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第50回日本磁気共鳴医学会大会が,2022年9月9日(金)〜11日(日)に名古屋国際会議場(愛知県名古屋市)で開催された。学会共催ランチョンセミナー17「心臓MRIを極めつくす! 〜実臨床で使えるノウハウ」(ザイオソフト株式会社/アミン株式会社)では,真鍋徳子氏(自治医科大学総合医学第一講座放射線科/自治医科大学附属さいたま医療センター放射線科)が座長を務め,加藤真吾氏(横浜市立大学大学院医学研究科放射線診断科)と石田正樹氏(三重大学大学院医学系研究科放射線医学)が講演した。

2022年12月号

心臓MRIを極めつくす!〜実臨床で使えるノウハウ

講演2:心筋パフュージョンMRIを活かす:実臨床での心筋血流定量評価

石田 正樹(三重大学大学院医学系研究科放射線医学)

本講演では,心筋パフュージョンMRI検査の意義について述べた上で,ザイオソフトのワークステーション「REVORAS」を用いた心筋パフュージョンのMRI定量評価について紹介する。

心筋パフュージョンMRI検査の意義

冠動脈に中等度以上の狭窄がある場合の経皮的冠動脈形成術(PCI)の適応判断では,冠血流予備量比(fractional flow reserve:FFR)計測が行われるが,有意狭窄を非侵襲的に診断する血流イメージングの一つとして負荷心筋パフュージョンMRIがある。負荷心筋血流イメージングの診断能に関するメタ解析では,負荷心筋血流MRIの診断能は負荷心筋血流PETと同等に高いことが報告されている1)。また,FFRをリファレンスとして各モダリティの診断能を比較したメタ解析では,負荷心筋パフュージョンMRIは他モダリティに比べて高い診断能を有していると報告されている2)。さらに,負荷心筋パフュージョンMRIによる治療方針決定に関する検討では,安定狭心症患者918名をFFRガイド群と負荷心筋パフュージョンMRIガイド群に無作為割付して治療方針を決め,1年間の主要血管イベント(死亡,心筋梗塞,血行再建)の発生率を検証した。その結果,両群に差は見られず,治療方針決定における負荷心筋パフュージョンMRIガイドの非劣性が示され,その有効性が明らかとなった3)。このように,負荷心筋パフュージョンMRIは冠動脈有意狭窄の診断および治療方針決定において有用であり,FFR陽性を非侵襲的に評価することが可能な検査であると言える。
冠動脈疾患疑いで負荷心筋パフュージョンMRIを含む心臓MRI検査を行った患者を対象に行われた追跡調査では,検査結果から虚血の程度を4段階に分けて予後を見ると,明確に層別化できたことが報告されている4)。負荷心筋パフュージョンMRIは,冠動脈狭窄の検出だけでなく,重症度を示すマーカーとしても有用であると言われている。
このようなエビデンスを基に,米国のガイドラインでは胸痛の評価において急性冠症候群が否定された急性胸痛,あるいは安定胸痛の患者に対しては,冠動脈疾患の有無にかかわらず負荷心筋パフュージョンMRIを含む血流イメージングを第一選択とすることが示されている5)
症例を提示する。50歳代,女性,胸部不快感,脂質異常症,高血圧の症例で,心臓MRIを施行した(図1)。遅延造影(LGE)では前壁,中隔,中心中部から心尖部に内膜下梗塞が認められた。パフュージョンでは,安静時と比べ負荷時でより広い範囲に血流異常が認められ,心筋虚血もあることが示された。冠動脈造影(CAG)でLAD #7,#8付近に非常に強い狭窄が確認され,治療を行っている。

図1 ‌50歳代,女性,胸部不快感症例の心臓MRI

図1 ‌50歳代,女性,胸部不快感症例の心臓MRI

 

REVORASを用いた心筋パフュージョンMRI定量評価

従来,負荷心筋パフュージョンMRIは視覚評価が行われてきたが,読影には経験が必要で客観性に乏しいとの指摘があり,客観的な評価方法が検討されてきた。現在は心筋血流の絶対値を評価できるソフトウエアが市販されるようになり,定量評価が可能になっている。

1.心筋パフュージョンMRI定量評価の概要
心筋パフュージョンMRIの定量解析には,左室血液プール(arterial input function:AIF)の時間信号曲線(TIC)と心筋セグメント(myocardial output function)のTICが必要である。当院における負荷心筋パフュージョンMRIを含む心臓MRIのプロトコールを図2に示す。パフュージョンは,飽和補正用のガドリニウム(Gd)造影剤1/10希釈検査(0.003mmol/kg)の後,通常量(0.03mmol/kg)の造影剤を用いて負荷時,安静時の検査を行っている(Dual Bolus法)。造影剤濃度と信号強度は直線的な関係となることが理想だが,実際には造影剤濃度が高くなると飽和により信号強度が低下する非直線性があるため,希釈検査のデータを用いてAIFを飽和補正するために,この手法を用いている。
心筋血流定量解析ソフトウエアでは,補正したAIFとmyocardial output functionを用いたパトラック解析によりK1(Gd造影剤の血管から間質への速度定数)を定量し,K1をextraction fraction(Gd造影剤の心筋抽出率)で除することで心筋血流量(MBF)を定量化する。

図2 ‌当院における心臓MRIのプロトコール

図2 ‌当院における心臓MRIのプロトコール

 

