Zio Vision 画像の本質を診る(ザイオソフト)

第31回日本心血管インターベンション治療学会学術集会(CVIT2023)が,2023年8月4日(金)〜6日(日)に福岡PayPayドーム,ヒルトン福岡シーホーク(福岡県福岡市)で開催された。学会共催のランチョンセミナー36「AS患者に対するTAVIのありかた~長期治療戦略を練る~」では,井口信雄氏(榊原記念病院)が座長を務め,田中 旬氏(三井記念病院循環器内科)と坂本知浩氏(済生会熊本病院心臓血管センター循環器内科)が講演した。

2023年10月号

AS患者に対するTAVIのありかた ~長期治療戦略を練る~

講演2:大動脈弁狭窄症の長期治療戦略

坂本 知浩(済生会熊本病院心臓血管センター 循環器内科)

人生100年時代を迎え,ASに対する治療戦略を十分に考慮する必要がある。特にTAVIの適応が若年化するに伴って,2回目,3回目を考慮した長期の治療戦略が求められている。本講演では,TAVIを施行するに当たり,術後20年のロードマップを策定するためのライフタイムマネジメント戦略について述べる。

済生会熊本病院でのTAVIスクリーニング

当院では,2013年にカテーテル室に構築したハイブリッド手術室(HOR)でTAVIの治療をスタートした。その後,2018年に手術室内にもHORを構築し,現在は2部屋でTAVIを行っている。HORには,多軸透視・撮影システム「ARTIS pheno」(シーメンスヘルスケア社製)を導入し,ザイオソフトの「Ziostation2」を活用している。
当院のTAVI治療は紹介から1か月以内に施行することを原則としている。ASは非常に予後の悪い疾患で,これまでTAVI待機中に亡くなる事例も経験しており,できるだけ治療までの時間を短縮することを心掛けている。TAVI治療までの流れを図1に示す。TAVI施行日前30日以内に行う外来初診では,CT撮影を含めて1日でスクリーニングが終了するように設定している。6日前のTAVIカンファレンスでは診療放射線技師がZiostation2で作成した3D解析の結果を基に検討を行う。TAVI前日の拡大TAVIカンファレンスでは,TAVIを行う術者全員が参加して計測やプランの検討を行い最終的な治療方針を決定する。
当院では,Ziostation2に搭載されたTAVI治療のアプリケーションである「TAVR術前プランニング」を活用してプランニングを行っている。また,実際にTAVIを実施する際には,CTデータからZiostation2で作成したボリュームレンダリングの画像をX線透視画像上にフュージョンさせることで,大動脈壁に触れることなく安全にTAVIを実施することができている(図2)。Ziostation2で作成した画像をX線透視画像側にフュージョンさせることで,弁尖接合線の底(nadir)の位置や左右の冠動脈の位置を確認でき,造影をせずに術前のCT画像のみで位置合わせが可能である。バルーン拡張型の「サピエン3 Ultra RESILIA」(エドワーズライフサイエンス社製)では,人工弁の透明のバンドを目標に留置する「ルーセントラインテクニック」を用いるが,ルーセントラインと目標位置にラインを引いた画像を合わせることで目標位置に留置することができる。また,自己拡張型の人工弁でも,cusp overlap angleをあらかじめZiostation2で表示して確認することができ,留置の際の位置関係の把握に役立っている。

図1 済生会熊本病院のTAVIスクリーニングから治療までの流れ

図1 済生会熊本病院のTAVIスクリーニングから治療までの流れ

 

図2 Ziostation2によるTAVI治療支援

図2 Ziostation2によるTAVI治療支援

 

TAVI適応の拡大と若年化

日本人の平均寿命は男性81.80歳,女性87.70歳で,特に女性は世界で最も長生きする人類だと言える。今後のAS患者に対するTAVI治療も長寿社会に対応する必要がある。
TAVIが始まった当初は外科的大動脈弁置換術(SAVR)が困難か,高リスクの患者が対象だったが,2019年の米国心臓病学会(ACC)において発表された低リスク患者を対象にした2つのランダム化比較試験(RCT)をきっかけに適応は大きく変化した。サピエンを用いたPARTNER3試験1),Evolut(日本メドトロニック社製)を用いたEvolut low risk試験2)で,SAVRと比較して同等あるいは良好な結果が報告され,TAVIは中等度から低リスク症例まで,すべてのリスク症例でSAVRの成績を上回ることになった。2つのRCTの患者の年齢は,いずれも70歳代前半であり,これを受けて欧米ではTAVIの症例数が急増し,2019年にはすべてのSAVRの件数を上回った。

術後20年のロードマップのための選択

TAVIはすべてのリスク症例でSAVRの成績を上回っており,標準のAS治療であると言える。さらに,日本においては超高齢化という背景を含めて,その施行に当たっては,術後20年のロードマップをあらかじめ策定した上で進める必要がある時代となった。
TAVI弁も外科弁と同様に時間の経過と共に劣化する。人工弁を長期に機能させる上で必要なことは,(1) 心内膜炎を予防すること,(2) 広い有効弁口面積(effective orifice area:EOA)を確保することである。EOAの確保については,自己拡張型のTAVI弁が有用と言われている。特に,supra-annularタイプの弁は,低リスク患者に対して行われたNOTION試験で8年経過しても低い圧較差が保たれていると報告されている3)。現在,国内で使用できるsupra-annularタイプの自己拡張型はEvolutシリーズのみである。

