セミナーレポート(ザイオソフト)

第52回日本医学放射線学会秋季臨床大会が2016年9月16日(金)〜18日(日)の3日間,京王プラザホテル(東京都新宿区)で開催された。16日に行われたアミン株式会社/ザイオソフト株式会社共催のイブニングセミナーES-1では,九州大学大学院医学研究院分子イメージング・診断学講座教授の渡邊祐司氏が座長を務め,東海大学工学部医用生体工学科教授の高原太郎氏と東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授の長尾充展氏が,「Navigated by Ziostation2 all the way to your destination」をテーマに講演した。

2016年12月号

Navigated by Ziostation2 all the way to your destination

4Dイメージングが導く先進の心機能評価

長尾 充展(東京女子医科大学画像診断学・核医学講座)

本講演では,ザイオソフト社製ワークステーション「Ziostation2」を用いたCTとMRIにおける心機能解析をテーマに,CTは高度な画像補完技術によって高精細な画像処理を可能とする“PhyZiodynamics”と320列ADCTによるCoronary Flow Imagingについて,MRIは心筋タギング法によるストレイン解析と,現在ザイオソフト社と共同開発中のシネMRIによる新しい画像法“Vortex Flow Map”について述べる。

CT心機能解析におけるPhyZiodynamicsの有用性

1.Retrospective ECG gating法における有用性
図1は,retrospective ECG gating法で撮影した冠動脈CTの心筋イメージで,aは日常臨床で心機能解析に用いることが多い10 phase/beatの画像,bはPhyZiodynamicsの50 phase/beatの画像である。低管電圧撮影のため,aではノイズが多いが,bでは時間分解能の向上とノイズ低減が図られている。
図2は,2つの大きなバルサルバ洞動脈瘤のある症例で,右冠動脈(RCA)基部の動脈瘤は特に大きく拍動性にRCAを圧排していたが(a),PhyZiodynamicsを適用した術後の画像では圧排の程度が改善していることが明瞭である1)(b)。

図1 Retrospective ECG gating法で撮影した冠動脈CTの心筋イメージ

図1 Retrospective ECG gating法で撮影した冠動脈CTの心筋イメージ

 

図2 バルサルバ洞動脈瘤症例におけるPhyZiodynamicsの有用性

図2 バルサルバ洞動脈瘤症例におけるPhyZiodynamicsの有用性

 

2.Step and shoot法を応用した新しいCoronary Flow Imaging
冠動脈CT検査は近年,非常に普及しているが,特に中等度狭窄では形態的な狭窄の程度と機能的な異常の有無が必ずしも一致していないことが多い。それを補うために,PETとcoronary CTA(CCTA)のフュージョン画像が用いられるほか,CTによる機能的評価としてプラークの性状評価やtransluminal attenuation gradient解析,CT myocardial perfusion,CT-FFRなどが試みられているが,まだ確立した方法がないのが現状である。そこで,われわれは東芝メディカルシステムズ社製の320列ADCT「Aquilion ONE / ViSION Edition」とPhyZiodynamicsを用いて新しいCoronary Flow Imaging技術を開発した。
PhyZiodynamicsは,4Dイメージの動態補完が可能であり,画像のノイズ低減や空間分解能の向上はもとより,冠動脈の断面に球形の関心領域(VOI)を設定して自動的にデータを追随することができる(Dynamic VOI)。これにより冠動脈と大動脈の正確なtime density curveが得られるため,maximum upslopeを定量解析に用い,上行大動脈の濃度で補正することでcoronary flow index(CFI)を測定する定量的な評価法を提唱している。
そこで,特に中等度狭窄病変の虚血の診断能について,負荷心筋シンチグラフィをゴールドスタンダードとし,Coronary Flow Imagingの画像から狭窄部位の近位側(proximal)と遠位側(distal)のCFIを測定して虚血の診断能を比較した。対象は冠動脈疾患の36名で,少量造影剤(16〜20mL)を4〜5mL/sで投与し,冠動脈のファーストパスをstep and shoot法で心臓全体を20秒間,R-R75%の拡張位相をねらい撮影を行った。
結果を見ると,正常領域,虚血領域,梗塞領域の比較においてproximal CFIはいずれも0.6前後でほとんど差がなかったが,distal CFIは虚血領域で約0.3と有意に低下していた。CFIのカットオフ値を0.39とすると,虚血の診断能は感度100%,特異度75%であった2)
Coronary Flow Imagingは,ほかにもさまざまな利用法が考えられる。例えば,ステント留置術後にステント内再狭窄を起こした症例では,coronary flow imageにて側副血行路からの血流を明瞭に描出可能であった(図3)。このため,冠動脈バイパス術後の評価にもcoronary flow imageを利用できると考えている。また,川崎病性冠動脈瘤の症例では,shear stressの低下や血栓による冠動脈瘤遠位側の血流低下がcoronary flow imageで明瞭に描出でき3),これらが川崎病で問題となる心筋梗塞を引き起こす要因の一つと判断できた。

図3 ステント留置術後症例のcoronary flow image(ステント内再狭窄)

