循環器領域の臨床応用 
小林 泰之(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座)
<Clinical Benefit of Area Detector CT>

2014-10-24


小林 泰之(聖マリアンナ医科大学放射線医学講座)

16cmの範囲を1回転でスキャン可能な面検出器CTは,心臓と頭部領域のためのCTであろうか? そう思っている人は正しい。心臓と頭部領域にきわめて有用なCTである。そうでないと思っている人はもっと正しい。面検出器CTは全身で有用なCTであり,新たな画像診断の道を切り開くCT装置である。本講演では,面検出器CTがもたらすパラダイムシフトについて説明し,循環器領域における有用性について症例を提示して解説する。

ヘリカルCT vs. 面検出器CT

ヘリカルスキャンは,スキャン時間が長い,ボリュームデータの上端と下端で時相が異なる,ヘリカルアーチファクトの発生,軌道重畳による被ばく増大といった問題があったが,面検出器CTではこれらをほとんど解決できる。第2世代の「Aquilion ONE/ViSION Edition」では,上端と下端で等時相なボリュームスキャンが可能で,かつ,わずか0.275秒でスキャン可能なため,体動や息止め不良例,不整脈に強く,循環器領域にとっては非常に大きなメリットを持つCT装置である。また,AIDR 3Dによる低被ばく化により動態機能検査の臨床応用が可能となり,心臓検査においてきわめて有用である。ヘリカルCTでは対象がスキャン中に決して動いてはいけない検査であるのに対し,面検出器CTではスキャン中にさまざまなものを動かすことで新しい情報を得るという,CT検査のパラダイムシフトを生じさせた。

面検出器CTによる循環器CT検査

1.小児領域

小児循環器領域において,面検出器CTは圧倒的に有用である。面検出器CTでは上端・下端が等時相の画像を高速に得ることが可能であるため,呼吸停止ができなくとも安定した画像が得られ,鎮静剤が不要となる。特に血管奇形など,上下方向の関係を把握する必要がある検査では非常に有用で,面検出器CTは必要不可欠である(図1)。

図1 小児領域のVolume Scan

図1 小児領域のVolume Scan

 

2.超低被ばく冠動脈CTA

面検出器CTは第2世代となったことで,さらなる被ばく低減が可能となり1),低線量(2mSv以下)で撮影した冠動脈CTAでも明瞭な画像を取得できる(図2)。最近では,0.1mSv未満の超低線量冠動脈CTAも報告されており,今後のさらなる低線量化が期待される。

図2 ‌低線量冠動脈CTA(1.39mSv)

図2 ‌低線量冠動脈CTA(1.39mSv)

 

3.不整脈対応冠動脈CTAから呼吸下冠動脈CTAへ

面検出器CTでは,上端・下端が等時相の画像を得られる上に,不整脈を検出して回避しスキャンが可能であることから,不整脈に対応可能である。心房細動(Af)患者でも冠動脈を明瞭に描出することができ,Af患者を対象にした検討でも有用性が報告されている2)
また,呼吸停止ができない症例においても冠動脈CTAが可能である。呼吸停止ができない認知症患者においても3ビートスキャンを行い,ビートごとに画像再構成することにより,静止した冠動脈画像が得られた(図3)。面検出器CTは,呼吸下でも冠動脈CTAが可能な唯一のCTであろう。

図3 ‌呼吸停止不可能な認知症患者の冠動脈CTA

図3 ‌呼吸停止不可能な認知症患者の冠動脈CTA

 

4.冠動脈プラーク評価

冠動脈ではプラーク評価が重要であるが,東芝メディカルシステムズでは冠動脈全体のプラークボリュームを測定してプラーク解析が可能なソフトウエアを開発中(W.I.P)であり,今後は予後評価に有用と考える。
また,冠動脈サブトラクションにより冠動脈の高度石灰化例やステント症例での評価が可能となったが,これも面検出器CTゆえに可能なアプリケーションである。

5.冠動脈CTA+CT Perfusion Study

面検出器CTでは1回転で全心臓を撮影できることから,造影ムラのない心筋画像を収集でき,高精度な心筋Perfusion解析が可能である。当院では,Dynamic Stress Perfusionを行い,5〜10分後にニトログリセリンとβブロッカーを投与し安静時冠動脈CTAを撮影する。すべての検査を合わせても全体の被ばく線量は15〜20mSv以下であり,臨床応用が可能となった。前下行枝対角枝に有意狭窄がある症例を解析すると,対角枝領域に虚血が認められ,薬剤負荷心筋Tlシンチグラフィときわめて良好に相関していた(図4)。

