New Horizon of 4D Imaging(ザイオソフト)

2014年7月号

JRC2014 ziosoft/AMIN Seminar Report New Horizon of 4D Imaging〜超四次元画像PhyZiodynamicsの臨床利用

循環器画像診断におけるPhyZiodynamicsの臨床応用

井口信雄 氏(榊原記念病院循環器内科部長)

井口信雄 氏

井口信雄 氏

第73回日本医学放射線学会総会が、2014年4月10日(木)〜13日(日)の4日間、パシフィコ横浜で開催された。ザイオソフト/アミンは、13日に共催のランチョンセミナー26において、「New Horizon of 4D Imaging〜超四次元画像PhyZiodynamics の臨床利用」を開催した。セミナーでは、陣崎雅弘氏(慶應義塾大学医学部 放射線診断科教授)を座長として、井上政則氏(平塚市民病院放射線科医長)、井口信雄氏(榊原記念病院循環器内科部長)が、本格的な臨床応用が始まったPhyZiodynamics技術による大動脈ステントグラフト、TAVR/TAVIの最新事例を講演した。

 

 

心臓CTを動画としてみる意味

心臓は動く臓器であり、病態をより正確に把握するためには、動画による形態的、動態的な評価が重要である。CTの進歩によって空間分解能、時間分解能が向上し、心臓の壁や弁の動きを解像度の高い動画として評価することが可能になった。また、CTのボリュームデータ(4Dイメージ)では、任意の方向から動きを観察することができ、術前の有用な情報となる。当院では、心臓CTで撮影した画像データをPhyZiodynamicsで処理することで、さらにリアルで詳細な動態解析を行っている。心臓疾患におけるPhyZiodynamicsを用いた動態解析、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR/TAVI)における有用性について述べる。

PhyZiodynamics画像による心臓疾患の評価

PhyZiodynamicsでは、独自の補完技術によってなめらかな動画の作成とノイズリダクションが可能になる。大動脈弁閉鎖不全症では、弁尖の動きや形状によって大きく3つのタイプに分類されるが、このうち弁形成術の適応となるのはタイプ I(Normal leaflet motion)とタイプ II(Increased leaflet mobility or prolapse)であり、弁尖の動きの評価が手術適応の決定につながる。CTの4Dイメージで弁尖の動き、逸脱の様子、石灰化の有無などが評価できるが、これにPhyZiodynamicsを適応することで、よりスムーズで精細な画像で術前評価が可能になる(図1)。また、肥大型心筋症の心筋切除は、術前に心筋切除の場所や範囲を把握する必要がある難しい手術である。心臓外科医は、収縮期の心筋の動きや問題のある部分を1心拍の中で動態として把握することが求められるが、CTによる4DイメージとPhyZiodynamicsによる補完技術によって、動態を任意の方向から観察でき詳細な術前シミュレーションも可能となる(図2)。

図1 PhyZiodynamicsを用いた大動脈弁閉鎖不全症の4Dイメージ

図1 PhyZiodynamicsを用いた大動脈弁閉鎖不全症の4Dイメージ

 

図2 肥大型心筋症の評価 肥大部の様子を4Dイメージで評価可能である。

図2 肥大型心筋症の評価
肥大部の様子を4Dイメージで評価可能である。

 

僧帽弁閉鎖不全症の術前シミュレーション

僧帽弁閉鎖不全症のタイプには、腱索が断裂して逸脱するもの、弁輪部が拡張するものなどがあるが、弁尖が逸脱するタイプの外科治療には人工弁置換術と僧帽弁形成術がある(図3)。弁形成術は手技的には難しい手術だが、当院でも年間約1300件の開心術のうち、最近では120〜130が僧帽弁の形成術となっている。僧帽弁形成術には、弁尖切除、人工腱索再建、弁輪縫縮があるが、人工腱索再建では、切れてしまった腱索に替えて人工腱索を乳頭筋に縫い付ける手術を行う。そのため、術前に弁尖の逸脱部位の診断、乳頭筋の位置と形態の情報が非常に重要になる。3Dなどの心エコーでは、弁尖の逸脱や動きは確認できるが、乳頭筋の評価は難しい。CTデータとPhyZiodynamicsによる4Dイメージでは、手術時と同じサージカルビューで、僧帽弁の逸脱や切れた腱索、乳頭筋の形態や距離などが把握でき、術前シミュレーションが可能になる(図4)。

図3 僧帽弁形成術の方法

図3 僧帽弁形成術の方法

 

図4 僧帽弁後尖の逸脱した重度閉鎖不全症のPhyZiodynamics画像

図4 僧帽弁後尖の逸脱した重度閉鎖不全症のPhyZiodynamics画像

 

