セミナーレポート(日立製作所)

日本超音波医学会第86回学術集会が2013年5月24日(金)〜26日(日)の3日間,グランキューブ大阪(大阪市)にて開催された。2日目に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー15では,近畿大学医学部消化器内科学の工藤正俊氏と大阪赤十字病院消化器内科の大﨑往夫氏を座長に,東京医科大学消化器内科の今井康晴氏と,近畿大学医学部消化器内科学の矢田典久氏が講演した。

2013年8月号

日本超音波医学会第86回学術集会ランチョンセミナー15 肝疾患に対する超音波診断の現状〜今後の展望

Real-time Tissue Elastographyの現状と今後の展望

矢田 典久(近畿大学医学部消化器内科)

びまん性肝疾患では,肝線維化評価が非常に重要である。肝生検による評価がスタンダードであるが,侵襲的であり,サンプリングエラーを起こすという問題がある。非侵襲的な評価方法としては,血清マーカーやエラストグラフィがあるが,血清マーカーは肝線維化以外の影響を受けやすい。また,エラストグラフィも,一部の装置では肝線維化以外の影響を受けることが知られている。
本講演では,超音波エラストグラフィについて概説するとともに,Real-time Tissue Elastography(RTE:日立アロカメディカル社)の肝線維化診断法としての有用性について解説する。

■超音波エラストグラフィの分類

超音波エラストグラフィは,「何を測定するか」の測定物理量で2つに分けられ,相対的なひずみを描出するStrain imagingと,剪断弾性波の伝播速度を測定するShear wave imagingとに分類できる。
乳腺や前立腺では,がんが正常な組織に比べて硬い(ヤング率が高い)ことが知られている。Strain imagingは,その相対的なひずみを描出する方法として,診断率の高さが有用視されている。一方,生体においては硬さが剪断波の伝播速度の2乗の3倍に等しくなる関係が成立するが,Shear wave imagingは,剪断弾性波の伝播速度を測ることで硬さを算出する手法である。
組織に圧力を加えると,硬い組織より軟らかい組織の方が大きくひずむ。Strain imagingのひとつの方法であるRTEは,相対的に変位を空間微分してひずみ量を算出し,硬い部分を青く,軟らかい部分を赤く,256階調でリアルタイムに表示することができる(図1)。

図1 RTEの原理と肝での測定方法

図1 RTEの原理と肝での測定方法

 

■肝臓におけるRTE測定方法

肝臓のRTEを測定する際には,肋間にプローブをあて,心臓の拍動で生じる肝臓の相対的なひずみ画像を得る。RTEは,腹水の影響を受けずに測定することができるが,大きな脈管やacoustic shadows,多重反射やpoor penetrationといったアーチファクトがあることが知られている。これらのアーチファクトを避けることが撮像法のコツであるが,観察をしにくい場合には,肋間を変えたり,できるだけ皮下組織の薄い肋間,軟らかい肋間を選ぶことで対応することができる。また,肋骨や肺がかぶらないように,皮下組織の構造物の影響を考えることも重要である。
さらに解析フレームの選択においては,心電図同期では左室拡張末期,ストレイングラフでは下向き最大波のタイミングが,良好なフレームを得やすい。
C型慢性肝炎の症例では,肝線維化が進行するにつれて青い領域が増え,テクスチャの乱れが生じることがわかる(図2)。藤本らも,青い領域をスコア化したLiver Elasticity Scoreと線維化に高い相関性があると報告している1)

図2 C型肝炎症例におけるRTEと線維化の関係

図2 C型肝炎症例におけるRTEと線維化の関係

 

■RTEの基礎的工学的研究

椎名らは,肝線維化モデルを用いて,RTEと線維化の相関についての基礎的(工学的)研究を行っている2)。まず,肝線維化の構造モデルを作成し,それを用いた有限要素法による解析結果と,同モデルから得られるRTE推定結果を比較したところ,一致度が高かったことから,RTE画像の変化が肝線維化による変化そのものをとらえていることを工学的に証明した。

■RTEの客観的評価法

われわれは,Liver Elasticity Scoreよりも客観的な評価を行うため,RTEからLiver Fibrosis Index(LF Index)を算出した3),4)。LF Indexは,HCV患者と健常ボランティアから9つの特徴量を算出し,組織学的な線維化診断と合わせて,肝線維化を予測する重回帰式を計算したものである。
さらに,LF Indexを用いてvalidation studyを行った。245名の肝炎患者を対象に集計したところ,肝線維化(F stage)が上昇するにつれLF Indexも上昇し,非常に高い相関性が認められた。一方で肝臓の炎症(activity grade)とLF Indexとの相関性は認められなかった。また,肝線維化診断能の検討でも,F2以上,F3以上,F4の診断でのAUROCが0.8,0.865,0.846と,非常に高い数値を得られている。さらに,LF Indexと線維化を示す血清マーカー〔血小板,AST/ALT,AST-to-platelet ratio index(APRI),FibroIndex〕のROC曲線を比較した検討では,F4やF3以上の診断でLF Indexは非常に高い数値を得られ,F2以上でも他のマーカーと同様に高い数値を得た。
このstudyで得られた各線維化ステージ診断におけるAUROCは,これまでのFibroScan(Shear wave imaging)での報告と同等であった4)
さらに,サポートベクタマシンを用いた検討では,F1以上0.916,F2以上0.868,F3以上0.915,F4 0.897と,肝線維化診断において非常に高いAUROCを得られている。

