データセンター間接続による相互接続性と持続可能性の確保で大都市での地域完結型医療をめざす東京総合医療ネットワーク
目々澤 肇 氏(公益社団法人 東京都医師会 理事(医療情報担当))

2018-2-15


目々澤 肇 氏(公益社団法人 東京都医師会 理事(医療情報担当))

東京都医師会が主導する地域医療ネットワーク「東京総合医療ネットワーク」が,2018年4月に本稼働する。大病院の都心集中や,都内全域・隣接県まで患者が動くという東京都の特殊性を踏まえ,異なるベンダー同士のデータセンター間を接続することで,相互接続可能な,参加しやすい仕組みが構築された。双方向の医療連携を推進することで,患者さんの安全や医療における課題の解決といった効果が期待される。

大病院が都心に集中する東京都の特殊性に対応したネットワーク構築が必要

ICTを利用した地域医療ネットワークは,日本各地,特に九州や中国,四国地方でかなり進化しています。地域の医療機関をつなぐICTネットワークは,大学の医局や中核病院が牽引役となって構築されていくという側面がありますが,東京都は医療機関が非常に多く,リーダーシップを取るような大病院が山ほどあるという点で,ほかの地域と大きく異なります。そのため東京都では,都内全体をカバーするようなネットワークではなく,大学病院や中核病院が地域の診療所とつながる1対nの病診連携ネットワークが,おのおのに構築されてきました。
また,東京都の場合は,患者さんの動線が特殊です。急性期には都心の大病院に集中し,慢性期・回復期になると多摩地区や隣接する他県など周辺の医療機関に広がっていきます。そのため,都内全域,さらには隣接県までも参加できるような融通の利く,持続可能なネットワークが必要との考えが,東京総合医療ネットワーク構築の根底にあります。

連携サーバのデータセンター間接続によるベンダーを越えた相互接続

私が医師会活動に携わる前,フィンランドの国民医療情報システム「KanTa」を知り,東京都でもこういったシステムがそのうちできるのではと期待していましたが,なかなか実現しませんでした。その後,東京都医師会の仕事をするようになってわかったのが,多くの病院が電子カルテを導入しているにもかかわらず,病院同士をつなげずにスタンドアローンで稼働しているという事実でした。
そこで,2015年に地域医療連携システム構築検討委員会(委員長:林 宏光日本医科大学付属病院教授)を設置し,ネットワーク構築の検討をはじめました。病院にはさまざまなベンダーのシステムが導入されているため,病院同士をつなげるには,ベンダーの異なる地域医療連携システムを相互接続する必要があります。病診連携の多くでは,エスイーシー/NECのID-Linkと富士通のHumanBridgeが実装されていますが,これらの連携サーバはNTTデータの専用回線でIHEに則りデータセンター間接続されています。実際に接続できるか検証するため,HumanBridgeを採用している日本医科大学付属病院とID-Linkを採用している等潤病院で実証実験を行ったところ,相手側の電子カルテの記載を, HumanBridgeとID-Linkで表示できることが確認できました。
そして,東京都の支援を受け,東京都病院協会に運営委託する形で2017年9月に東京総合医療ネットワーク運営協議会が正式に発足しました。10月に医療機関やベンダーを対象に説明会を開催し,170団体(うち医療機関143施設),350名の参加をいただきました。2018年1〜3月に8病院でモデル運用を行い,4月から本稼働を開始します。
ネットワークには,原則としてIHEに準拠した地域医療連携システムを導入していれば参加可能です。ネットワーク独自の患者IDは設けず,紹介状などを介して病院ごとの患者IDを交換することで,患者のひも付け(名寄せ)を行います。電子カルテを有する病院がデータ開示施設となり,患者さんの同意の下,病院や診療所は開示施設のデータを閲覧することができます。異なるベンダーのシステム間の場合,現状では処方オーダ,注射オーダ,検体検査結果を閲覧可能です。本稼働となる4月からは,さらに入退院情報,アレルギー情報,病名も閲覧できるようになる予定です。

