経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)

2018年12月号

経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)

GE Healthcare Japanのデジタル戦略

多田荘一郎(GEヘルスケア・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)

多田荘一郎(GEヘルスケア・ジャパン株式会社代表取締役社長兼CEO)

GEでは,創業当初からイノベーションによる社会の課題解決に取り組んできた。そして,GE自体も常に改善を続けている。本講演では,GEの改善活動が顧客の価値創造に貢献していることを紹介する。

イノベーションで課題を解決

GEは,1878年にトーマス・エジソンが創業した。エジソンの名を有名にした白熱電球は,当初40時間しか寿命がなかった。そこで,エジソンは,白熱電球の長寿命化を図るために,フィラメントの素材に石清水八幡宮の竹を使用した。これにより,白熱電球は長時間使用できるようになり,エジソンは世界から夜をなくしたと言われるようになった。その後もGEは,オーブントースターやコーヒーメーカーなどを世に送り出し,人々の生活を変えてきた。このように,GEはイノベーションで社会の課題を解決してきた企業である。
GEは,自らの課題解決にも取り組んできた。かつては巨大な組織であるため意思決定に時間を要し,機会損失が発生していたが,現在は「小さく早く」始めて,不確実性を下げる“FastWorks”を全世界で進めている。また,専用のアプリケーションを開発し,周囲からの気づきや頻繁なコーチングで従業員の成長を継続的にサポートする“Performance Development(業績促進)”による「GE@PD」を2017年度から開始した。さらに,プロセスのバラツキを標準化して,デジタル技術によりリアルタイムに可視化することで行動変容を促し,改善のスピードを上げる「Brilliant Factory」も進めている。

プレシジョン・ヘルスの実現に向けて

GEはこれからも,検査・診断・治療・予後において効率的な医療を提供するために,プレシジョン・ヘルスを推進していく(図1)。検査・診断ではプレシジョン・ダイアグノスティックス,治療ではプレシジョン・セラピー,予後ではプレシジョン・モニタリングとして,患者を中心としたデータの集約と分析を進める。
プレシジョン・ヘルスには,アカデミアなどのステークホルダーとのパートナーシップが重要である。併せてオープンアーキテクチャなどの技術,そして,プラットフォームも大切である。GEは,今後も「競争」ではなく「共創」によって,パートナーシップとプラットフォームを築き,プレシジョン・ヘルスの実現をめざす。

図1 プレシジョン・ヘルス─GEヘルスケアのビジョン

図1 プレシジョン・ヘルス─GEヘルスケアのビジョン

 

データの可視化とAIをベースにしたデジタル戦略

GEでは,プレシジョン・ヘルスの実現に向けて,データの可視化とAIをベースにしたデジタル戦略を展開する。例えば,Brilliant Factoryで得られた知見を基に,医療機関向けに「Brilliant Hospital」として提供している。そのプログラムの一つ「Asset Performance Management」は,超音波診断装置などの医療機器にセンサを取り付け,稼働状況のデータを収集・分析して資産効率を向上させるものである(図2)。すでにこのプログラムを採用した施設では,数千万円単位でコストを削減できたという成果が得られている。不要な装置を売却することで,無駄な保守料も削減でき,さらに効率の良い装置や診療科を洗い出すことで,財務効率を高めることも可能となる。
また,医療データ分析サービスの「Applied Intelligence」も,医療機関内で発生するデータを分析して,課題とそれを解決するための業務・経営指標を可視化し,業務改善を支援する(図3)。可視化することで医師や看護師などの医療職の行動変容を促し,コミュニケーションツールとしても有用である。
GEは,AIについても,3つのアプリケーション領域で開発を進めている(図4)。まず,“Image-Base Analytics”として,目的別にテーラーメード医療の研究を支援するプログラムを開発している。この開発には,ベンダーを問わないアーキテクチャが求められ,事例としては「VNA(Vendor Neutral Archive)」や「Centricity 360 Suite」がある。2つ目の“Operational Analytics”では,医療機器の最適な配置や医療従事者の働き方改革などを支援するもので,Asset Performance Managementや「Command Center」といった事例がある。3つ目の“Clinical Analytics”は,ディープラーニングによりデータを分析するもので,プレシジョン・モニタリングとApplied Intelligenceが例として挙げられる。
さらに,GEは,画像診断ワークフローの質と効率の向上をサポートするために,AIの実装も進めている。RSNA 2017で参考出品した“Intelligent Imaging Machines”は,ポータブルX線撮影装置に搭載され,緊急度や重症度の判断を支援する。また,現在開発中の“Imaging Related Clinical Context(IRCC)”は,電子カルテや病理レポートシステムなどから読影に必要な情報を自動抽出し,レポートシステムに表示する。

図2 Asset Performance Managementによる資産の運用改善

図2 Asset Performance Managementによる資産の運用改善

 

図3 Applied Intelligenceを用いたオペレーションと経営の改善

図3 Applied Intelligenceを用いたオペレーションと経営の改善

 

図4 3つの重要なAIアプリケーション領域

図4 3つの重要なAIアプリケーション領域

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