書評:磁気共鳴スペクトルの医学応用 ─MRSの基礎から臨床まで─

2012-3-16


磁気共鳴スペクトルの医学応用 ─MRSの基礎から臨床まで─

本邦最高の執筆陣による待望のMRS解説書決定版!

生体の代謝物質情報を非侵襲的に得ることができる MRS(MR spectroscopy)。
高磁場装置の普及や技術革新を機に, 改めてMRSへの期待が高まるいま,基礎から臨床までをわかりやすく解説します。MRSの発展と普及は本書から。

著者:成瀬 昭二(元・京都府立医科大学助教授・准教授(脳神経外科・放射線医学))
編著:
梅田 雅宏(明治国際医療大学医療情報学ユニット教授)
原田 雅史(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部放射線科学分野教授)
田中 忠蔵(前・明治国際医療大学脳神経外科学教授)

 

書 評

荒木 力 先生  山梨大学大学院医学工学総合研究部放射線医学講座教授

このほど成瀬昭二先生監著,梅田雅宏,原田雅史,田中忠蔵先生編著による「磁気共鳴スペクトルの医学応用-MRSの基礎から臨床まで-」が上梓された。MRSにはなじみが薄い方々もおられると思うが,本来MRSはMRIに先行して研究され,31Pや1Hなどの化学シフトにより生体の代謝を明らかにする手段として使われてきたのである。MRIの黎明期には形態のみならず,「生体の代謝がin vivoで明らかになる」と期待されたのは,このMRSを画像化するということに他ならなかったのである。
われわれも1990年代に小型の動物実験用MRS装置とMRI臨床機を組み合わせて,肝臓や脳のMRSを研究したことがあるが,なかなか臨床に寄与するところまではいかなかった。いつの間にか,実験機は廃棄になり,MRI臨床機でMRSデータを集める者もいなくなってしまった。MRIとMRSは離別してしまった。
MRIはその多様性を生かして臨床診断装置として発展してきたが,代謝のin vivo描出という当初の大きな期待を裏切って,結局は形態学の域を十分に脱することができたとはいえない。それはMRSが,その後,脳腫瘍の放射線壊死と再発の鑑別や前立腺癌の診断における有用性をほぼ確立してきたとはいえ,臨床医の当初の期待にこたえてきたとはいえないからである。
しかし,その間,ずっとMRSの臨床応用を研究されてきた人々がいる。冒頭に挙げた監著者,編著者ならびに本書を執筆された先生方である。そして,その成果をまとめたのが本書である。3T装置の普及により格段に分解能が向上したMRSを基礎から勉強してみたい,臨床MRSがどこまで来ているのか知りたいという方々に最もふさわしい一冊である。MRSがMRIのルーチンに組み入れられる日,そしてMRSを知らないとMRI装置が宝の持ち腐れになる日が遠くないことを暗示する一冊である。

 

書 評

小林祥泰 先生  島根大学学長

この本を読むと,その昔成瀬先生が,日本で殆ど最初の臨床用MRIを導入され,画像診断だけでなく機能的MRI(fMRI)に応用すべく,日本で初めての研究に取り組まれていた頃を思い出す。今から思えば,極めて低磁場のMRIで,よくあれだけの研究をされたものと感心している。当時私も,0.2TのMRIで日本初の脳ドックを始めており,また,1.5TになってからfMRIもやってきたので,そのご苦労が良く分かる。
その後,血流変化から代謝を測定可能なMRSの研究にご自身が化学シフトされ,1995年にMRSのテキストを出版され,そして17年後に,最新情報を詰め込んだ本書が出版されたことは,この分野の研究者にとって大変意義深いものである。脳機能画像では循環と代謝は切り離せないものであり,測定原理と限界を熟知された成瀬先生でなくてはまとめられない,基礎から臨床までを網羅したMRS研究者のバイブルのような本である。
データの信頼性を担保するため,データ発表の際にはコイルと測定対象との位置関係,およびスタックプロットをきちんと明示することが基本であることを示され,より良いスペクトル計測法,データ処理のコツを研究者のために事細かに記載されている。私も脳循環の研究をしていたので,ヒトの脳MRSマッピングがここまで進んだことに感銘を受けている。血栓溶解療法が普及し,ペナンブラの早期同定がt-PA適応判定に重要になってきた現在,このMRSがもっと短時間で出来るようになると,より正確な治療対象判定が可能になると思われる。
また,ミトコンドリア異常症などの診断に有効なのは当然としても,脱髄や白質ジストロフィーのデータから,脳ドックや外来で高齢者では極めて頻度の高いMRI上の虚血性白質病変でどの程度脱髄変化が起こっているのかといった,質的診断にも応用が期待される。この点に関してはあまり注目されていないようであるが,脳ドックにおいて,白質病変をBinswanger型血管性認知症に進行する白質病変とそうでないものに区別することが出来る可能性もある。さらに,びまん性肝臓疾患の非侵襲的な経時的変化観察も,C型肝炎やNASHなどでは有用であろう。また,骨格筋のMRSは,マッカードル病などの先天性glycogen phosphorylase欠損症などの非侵襲的診断に,神経内科はもっと活用すべきであろう。
今後のMRSの活用を考える上でも,大変参考になる本である。


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