持続可能性の高い仕組みによる情報共有で安全性の確保と医療課題の解決を図る

東京総合医療ネットワークの特長は,データセンター間接続を利用することで,ネットワークのためのサーバを新設せずに連携できる点です。これにより,設備投資を必要とせず,維持費を抑えることもできるため,参加しやすく,将来にわたって持続可能性の高いネットワークとすることができます。補助金を使って地域医療ネットワークを構築したものの,更新時の経費調達に悩み,継続が困難になっている運営組織も多くあると聞きます。そのため,東京総合医療ネットワークでは補助金は最小限にして,できるだけ医療機関の参加費で運営を賄えるような仕組みとしました。診療所は地域中核病院の地域医療ネットワークに参加していることが前提条件となりますが,東京総合医療ネットワークとしては,入会金などはなく,病院が月額8000円,診療所が月額2500円で参加可能です。
ネットワークで患者情報を共有することは,何よりもまず患者さんの安全につながりますし,医療における課題の解決にも貢献します。ネットワークで閲覧できる情報に制限はありますが,紹介状に記載された以上の情報を得ることができますし,医師からすると検査結果と処方薬がわかれば,診察した医師が何を考えているかは十分に理解できます。同じ情報に基づいた適切な診療が,医療機関をまたいでも提供可能となり,患者さんだけでなく医療機関側の安全・安心にもつながります。さらに,ポリファーマシーの防止,重複検査などの防止による医療費の適正化,ICTがもたらす効率化による医療従事者の労働負担軽減など,多くのメリットが期待されます。

n対nの双方向連携も視野に日本標準となりうるネットワークをめざす

2025年に向けて地域包括ケアシステムの構築が急がれています。ほかの地域では,地域医療ネットワークで介護まで連携する仕組みを構築しているところもありますが,東京総合医療ネットワークは医療連携のためのネットワークとして運用していきます。電子カルテの情報は高いセキュリティが求められるものであり,必ずしも介護で利用するデータとも言えません。介護では,特に多職種間コミュニケーションが大切になるため,SNSなどを活用したネットワークが有用だと考えられます。実際,都内でも複数のSNSネットワークが動いています。SNS利用についてアンケートをとったところ,7割近くの人が個人所有のデバイスを利用していることもわかり,この点からも切り分けが必要だと考えました。
また,診療所などからアップローダを用いて情報を公開することは予定していませんが,IHEに準拠したクラウド型電子カルテからデータを開示できないかの検討を始めています。これが可能になれば,n対nの双方向連携が実現します。このような輪を広げていけば,将来的には日本中の医療機関でデータを参照し合うことも夢ではないのではないかと考えています。
当面は,モデル運用とそれに続く本稼働をきちんと展開していくことが重要です。HumanBridge,ID-Link以外の異なるベンダー間の相互接続は検証していきますが,医療機関ごとに使用環境もさまざまなので課題も出てくると思います。説明会では,多くの方に興味を持っていただき,問い合わせも多くありました。参加については,動き出すまで様子見といった施設も多いかと思いますので,私たちは逐一経過報告をしながら,ネットワークへの参加を募っていきたいと思います。
これからの医療,これからの世代は,ICTネットワークを活用して情報共有していくことが必須です。そういった医療のあり方を皆さんに理解していただけるように,私たちも情報を発信していきます。東京総合医療ネットワークは,将来的に日本標準にもなりうるものと自負しています。今後の進展にぜひご注目ください。

 

(めめざわ はじめ)
1981年獨協医科大学医学部卒業。医学博士。日本医科大学附属第一病院内科医局長,日本医科大学内科学第二講座講師,日本医科大学附属千葉北総病院脳神経センター副所長などを経て,1999年医療法人社団茜遥会目々澤医院を継承。2011〜2014年江戸川区医師会理事,2013年より東京都医師会理事を務める。

 

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