図3 ステント留置術後症例のcoronary flow image
(ステント内再狭窄)

 

3.Coronary Flow Imagingの新たな可能性
Ziostation2には,冠動脈の支配領域ごとの心筋の重量を定量的に絶対値で表示できる“CT冠動脈支配領域”が搭載されており,ほぼ自動的に解析可能である。そこにCFIを重ねることで,心筋の単位重量あたりの冠動脈血流を定量的に解析できると考えている(図4)。また,アンモニアPETにFFRや安静時の心筋血流評価とPhyZiodynamicsによるCFI解析を加えることで,心筋や冠動脈の新しい機能解析が可能になると期待している。

図4 Coronary Flow Imagingの新たな可能性

図4 Coronary Flow Imagingの新たな可能性

 

MRIによる心機能解析

1.心筋タギング法によるストレイン解析
Ziostation2はMRIの解析においても動きに強く,特に心筋の自動トレースに優れた“MR心筋ストレイン解析”では,タギング画像にて左室の解析はもとより,右室も含めてタグの追跡が可能である。
図5は拡張型心筋症のタギング画像と,心筋ストレインを心周期トレースしたグラフであるが,同期性障害がありストレインカーブのピークにズレが認められる。こうした症例の治療法の選択や予後の判断にdyssynchronyの評価はきわめて重要であり,それが自動で行えることは非常に大きなメリットがある。
また,MRIでは,右室容積や右室機能評価が求められることが多い。例えば慢性血栓塞栓性肺高血圧症では,治療前後の右室と左室の収縮のタイミングをそれぞれグラフにし,時間的なズレを検討することで,治療後に同期性障害がなくなっていることが確認できる。心エコーでは右室と左室を同時に評価できないが,本法はMRIの視野の広さを生かした優れた解析法であると言える4)

図5 拡張型心筋症の心筋タギング法によるストレイン解析〔LV dyssynchrony(+)〕

図5 拡張型心筋症の心筋タギング法によるストレイン解析
〔LV dyssynchrony(+)〕

 

2.シネMRIを用いた新しい画像法Vortex Flow Map
われわれは,先天性心疾患の経過観察において古い画像データを活用するために,シネMRIによる乱流の評価に取り組んでいる。
単心室のフォンタン術後症例では,フォンタン経路の血流解析は心エコーや他のモダリティでは十分に行うことができないため,MRIへの期待が高まっている。また,フォンタン手術では,心房性不整脈やうっ血肝,タンパク漏出性胃腸症などの遠隔期合併症への対策や治療法が確立されておらず,MRIを含めた画像診断の貢献が期待されている。
フォンタン経路を描出する手法に4D Flow Imagingがあるが,ソフトウエアが高額なほか,撮像に10分程度を要する。そこで,より簡便な方法として,われわれは現在,ザイオソフト社と共同でシネMRIを用いたVortex Flow Mapを開発している。シネMRIでは,血流が速いところから遅いところに流入する際に黒く描出されるdark flow phenomenonが見られるが,Vortex Flow Mapではflowの同心円状の動きや速度変化,特に乱流のある部分をカラー表示し,定常波で血流の乱れの少ないところを黒く表示する。
図6は,フォンタン術後症例であるが,4D flow image(a)にてshear stressが強くなっている部分は,Vortex Flow Map(b)でもカラーで表示されている。low voltage map(c)の低電位領域とVortex Flow Mapでカラー表示された乱流の位置は60%程度一致しており,今後も検討を重ね,より精度を高めていきたいと考えている。
また,Vortex Flow Mapを用いたこれまでの検討で,フォンタン術後に乱流のある症例ではうっ血肝が少ないが,血流が停滞している症例ではうっ血肝を来し,肝硬変になりやすいことがわかっている。

図6 フォンタン術後症例におけるVortex Flow Mapの有用性

図6 フォンタン術後症例におけるVortex Flow Mapの有用性

 

3.Ziostation2によるMRI心機能解析の評価
Ziostation2は,特に右心機能や両心室の機能評価を再現性良く行うことができ,シネMRIを用いたVortex Flow Mapによる乱流評価も可能になりつつある。肺高血圧症や成人先天性心疾患においては心室と血管のカップリングの評価は非常に重要であるが,Ziostation2によってより容易に評価可能になると考えている。

●参考文献
1)Nagao, M., et al., Heart Vessels, 2016(Epub ahead of print).
2)Nagao, M., et al., Eur. J. Radiol., 85・5, 996〜1003, 2016.
3)Shimomiya, Y., et al., SCCT, 2015.
4)Yamasaki, Y., et al., Eur. Radiol., 2016(Epub ahead of print).

 

長尾 充展(Nagao Michinobu)

長尾 充展(Nagao Michinobu)
1990年 愛媛大学医学部卒業。98年 同大学院医学研究科博士課程卒業。同医学部附属病院,松山成人病センター,愛媛県立今治病院などを経て,2010年 九州大学医学研究院分子イメージング診断学講座准教授。2016年〜東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授。

 

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