■炎症,黄疸,うっ血の影響

Shear wave imagingは,炎症や黄疸,うっ血の影響を強く受けることが知られている。炎症,黄疸,うっ血の影響をFibroScanがどのように受けるかについて,以下に症例を示す。

●症例1:自己免疫性肝炎(図3)

初診時のFibroScanの数値は14.4kPaと,肝硬変のような硬さを持っていた。FibroScanのデータは経過途中が抜けているが,再燃時に15.7kPaと高い数値を示し,プレドニゾロン(PSL)内服により速やかに7.6kPaまで半減していることが見て取れる。
一方,RTEは,このような経過中においても1.8前後の非常に安定したLF Index値であった。実際にこの症例は,線維化としてはF2であり,FibroScanでは線維化を正しく評価できなかった。

図3 症例1:自己免疫性肝炎

図3 症例1:自己免疫性肝炎

 

●症例2:慢性B型肝炎再燃(図4)

再燃が発見された時点では,ALT 200〜300U/L,ビルビリン 20mg/dl前後と高かったが,エンテカビル(ETV)とプレドニゾロンの併用により,ALTが漸減した。経過中,FibroScanは27,35.3kPaと非常に高い数値を保っていたが,治療により漸減し,15kPa前後をキープするに至った。この間,RTEは1.42から1.6,1.7程度のLF Index値であり,線維化は組織学的にはF2ないしF3であった。この症例でも,FibroScanは高すぎる数値を出してしまい,線維化を正確にとらえられなかった。

図4 症例2:慢性B型肝炎再燃

図4 症例2:慢性B型肝炎再燃

 

●心不全の影響

Colliらが心不全患者におけるFibroScanによる肝硬度の変化について検証したところ,患者入院時に高かった肝硬度が心不全の治療により低下することが報告されている5)
このように,Shear wave imagingによる測定では,肝線維化だけでなく,炎症や黄疸,うっ血なども加味されたものが数値として表示される。一方,RTEは単純にひずみを測定するため,炎症,黄疸,うっ血の影響を受けずに,肝線維化を評価することができる(図5)。

図5 RTEは炎症・黄疸・うっ血の影響を受けない

図5 RTEは炎症・黄疸・うっ血の影響を受けない

 

以上により,剪断波伝播速度が大きいことは,肝線維化領域が大きいこととは必ずしも一致しない。FibroScanやShear wave imagingのひとつであるVirtual Touch Quantification(VTQ)は数値で表示されるため非常に扱いやすいが,正しい肝線維化を求めるのには必ずしも適しておらず,誤った情報を与えかねない。
他方,RTEは肝線維化の診断には非常に理想的な方法である。今後は,より正確な定量法が求められる。

■進行中のRTE研究

われわれは現在,厚労省科研費研究にて,RTEを中心としたエラストグラフィの研究を行っている。(1)RTE画像の正確な定量化診療支援ソフト開発,(2)RTEによる肝線維化定量的評価法の精度の確認,(3)RTEによる慢性ウイルス性肝疾患患者における肝発癌・門脈圧亢進症の発現予測に関する前向き研究という,医工・産学連携を用いた3つのテーマで行っており,平成25年度までの3年間で終了する予定である。

■おわりに

Strain imagingにおける組織のひずみ計測方法は複数あるが,空間相関法(スペックルトラッキング法)は演算量が膨大であり,位相差検出法(ドプラ法)は半波長を超える大きな変異の計測にはエイリアシングにより誤差が生じるといった短所がある。
一方で,RTEで用いられる複合自己相関法は,非常に高速で,かつ誤差が少ない計測方法であり,演算量も少ないため,リアルタイムで画像を取得できスペースを取らない。
日立アロカメディカル社では,ポータブル超音波装置「Noblus」にもRTEを搭載した。この装置の登場により,ハイエンド装置の導入が難しい小規模病院やクリニックでも,エラストグラフィを行うことができる時代になったと言える。

●参考文献
1)Fujimoto, K., et al. : Non-invasive evaluation of hepatic fibrosis in patients with choronic hepatitis C using elastography. MEDIX suppl., 24 ~27, 2007.
2)Shiina, T., et al. : Mechanical model analysis for quantitative evaluation of liver fibrosis based on ultrasound tissue elasticity imaging. Japanese Journal of Applied Physics, 51, 07GF11, 1~8, 2012.
3)藤本研治・他 : Real-time Tissue Elastographyを用いた肝線維化の非侵襲的評価法~Liver fibrosis index(LF Index)によるstage判定. 肝臓, 59, 539〜541, 2010.
4)Yada, N., et al. : Assessment of liver fibrosis with real-time tissue elastography in chronic viral hepatitis. Oncology, 84, 13~20, 2013.
5)Colli, A., et al. : Decompensated chronicheart failure ; Increased liver stiffness measured by means of transient elastography. Radiology, 257, 872~878, 2010.

 

矢田 典久

矢田 典久(Yada Norihisa)
1999年滋賀医科大学医学部卒業。神戸市立中央市民病院などを経て,2008年京都大学大学院内科系専攻消化器内科学修了。2008年近畿大学医学部消化器内科助教,2010年より同講師。日本超音波医学会 用語・診断基準作成委員会;肝臓のElastic imagingに関する用語・診断基準作成小委員会オブザーバー。

 

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