を比較した。Aquilion ONEによるWide Volume Scan(3〜4station)で,造影剤は標準的な540mL/kgBW,25秒注入とし,5mmおよび0.5mm厚の横断像と,5mm厚の冠状断MPR像を作成した。

2.評価方法

評価方法は,定量評価と定性評価を行った。定量評価では,通常のCT画像とSEMAR画像上で,金属から2cm以内と金属アーチファクトが見られない部位の肝・膵内のCT値およびSD値を計測した。肝では,artifact index=√(アーチファクト部SD−非アーチファクト部SD)を算出し,これらを通常画像とSEMAR画像で比較した。定性評価は,2名の腹部放射線科医が,肝・膵実質の金属アーチファクトの程度,および脈管の描出に対する影響を5段階評価(1:診断に使用不可〜5:アーチファクトなし)し,通常画像とSEMAR画像で比較して,読影者間の一致を検討した。

3.結果

その結果,SEMARを併用することにより,体内金属周囲のすべての計測部位で平均CT値とSD値が有意に低下しており,アーチファクトが改善していると考えられる。肝artifact indexもSEMAR画像で有意に低かった。また,金属アーチファクトのない部位では,SEMARの有無でCT値とSD値に差が見られなかったことから,SEMARは他部位のCT値に影響を与えないと考えられるが,新たなアーチファクトなどが出現しないか今後検討する必要がある。さらに,SEMARの併用により体内金属周囲のすべての評価部位で,臓器と脈管の描出が有意に向上した。なお,読影者間の一致は良好であった。
SEMARにより,金属アーチファクトは顕著に軽減され,かつ再構成時間は従来とほとんど変わらないことから,体内金属のある症例にはSEMARの使用が推奨される(図2)。

図2 SEMARの有無による金属アーチファクトの比較 SEMARを用いると,膵臓付近のアーチファクトが顕著に軽減されている。

図2 SEMARの有無による金属アーチファクトの比較
SEMARを用いると,膵臓付近のアーチファクトが
顕著に軽減されている。

 

まとめ

CTPは肝腫瘍,肝機能評価に有用であり,腫瘍周囲や門脈系全体の血流測定をすることで,より正確な質的診断や肝機能評価につながる。普及には最適化・標準化が必要であり,現状では固定したプロトコルにて実施する必要がある。また,被ばく線量には常に留意する必要があり,AIDR 3D,Full IRは必須の技術であると言える。そして,少量造影剤を用いた全腹部血流評価により,さらなる低侵襲な検査が期待できる。
SEMARについては,検査実施後に効果的に金属アーチファクトを除去可能であり,腹部においても侵襲的治療後の経過観察に必須の技術であると考えられる。

●参考文献
1)Yoshikawa, T., Kanda, T., Ohno, Y., et al. : CT Perfusion Assessment of Liver Tumors. 97th Annual Meeting of Radiological Society of North America, Chicago, Nov 29, 2011.
 2)Kanda, T., Yoshikawa, T., Ohno, Y., et al.: Perfusion measurement of the whole upper abdomen of patients with and without liver diseases ; Initial experience with 320-detector row CT. Eur. J .Radiol., 81・10, 2470〜2475, 2012.
 3)金田直樹,吉川 武,神田知紀,大野良治,藤沢恭子,根宜典行,神山久信,竹中大祐,北島一宏,杉村和朗:上腹部CT Perfusionによる肝機能の評価.第71回日本医学放射線学会学術集会, 横浜,2012年5月12〜15日.

 

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