図4 ‌心筋Perfusionと心筋Tlシンチグラフィの比較

図4 ‌心筋Perfusionと心筋Tlシンチグラフィの比較

 

6.シャント血流評価

面検出器CTはシャントの血流評価にも有用で,心房中隔欠損症(ASD)や動脈管開存症(PDA)の血流状態を観察することができる。

7.弁疾患評価

面検出器CTによる4D CTは,僧帽弁や大動脈弁の評価にも有用である。感染性心内膜炎(IE)症例では,大動脈弁に心拍に合わせて動く疣贅(vegetation)が確認できた。また,大動脈弁閉鎖不全症(AR)の症例では,石灰化して肥厚した僧帽弁や,完全に閉鎖しない大動脈弁を確認することができる。
ARでは,閉鎖しない弁口面積とARのグレードの良好な相関が報告されており3),当施設でも弁疾患に対して積極的にCT検査を実施している。さらに,重症大動脈弁狭窄症に対するTAVI術前評価でも重要となる(図5)。
また,僧帽弁は大動脈弁と比べ評価が難しいと言われているが,スキャン速度の向上により評価可能となりつつあり,僧帽弁疾患により心不全を生じた症例で,CTにより弁の異常が診断可能であった症例を経験した。心不全などの評価において,さまざまな病変があることを意識して読影する必要がある。

図5 ‌TAVI術前評価

図5 ‌TAVI術前評価

 

8.心機能評価

近年,面検出器CTを用いてさまざまな心機能評価が行われている。Velocity Mapで心筋の運動速度を解析すると,antero-septal OMI(陳旧性前壁中隔心筋梗塞)では前壁中隔,inferior AMI(急性下壁心筋梗塞)では下壁の運動が有意に低下していることを定量評価でき,局所心機能の正確な評価が可能となっている。
また最近は,超音波やMRIでstrainによる局所心機能評価が行われているが,東芝メディカルシステムズとジョンズ・ホプキンス大学が共同で,strain評価のためのソフトウエア“MTT(multimodality tissue tracking)”を開発している(W.I.P)。もともとシネMRIの定量評価のために開発されたがCTにも適用可能である(図6)。面検出器CTでは心臓領域のトータルな画像診断が可能であることから,今後は多様な情報を活かした新しい診断方法が出てくることが期待される。

図6 ‌局所心機能評価(W.I.P)

図6 ‌局所心機能評価(W.I.P)

 

9.大動脈ステントのリーク評価

腹部大動脈ステント留置後のエンドリーク評価には,面検出器によるDynamic CT検査が有用である。エンドリークの原因を特定して正確にタイプ分類することが可能で,追加治療のための血流情報を得ることが可能である4)
なお,20〜21cm長の腹部大動脈のステント全体を16cm幅の面検出器で撮影するには工夫が必要である。石田らが報告4)しているとおり,上半身を起こした体位やガントリを傾けて撮影することで,16cmを超える体軸方向の撮影が可能となる(図7)。面検出器CTはボリュームスキャナであり,ある一定の方向で撮影しなければならないという制約はない。発想を変えることでさまざまに活用することができると考える。

図7 ‌大動脈ステント術後評価のための撮影の工夫

図7 ‌大動脈ステント術後評価のための撮影の工夫

 

まとめ

Aquilion ONE/ViSION Editionは,臨床で動態機能検査を行うために開発された第2世代面検出器CTである。その特長を活かした画像診断を,臨床で積極的に行っていくことが望まれる。

[謝辞]
聖マリアンナ医科大学放射線科の森本 毅先生,藤川あつ子先生,循環器内科の米山喜平先生,画像診断センターの小川泰良技師,力石耕介技師,立石貴代子技師,川崎幸病院の石田和史技師,信澤 宏先生,東芝メディカルシステムズの山田徳和氏に感謝いたします。

 

●参考文献
1)Chen, M.Y., et al.:Submillisievert median radiation dose for coronary angiography with a second-generation 320-detector row CT scanner in 107 consecutive patients. Radiology, 267, 76〜85, 2013.
2)Pasricha, S.S., et al.:Image quality of coronary 320-MDCT in patients with atrial fibrillation;Initial experience. AJR, 193, 1514〜1521, 2009.
3)Feuchter, G.M., et al.:64-MDCT for diagnosis of aortic regurgitation in patients referred to CT coronary angiography. AJR, 191, W1〜W7, 2008.
4)Koike, Y., Ishida, K., et al.:Volumetric CT angiography for the detection and classification of endoleaks;Application of cine imaging using a 320-row CT scanner with 16-cm detectors. J. Vasc. Interv. Radiol., 25・8, 1172〜1180, 2014.

 

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