TAVR/TAVIでのPhyZiodynamicsによる弁輪部計測

PhyZiodynamicsでは、視覚的な効果だけではなく、動きの中での速度や距離の計測など定量的な評価が可能になる。
経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR/TAVI)は、2013年10月に保険収載され本格的な臨床応用が始まった。TAVIは、経大腿動脈あるいは経心尖アプローチで、大動脈弁に人工弁を留置する治療法である。TAVIの重要なポイントは、弁輪部のサイジングを正確に行うことである。弁輪部に対してデバイスのサイズが小さいと大動脈弁逆流(AR)やデバイスの逸脱のリスクがあり、大きければ弁輪破裂に至るケースがあり致命的なリスクとなる(図5)。TAVIの術後にARがnone/mildなものとmoderate/severeのものでは、予後に明らかな差があることが報告されている。ジャストサイズに合わせるためには、MDCTを用いた弁輪部のサイジングがARを低減することが報告されている。MDCTによるサイジングでは、弁尖のヒンジ部分に合わせて、(1)長径と短径の平均を計測、(2)弁輪部のエリアの面積から計測、(3)円周から算出の方法がある。現在、使用可能な人工弁には直径23mmと26mmのSapien XTがあるが、計測した弁輪面の直径よりも5〜10%+の値が理想的とされており、できるだけ1〜20%+の間とすることが推奨されている。
しかし、実際の手技では23mmと26mmの間のサイズが必要になるケースもあり、その際にはバルーンによる拡張でサイズを調整することになるが、この時には弁輪部の硬さなどを把握することが有用と考えられる。また、SCCT(Society of Cardiovascular CT)のガイドラインでは、TAVI術前のCT撮影に求められる要件として、マルチフェーズのイメージングは必須ではないとされているが、最近の論文では、TAVIの術後に起こるARの因子として、石灰化、アンダーサイズに加えて、弁輪部の1心拍内での変形の程度が重要なポイントだという報告がある1)。したがって、弁輪部の性状や1心拍内の変化を理解することはTAVIの予後のために重要である。
そこで、われわれはPhyZiodynamicsを用いて大動脈弁輪動態解析を行った。弁輪面積から算出した仮想弁輪径は、1心周期の中で大きく変動していることがわかった。特に大動脈弁狭窄がシビアになると、弁輪が最大となる位相も遅れてくることがわかり、PhyZiodynamicsによる解析によって最大の弁輪径や変形の程度が把握でき、動きの解析によって弾力性(エラスティシティ)の評価も可能になると考えられる。
当院では、TAVIの術前には、弁輪計測後にルーチンでPhyZiodynamicsによる解析を行い(図6)、その評価を術前カンファレンスで報告している。

図5 TAVR/TAVIにおける大動脈とデバイスのサイズのイメージ

図5 TAVR/TAVIにおける大動脈とデバイスのサイズのイメージ

 

図6 TAVR/TAVI術前のAnnulus  diameterの評価

図6 TAVR/TAVI術前のAnnulus diameterの評価

 

PhyZiodynamicsによる左心房の評価

左心房については、実際にどのような動きをしているのか、病態にどのように関与しているのかなど、わかっていないことも多く、PhyZiodynamicsによる動態評価での詳細な検討が期待される。CTの4Dイメージで、Wall Motionを含めて観察すると、肺静脈の部分は動きが少なく、前壁側の動きが大きいことがわかる。これをPhyZiodynamicsを用いて、壁の動きの速度(Velocity)を反映させたカラーマップで表示すると、左心房の前側が速く大きく動いていることが認められる(図7)。PhyZiodynamicsによる解析によって、将来的に血栓ができやすいタイプの人の左心房の動きの違いやリモデリングの起こり方など、病態解明にもつながる可能性があると期待している。

図7 左心房の5Dイメージ

図7 左心房の5Dイメージ

 

まとめ

PhyZiodynamicsを用いた動態解析では、実際の形態に近い、リアルな動きを観察することが可能で、循環器疾患の術前の評価として有用であると考えられる。さらに、定量的な動態の解析によって、客観性を持った指標として今後の臨床応用に期待される。これからの循環器領域のCT検査は、PhyZiodynamicsのような4Dイメージを含めて、心臓外科医の術前シミュレーション、心疾患の病態解明、治療効果判定として利用されていくと考えられる。

[参考文献]
1)Masri, A., Schoenhagen, P., Svensson, L., et al.:Dynamic characterization of aortic annulus geometry and morphology with multimodality imaging;Predictive value for aortic regurgitation after transcatheter aortic valve replacement.
J. Thorac. Cardiovasc. Surg.,147,1847〜54,2014.

 

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