CT検査の金属アーチファクトに対するアプローチ 
井野 賢司(東京大学医学部附属病院 放射線部)
Session 1

2015-12-25


井野 賢司(東京大学医学部附属病院 放射線部)

本講演では,金属アーチファクト低減アルゴリズムである「SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)」の効果について,Dual Energy CTの仮想単色X線画像との比較を含めて,ファントムによる検証結果を報告する。また,整形外科と脳神経外科を中心にした臨床例も紹介する。

金属を含むCT検査の現状とアーチファクト

当院では診断用CT6台のうち,「Aquilion ONE/ViSION Edition」2台,「Aquilion PRIME」,「Aquilion 64」と,4台の東芝社製CTが稼働している。CTの検査件数は1日平均約190件であり,2003年からの11年間で検査数は1.8倍,画像処理件数は1.7倍に増加している。診療科別の3D画像処理依頼件数を見ると,整形外科領域が全体の33%,脳神経外科領域の金属コイルを用いた血管内治療のフォローアップなどが15%となっている。
整形外科の1か月のCT検査のうち,人工関節など体内に金属が留置された割合を調査したところ,238件中115件と48%にも上った。内訳は,脊椎固定術のスクリュー14%,全人工膝関節置換術(TKA)14%,全人工股関節置換術(THA)7%で,術後のフォローアップでの深部静脈血栓症(DVT)なども多い。
CT撮影では,X線減弱係数が突出して高い金属は画像に大きな影響(アーチファクト)を与える。厚いスライス厚で発生するパーシャルボリューム効果,局所的なX線パスでのフォトン不足によるストリークアーチファクト,線質効果により発生するビームハードニングアーチファクト,検出フォトンの大幅な減少・欠落によるダークバンドアーチファクトなど,さまざまな要因が関連している。それぞれの要因に対するアプローチとしては,パーシャルボリューム効果には0.5mm厚などの薄いスライス厚,ストリークアーチファクトにはAIDR 3D,ビームハードニングには一部ビームハードニング補正関数やDual Energy,ダークバンドアーチファクトにはSEMARのような逐次近似を応用した再構成を使うことが有効であると考える。

SEMARとDual Energy CTのアーチファクト除去の検証

SEMARは,逐次近似画像再構成法で用いられるforward projectionと繰り返し処理によって,金属アーチファクトに関係するサンプリングデータを選択的に排除して再構成を行い,アーチファクトを軽減するアプリケーションである。
素材別の金属アーチファクトの除去効果について,SEMARとDual Energy(DE)の仮想単色X線画像(Virtual Monochromatic Image)を比較した。マルチスライスCT評価用テストファントムを用いて,アルミニウム,チタン合金,真鍮を使用して,FBPの120kV,DEの75keV・105keV・135keV,120kV+SEMAR画像データより,artifact index(ストリーク内のROIのSD値/バックグラウンドのROIのSD値)を計測した(図1)。アルミニウムは,DEではFBPで見られたダークバンドアーチファクトが消えているが,SEMARでは残っている。アルミニウムのCT値が低く,SEMARが効きにくいことが原因と考えられる。チタン合金では,DEの高keVではアーチファクトが抑えられ,SEMARではほぼ除去されている。真鍮ではDEでも強いアーチファクトが出ているが,SEMARではほぼ抑えられている。artifact indexでは,アルミニウムはFBPとSEMARに比べて,若干DEの方が低減しているが,チタン合金と真鍮ではSEMARが有意に下がっていることがわかる(図2)。このように,金属の種類(密度)によって適切なアプローチが異なることが示唆される。
チタン合金のスクリューによる脊椎固定術のCT画像(図3)では,通常の撮影ではスクリューの周囲にダークバンド状のアーチファクトが認められるが,DEの135keVとSEMARでは除去されている。ただし,DEではスクリューの周辺のコントラストが低下し,のっぺりした印象を受ける。DEでは高keVになるにつれてアーチファクトは抑えられるが,コントラストが失われる傾向があることに注意が必要である。

