Aquilion ONE 胸部アプリケーションの臨床応用 
森谷 浩史(大原綜合病院画像診断センター)
<Technology of Area Detector CT>

2014-10-24


森谷 浩史(大原綜合病院画像診断センター)

本講演では,320列ADCT「Aquilion ONE」を用いた呼吸動態撮影と解析技術について述べる。

320列ADCTによる呼吸動態撮影

320列ADCTでは,寝台を固定して連続撮影を行うDynamic Volume Scanにより,容易に等方性・等時相性の動態立体データを取得することができる。呼吸動態では肺の形態変化を描出することができ,肺がんの胸壁癒着診断や気道計測などで,すでに臨床応用されている。ただし,低線量時の画質向上,定点追跡技術や動態追跡技術,移動量の定量解析技術など,克服すべき技術的課題もある。

多施設共同研究“ACTIve”の成果

当院は,Aquilion ONEを用いて呼吸器領域における臨床的有用性を検証し,エビデンスの確立をめざす,国内8施設による多施設共同研究“ACTIve(Area detector Computed Tomography for the Investigation of Thoracic Diseases)”に参加している。ACTIveのこれまでの成果としては,心電図非同期Wide Volume Scanによりヘリカルスキャンよりも画質向上が可能,心電図同期Wide Volume Scanにより非同期と同等線量で肺野全体の画質向上が可能,縦隔画像においてWide Volume Scanでvolume Xact+を用いることでアーチファクトが低減,通常の胸部CT撮影でAIDR 3Dを用いることで少なくとも50%の被ばく低減が可能,などが挙げられる。また現在,肺がんCT検診を念頭に,超低線量スタディ(0.2mSv)が進行中である。
ACTIveでは,ブタ摘出肺を用いた動態ファントムの実験で非常に高解像度・高分解能な画像が得られ,細気管支内,小葉内の動態が観察できると思われた。また,同じファントムで気道疾患モデルを作成して撮影を行い,気道内に水を注入したモデルでは,気管支内に水が吸引される動態の様子が観察された。静止画像だけではイメージしにくい末梢肺野濃度や肺体積の経時的変化も観察することができ,さらにそれらの変化が時相的・空間的に不均一であることもわかり,さまざまな診断に利用できると考えられる。

呼吸動態撮影法とAIDR 3Dの有用性

当院では,肺がんや縦隔腫瘍における術前の浸潤や癒着の診断,および併存する肺疾患を対象に呼吸動態撮影を行っている。従来は,間欠撮影(6位相)だったが,トラッキングの解析技術が進歩したことから,最近では10〜40mA,0.35s/rot,1呼吸6秒程度で連続撮影を行っている(図1)。

図1 当院における呼吸動態撮影条件

図1 当院における呼吸動態撮影条件

 

動態で観察することで,肺がんの胸壁浸潤/癒着診断であれば,肺が胸壁と独立した移動をしているか(浸潤/癒着なし),固着部を認め病変が振り子状に動くか(浸潤/癒着を疑う)を確認でき,浸潤/癒着を否定する診断が可能である。臨床的に非常に有用な320列ADCTによる動態撮影は,肺以外にも気管や喉頭,頸部血管,腹部大動脈など,さまざまな領域で行われている。管電流50mA程度あるいは管電圧80kVに下げ,数秒間の連続撮影か,長めの時間で間欠撮影を行うのが一般的な撮影法である。
また,動態撮影で非常に役立つのがAIDR 3Dである。低線量で撮影した画像もAIDR 3Dを適用することで,ノイズ除去が可能となる。さらに,複数時相から形態や濃度の変化を解析して補完し,個々の時相の画質改善を図るザイオソフト社の技術“PhyZiodynamics”を併用することで,さらなる画質の向上が可能となる(図2)。このような基礎技術が進歩したことで,臨床でも動態撮影を実施しやすくなっている。

図2 AIDR 3DとPhyZiodynamicsによる動態撮影の画質向上

図2 AIDR 3DとPhyZiodynamicsによる動態撮影の画質向上

 

4D気管支トラッキングの有用性

薬事承認されたばかりの「4D気管支トラッキング」(東芝メディカルシステムズ)は,四次元の気管支データを定量的に解析し,COPDによる気管支形態評価や気管軟化症診断を行うためのソフトウエアである。データから気管支を自動抽出し,観察したい任意の気管支を選択することで断面を自動的に追跡し解析を行う。解析結果は4D表示されるとともに,内腔径や面積を算出し,位相ごとの変化がグラフで表示される。
症例1は現喫煙者の患者で,肺実質内に気腫が目立ち,Flow Volume Curveからはかなり気流の制限があることがわかる(図3)。動態撮影をよく見ると,左右の横隔膜の動きにズレがあることからも気流の制限が疑われる。4D気管支トラッキングで解析すると,左下葉の気管支断面が,呼気時に非常に強く狭窄することが観察された(図4)。
呼吸状態の良い気腫症例と比較すると,気管支の動態がかなり異なることから,気管支動態はFlow Volume Curveや症状と相関する可能性があると考えられる。

図3 症例1の動態撮影画像(120kV,8mAs,AIDR 3D)

図3 症例1の動態撮影画像
(120kV,8mAs,AIDR 3D)

 

図4 症例1の4D気管支トラッキング解析結果

図4 症例1の4D気管支トラッキング解析結果

 

320列ADCTにより可能となった動態解析

PhyZiodynamicsは,動態の観察に非常に優れた技術であるが,これを生かすためには320列ADCTが必須である。320列ADCTによる等方性・等時相性のデータがあってこそ動態解析が可能となる。

1.Velocity map(PhyZiodynamics)
Velocity mapは,速度の速いところを赤く,遅いところを青く表示する(図5 左下)。肺の呼吸動態は静止画像ではわからないため,気流制限の領域に対する動態撮影は非常に有効であると言える。

2.Dynamic ROI(PhyZiodynamics)
Dynamic ROIは,任意のROIを設定すると,そのROIの面積変化をグラフで表示する(図5 右)。肺の局所的な動きの違いを定量的に評価することができる。

図5 Velocity mapとDynamic ROI

図5 Velocity mapとDynamic ROI

 

3.ラングサブトラクション
「ラングサブトラクション」(東芝メディカルシステムズ)は,単純CTと造影CTを高精度にレジストレーションし,差分画像を作成するソフトウエアである。
肺動脈血栓塞栓の症例2では,治療前(図6)は肺血栓により生じた肺野の血流低下領域が明瞭に観察されたのに対し,治療後(図7)は血流が回復していることが観察できた。
高度なレジストレーション技術は,動態解析において非常に有用と思われる。

図6 症例2:ラングサブトラクション(治療前) 120kV,Volume EC,0.35s/rot,0.5mm×64,PF0.828(hp53),AIDR 3D(STD)

図6 症例2:ラングサブトラクション(治療前)
120kV,Volume EC,0.35s/rot,0.5mm×64,
PF0.828(hp53),AIDR 3D(STD)

 

図7 症例2:ラングサブトラクション(治療後) 120kV,Volume EC,0.35s/rot,0.5mm×80,PF0.812(hp65),AIDR 3D(STD)

図7 症例2:ラングサブトラクション(治療後)
120kV,Volume EC,0.35s/rot,0.5mm×80,
PF0.812(hp65),AIDR 3D(STD)

 

まとめ

320列ADCTによる呼吸動態撮影の方法と解析技術を紹介した。撮影法はきわめて簡便であり,気管支トラッキング技術,定点追跡技術は,重要な呼吸動態解析ツールとなると思われる。

 

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