1.TAVIの長期治療戦略〜2回の場合
こういった自己拡張型TAVI弁を使っても,予後が長期化し10年以上が経過すると2つ目の人工弁の留置を考える必要がある。その際の基本技術として,現在は,留置されたTAVI弁をexplant(抜去)して改めて外科手術(SAVR)を行う「THV explant and SAVR」(図3 a),最初にSAVRを行い次にTAVIを行う「TAV-in-SAV」(b),そしてTAVIにもう一度TAVIを行う「TAV-in-TAV」(c)である。
THV explant and SAVRは,TAVI弁のexplantが難しく,死亡率もTAV-in-TAVと比較して2倍4),あるいは3倍5)という報告がある。TAVI弁の抜去が難しいことを考慮するとTAV-in-TAVが選択肢となる。当院では2014年に初回のTAVIを行った症例で,6年後に圧較差やBNPの上昇を認め,息苦しさを訴えるようになったことで,保険適用前だったがTAV-in-TAVを施行した症例を経験した。術後は症状が軽快し,この治療法の可能性を強く実感した。TAV-in-TAVについては,国内ではサピエン3のみが保険適用(2023年4月)になっている。

図3 2回の人工弁治療を考える際の基本技術

図3 2回の人工弁治療を考える際の基本技術

 

2.TAVIの長期治療戦略〜3回の場合
低リスク症例に拡大し若年化するAS治療の長期戦略として,「二度あることは三度ある」ことを考えると3回目の可能性を考慮する必要がある。3回目を視野に入れた治療戦略としては,最初に外科治療を行う「SAVR-TAVR-TAVR」,TAVI後にexplantして外科治療を挟み3回目にTAVIを行うサンドイッチストラテジーの「TAVR-SAVR-TAVR」,3回ともTAVIを行う「TAVR-TAVR-TAVR」が挙げられる。2021年の論文では,サンドイッチストラテジーが一番ベネフィットが高いと述べられている6)
TAVIのexplantは,海外の報告では死亡率が20%に及ぶとされているが,患者背景を見ると心内膜炎など重症で緊急度の高い病態が多く,生体弁機能不全(BVF)で行われているのは1割程度であり,explantの予後については注意深い検討が必要だと考える。しかし,TAVI弁のexplantは難易度の高い手術であることには変わりはなく,複数回の治療を考慮した場合には,最初のTAVI治療の際に自己拡張型ではなく,よりexplantが容易なバルーン拡張型の弁を選択することも必要だと思われる。

世代別のライフタイムマネジメント戦略

重症ASの長期の治療戦略は,世代別にライフタイムマネジメント戦略を考えることが必要である(図4)。85歳以上は「シングル」ストラテジーで1個のTAVI弁で生涯を終えていただく。それよりも若い75歳から85歳では,「タブル」ストラテジーでTAV-in-TAVを適応する。現在,国内では「サピエン-in-サピエン」しか選択肢がないが,今後より広い弁口面積が確保できるTAVI弁が保険適用されることを期待している。そして,さらに若年の75歳以下では,「トリプル」ストラテジーが考えられる。最初の治療はバルーン拡張型のTAVI弁で行う。TAVI弁が劣化してexplantが必要になっても,前述のとおり自己拡張型に比べて抜去が容易である。抜去後には外科弁を留置し,これが劣化した場合にはTAV-in-SAVを行うという戦略である。
また,世代別ではなくデバイス中心の戦略も考えられる(図5)。「TAVI first strategy」「SAVR first strategy」「TAVI only strategy」である。TAVI only strategyでは,今後のTAVI弁の長期成績次第では「TAV-in-TAV-in-TAV」や,自己拡張型のTAVI弁で生涯1個の人工弁ですむことも期待できる。

図4 世代別のライフタイムマネジメント戦略

図4 世代別のライフタイムマネジメント戦略

 

図5 デバイスを中心とした治療戦略

図5 デバイスを中心とした治療戦略

 

まとめ

人生100年時代を迎え,われわれはASの治療戦略を十分に練っておく必要がある。若年者にTAVIを選択する場合,生涯で3回から4回の治療が想定される。しかしながら,現時点では若年者を対象としたRCTは存在せず,個々の患者の人生観やライフスタイルに応じたテーラーメードのAS治療を準備する必要があると言える。

●参考文献
1)Mack, M.J., et al., N. Engl. J. Med., 380 : 1695-1705, 2019.
2)Popma, J.J., et al., N. Engl. J. Med., 380 : 1706-1715, 2019.
3)Jørgensen, T.H., et al., Eur. Heart J., 42(30): 2912-2919, 2021.
4)Percy, E.D., et al., JACC Cardiovasc. Interv., 14(15): 1717-1726, 2021.
5)Tang, G.H.L., JACC Cardiovasc. Interv., 16(8): 927-941, 2023.
6)Yerasi, C., et al., JACC Cardiovasc. Interv., 14(11): 1169-1180. 2021.

 

坂本 知浩

坂本 知浩(Sakamoto Tomohiro)
1987年熊本大学医学部卒業。2001年熊本大学医学部附属病院循環器内科講師。2006年済生会熊本病院心臓血管センター循環器内科医長。2015年同部長。2021年から済生会熊本病院副院長。

 

 

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