2.REVORASによる心筋パフュージョンMRIの定量解析
REVORASでの定量解析では,希釈検査データと安静時,負荷時のデータを読み込むと,20秒程度で自動的に安静時,負荷時の内膜縁と外膜縁がトレースされる。トレースの精度は高く,各フェーズを確認すると高い追従性を有していることがわかる。次いで,希釈検査データにROIを指定し,飽和補正に利用するTICを取得する。そして解析ボタンをクリックすると,短時間で心筋血流解析の結果を得られ,ポーラーマップ表示によるMBFと,TIC,セグメントごとのTICが表示される(図3)。解析結果は心筋全体だけでなく,心筋を内膜側,外膜側に分けたデータも切り替えて表示することができる。

図3 ‌REVORASによる心筋パフュージョンMRIの定量解析結果

図3 ‌REVORASによる心筋パフュージョンMRIの定量解析結果

 

3.症例提示
症例は60歳代,女性,労作時胸痛の症例で,LGEで前壁の中隔上部に微小な内膜下梗塞が認められ,負荷心筋パフュージョンではLADの虚血が示唆された。CAGで#6に75%狭窄が認められ,FFRは0.79であった。
本症例についてREVORASで心臓MRIの定量解析を行った。シネMRIの解析では,マニュアルでは算出しにくいPFR(最大充満速度)などの指標も得られ,LGEの解析では半定量的にLGE領域を確認できる。心筋パフュージョンMRIの定量解析では,負荷時のMBFポーラーマップでLAD領域(前壁,中隔から心尖部)の血流に著明な低下が確認された(図4 右上)。定量的に結果が示されることで,経験の少ない医師でもLADの虚血を指摘できるだろう。

図4 ‌60歳代,女性,労作時胸痛症例の心筋パフュージョンMRIの定量解析結果

図4 ‌60歳代,女性,労作時胸痛症例の心筋パフュージョンMRIの定量解析結果

 

4.Single Bolus法の開発
当院でCTデータから心臓チャンバーのGd造影剤濃度のピークを検討したところ,0.1mmol/kgのGd造影剤を4mL/sで投与した場合の左室のピーク濃度は6.9±2.7mMであった6)。この結果から,Gd造影剤(0.03mmol/kg)をボーラス注入したときの左室のピーク濃度を2.1mMとした場合,Gd造影剤のsaturation factorは1.67となる。これを固定値として解析した場合(Single Bolus法)の結果について,希釈検査のデータを用いたDual Bolus法の解析結果と比較した。水PETとそれぞれのMBF,心筋血流予備能(MPR)の相関を評価した結果,多少のバラツキはあるもののDual Bolus法とSingle Bolus法で大きな差はなく,Single Bolus法でもDual Bolus法と同等の定量性を持った解析が可能と考えられた。
これらのアルゴリズムについては当院と藤田医科大学で共同研究を行い,その成果がREVORASに実装されている。REVORASでは,ボタン1つでDual Bolus法とSingle Bolus法による解析結果を切り替え表示でき,両者のMBFのポーラーマップを比較すると同等の結果が得られていることがわかる(図5)。

図5 ‌Dual Bolus法(左)とSingle Bolus法(右)のMBF解析結果

図5 ‌Dual Bolus法(左)とSingle Bolus法(右)のMBF解析結果

 

心筋パフュージョンMRI定量評価の今後の展望

負荷心筋パフュージョンMRIによる冠動脈疾患の診断能を評価したCE-MARC研究のサブスタディでは,エキスパートによる視覚評価とソフトウエアによる定量評価の診断能は同等であると報告されている7)。また,冠動脈疾患患者,高リスク患者,正常ボランティアを対象に心臓MRI定量解析を行った検討では,視覚評価では認識が困難だった高リスク患者と正常ボランティアの心筋血流の差異を見いだせる可能性が示唆されている8)。定量解析により,心筋パフュージョンMRIの意義の一つであるリスクの層別化が可能になると考えられる。当院でのREVORASによる解析結果でも,視覚評価では困難な層別化が定量評価により可能になることが示唆されており,今後検証を行う必要があると考える。

まとめ

負荷心筋パフュージョンMRIは有意冠動脈狭窄の検出に優れた方法であるが,読影にはある程度の経験が必要となる。定量評価法を用いるとエキスパートによる視覚評価と同等の診断能が得られるとの報告が多数ある。心筋血流定量評価を行えるソフトウエアが市販されたことで,読影のハードルが下がり,より詳細な心筋虚血の重症度評価が可能になると期待される。

●参考文献
1)Richard, A.P., et al., Circ. Cardiovasc. Imaging, 8(1), e002666, 2015.
2)Danad, I., et al., Eur. Heart J., 38(13), 991-998, 2017.
3)Nagel, E., et al., N. Engl. J. Med., 380(25), 2418-2428, 2019.
4)Kwong, R.Y., et al., J. Am. Coll. Carudiol., 74(14), 1741-1755, 2019.
5)https://scmr.org/general/custom.asp?page=chestpain_guideline
6)Ishida, M., et al., J. Magn. Reson. Imaging, 29(1), 205-210, 2009.
7)Biglands, J.D., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 11(5), 711-718, 2018.
8)Hsu, L-Y., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 11(5), 697-707, 2018.

 

石田 正樹

石田 正樹(Ishida Masaki)
1999年 三重大学医学部卒業。松阪中央総合病院,三重大学を経て,2009年 King’s College London留学。帰国後,三重大学医学部放射線医学講座,2020年より准教授。SCMR Japan Working Groupにて教育活動を推進。

 

 

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