図1 素材別金属アーチファクトに対するDEとSEMARの効果

図1 素材別金属アーチファクトに対するDEとSEMARの効果

 

図2 素材別金属の‌FBP,DE,SEMARにおけるartifact index

図2 素材別金属の‌FBP,DE,SEMARにおけるartifact index

 

図3 チタン合金に対するDEとSEMARの効果

図3 チタン合金に対するDEとSEMARの効果

 

人工関節とDVT模擬ファントムによるアーチファクト除去の検証

次に,人工関節コンポーネントを使用したTHA/TKA術後のDVT模擬ファントムを使って,DEとSEMARの効果比較を行った。人工関節コンポーネントは,骨頭部分にコバルトクロム合金,シャフトにチタンを使用し,膝関節にはコバルトクロム合金を使用している。この人工関節とDVTを模したチューブ内に希釈造影剤を入れたものを組み合わせて配置し,DEとSEMARで撮影した(図4)。FBPでは,チタン部分にはダークバンド状の,クロム合金部分は骨頭部分は白く,膝関節部分には黒く抜けたアーチファクトが確認できた。DEでは,チタン部分のアーチファクトは低減されるが,クロム合金からの強いアーチファクトには効果が出ていない。一方,SEMARでは両方のアーチファクトが低減され,造影剤部分のコントラストにも変化がないことがわかる。CNRでもSEMARではアーチファクトが低減されていることが確認できた。
症例1は,THA術後左大腿深部膿瘍だが,SEMARでは人工関節のアーチファクトが抑えられ,膿瘍部分が明瞭に描出されている(図5)。

図4 人工関節コンポーネントとDVT模擬ファントムによるDEとSEMARの効果比較

図4 人工関節コンポーネントとDVT模擬ファントムによる
DEとSEMARの効果比較

 

図5 症例1:THA術後左大腿深部膿瘍

図5 症例1:THA術後左大腿深部膿瘍

 

血管内コイル塞栓術でのアーチファクト除去の検証

脳神経外科領域での金属アーチファクト低減について,ファントムでの検討結果と臨床画像を供覧する。脳神経外科では近年,脳動脈瘤に対する血管内コイル塞栓術が行われているが,塞栓物質としてプラチナが使われることから,術後のCT検査では金属アーチファクトが診断の妨げになっている。SEMARによる金属アーチファクトの低減と,サブトラクション法を組み合わせてファントム実験を行った。図6のアキシャル画像では,上段のFBPでは金属アーチファクトが強く,サブトラクションを行っても血管の外側に強いダークバンド状のアーチファクトが残っている。一方,SEMARでは,金属アーチファクトが除去されて血管の内腔や外側が確認できる。これは6mm径のコイルでも同様である。コイル近傍のartifact indexでも,SEMARとサブトラクションの組み合わせでは,有意に低下していることがわかった。
症例2はAcom動脈瘤コイル術後の症例だが,拡大するとSEMARでは塞栓部位近傍の血管まで明瞭に確認することができる(図7)。

図6 ファントムによる脳動脈瘤コイルのアーチファクト低減効果の比較

図6 ファントムによる脳動脈瘤コイルのアーチファクト低減効果の比較

 

図7 症例2:脳動脈瘤コイル塞栓術術後評価

図7 症例2:脳動脈瘤コイル塞栓術術後評価

 

まとめ

金属アーチファクトに対するアプローチとしては,強いエリアシング効果にはSEMAR再構成による抑制が可能になる。ビームハードニングアーチファクトについては,DEの仮想単色X線画像を利用することで低減できる。また,パスが透過しておらず画像が欠損しているような場合にも,SEMARが有効となる。
高吸収体からのアーチファクト低減にはSEMARが有効となるが,アルミニウムや希釈造影剤などの低密度体,あるいは金属などに比べて低吸収体にはDEを使用するなど,対象に合わせて最適な方法を使い分けることが必要である。

 

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