VARIAN RT REPORT

2018年2月号

ここまでできるがん放射線治療シリーズ No.2

FFFビームを用いた肺がんに対する体幹部定位放射線治療

遠山 尚紀(東京ベイ先端医療・幕張クリニック医療技術部医学物理室)

はじめに

FFFビーム(Flattening Filter Free beam)とは,治療装置ヘッドに付属する平坦化フィルタ(FF)を利用せず照射するビームである。照射する線束の平坦性を犠牲にする代わりに高線量率の照射が可能となるため,1回線量の大きい定位照射で利用することで,治療時間の短縮と照射中の患者位置精度の向上が期待される。バリアンメディカルシステムズ社製の「TrueBeam」では,FFあり6MV(6MV-FF),FFなし6MV(6MV-FFF)で,それぞれ600MU/min,1400MU/minの線量率で照射可能である。また,10MV-FFFでは2400MU/minに設定可能である(図1)。
本稿では,TrueBeamおよび放射線治療計画装置「Eclipse」を利用した,FFFビームを用いた肺がんに対する体幹部定位放射線治療(stereotactic body radiation therapy:SBRT)について概説する。

図1 平坦化フィルタ有無による線量分布への影響

図1 平坦化フィルタ有無による線量分布への影響

 

治療計画の変遷:アイソセンタ処方から辺縁処方,D95%処方へ

肺がんに対するSBRTの治療計画は,多くの施設では日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の放射線治療グループによる臨床試験「JCOG0403」を参考に,計画標的体積(PTV)に対してリーフマージン0.5cmを付加した照射野を設定し,アイソセンタに対して48Gy/4回の線量処方を実施している1)。これに対して,近年では,リーフマージン0cmまたはマイナスマージンを用いて,PTVの辺縁処方やD95%処方を実施している施設が増加している。図2に,両者の線量分布の比較を示す。リーフマージンを小さくすることで,標的への線量を増加させながら,肺への線量を同程度または低減することが可能となる。しかし,線量勾配がより急峻となるため,cone beam CT(CBCT)などを利用した標的照合による高い照射位置精度が要求される。また,MU値,照射時間共に増加する。

図2 肺がんSBRTにおけるアイソセンタ処方(a)とD95%処方(b)の違い

図2 肺がんSBRTにおけるアイソセンタ処方(a)とD95%処方(b)の違い

 

FFFビームとFFビームの線量分布の違い

図3に,肺がんに対するSBRT(固定8門照射,48Gy/4回 D95%線量処方)における6MV-FFと6MV-FFFを利用した治療計画の線量分布を示す。エネルギー,MU値以外すべての照射パラメータは同一である。両者を比較すると,線量分布,線量容積ヒストグラム(DVH)共に同等の線量分布である。同様に,合計照射MUは,6MV-FF,6MV-FFFそれぞれ2489MU,2484MUとほぼ同じである。しかし,両者では線量率が異なるため,照射時間が4.1分(6MV-FF),1.8分(6MV-FFF)と,FFFビームの方が約60%の照射時間の短縮となる。

図3 肺がんSBRTにおけるFFビーム(a)とFFFビーム(b)の違い

図3 肺がんSBRTにおけるFFビーム(a)とFFFビーム(b)の違い

 

肺がんSBRTの実際

当クリニックの肺がんSBRTを紹介する。通常の方針として,6MV-FFFを利用した強度変調回転放射線治療(VMAT)による肺がんSBRTを実施している。処方線量はPTV D95%に対して48Gy/4回もしくは50Gy/5回としている。

1.治療計画用CT撮影
一般的に,肺がんは呼吸性移動を伴うため,SBRTを実施する場合,呼吸性移動対策を施す。当クリニックでは,VMATを利用するため,標的へ照射される線量へのinterplay効果2)による影響を小さくするため,呼吸性移動に伴う標的の移動長が0.5cm程度以下になるよう,呼吸同期照射,息止め照射,自由呼吸下照射を使い分けている。吸引式固定具作成後,4D-CT撮影を実施し,(1) 自然呼吸時の移動長の確認,(2) 外部信号(RPM)が標的位置を代替可能か,(3) 呼吸同期照射は可能か,などの判断をしている。呼吸同期照射が不適と判断した場合は,呼気(または自然呼気)息止め撮影を3回実施し,息止め照射となる。

2.治療計画
呼吸同期照射の場合,4D-CT画像のうち照射する呼吸位相の平均画像(AIP画像)を線量計算に利用している3)。線量計算法はEclipseのAcuros XB(dose to medium)を用い,不均質補正あり,計算サイズ0.2cmである。一般的にcoplanar 2arc(回転角:患側180°)を利用している。標的,リスク臓器の線量制約は,「JCOG1408」を参考に設定し,PTV D2%は125〜130%となるように計画している。また,内的標的体積(ITV)の最低線量は可能なかぎり高くなるように最適化している(図4)。

図4 肺がんSBRTにおける固定多門照射(a)とVMAT(b)の違い

図4 肺がんSBRTにおける固定多門照射(a)とVMAT(b)の違い

 

3.位置照合(IGRT)
照射室内で患者固定後,「ExacTrac」(ブレインラボ社製)を用いた骨を基準とした6軸位置照合を行い,最終的にCBCTを用いた標的照合を実施している。CBCTは,自由呼吸撮影,息止め撮影を照射方法により使い分けている。近年,TrueBeamを導入する施設の多くは,バリアンメディカルシステムズ社製の純正6軸治療寝台「PerfectPitch 6degree of freedom(6DoF)couch」(オプション)を利用可能なため,より迅速に画像誘導放射線治療(IGRT)が可能である。

4.照射中監視,照射後位置照合
照射中は,VisionRT社製「AlignRT」を用いて患者体表面を監視している4)。監視中に体表位置が系統的に変位する場合は,再度CBCTにより標的位置の確認を実施する。実際に標的位置が変位した例があり,照射中の監視の重要性を再認識している。照射終了後に再度CBCTを撮影し,intrafractional organ motionの確認を実施している。一般的に,適切なITV設定後,ITVにセットアップマージンとして0.5cmを付加しPTVを設定する施設が多いと予想されるが,当クリニックの経験から,標的照合時の照射前後で標的が0.5cm以上変位する症例はまれである。

まとめ

肺がんSBRTの治療計画の変遷,当クリニックにおける肺がんSBRTの実際を紹介した。FFFビームは,線量校正法の提案,学会・研究会等での教育などにより臨床利用しやすい環境が整った。また,本邦において高齢者の増加により定位放射線治療や,1回線量3Gy程度の寡分割照射などが増加することが予想され,FFビームよりFFFビームの方が治療時間の短縮が可能となる。今後,照射中の患者の体動,標的の監視がより重要となる。

●参考文献
1)放射線治療計画ガイドライン 2016年版. 日本放射線腫瘍学会編,東京,金原出版,2016.
2)Ong, C.L., Dahele, M., Slotman, B.J., et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 86・4, 743〜748, 2013.
3)Tian, Y., Wang, Z., Ge, H., et al., Med. Phys., 39・5, 2754〜2760, 2012.
4)http://www.visionrt.com/application/sbrt/

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