X線動態画像セミナー(コニカミノルタ)

第5回X線動態画像セミナー[2023年10月号]

第2部 研究報告

救急診療における動態ポータブルX線検査利用の実際

昆  祐理(聖マリアンナ医科大学救急医学/救命救急センター救急放射線部門)

胸部X線動態撮影(DCR)が可能となったことで,従来は静止画であった単純X線写真を動画として表示可能となった。また,X線動画解析ワークステーション「KINOSIS」を用いて,さまざまな解析が可能となっている。さらに,近年ではポータブルX線撮影装置を用いてベッドサイドでDCRが可能となり,救急集中治療領域での利用の広がりが期待されている。本講演では,救急診療におけるポータブルX線撮影装置を用いたDCRの使用経験を報告する。

症例提示

症例1は,新型コロナウイルス肺炎による急性呼吸窮迫症候群の症例である。来院時の単純X線写真とCT画像にて広範囲なすりガラス陰影が見られ,気管挿管後も呼吸状態が急激に悪化していた。動態画像では肺の動きを認めるものの,呼吸に伴う肺野内濃度変化を可視化するPL-MODEにて,両側の中肺野や右の下肺野内側の信号変化が乏しいことが確認できたため,腹臥位療法を施行した。腹臥位療法後には,肺野の比較的末梢まで信号値の広がりが確認でき,血液ガス(pCO2)の値も改善していた(図1)。このように,DCRとKINOSISでの解析によって病態を明らかにできれば,重症呼吸不全に対する換気療法の大きな指標になると思われる。

図1 症例1:急性呼吸窮迫症候群

図1 症例1:急性呼吸窮迫症候群

 

症例2は,肺炎による重症敗血症の症例で,心収縮をほぼ認めないため,体外式膜型人工肺(ECMO)のうち心機能を補助するVA-ECMOを装着した。第1病日と,VA-ECMOを離脱した第6病日の動態画像にて心臓ROIの信号値変化を比較したところ,第6病日の方が変化が大きくなっており,心拍数とも一致していた(図2)。心臓の信号値変化が心機能の指標となることが期待できる。また,本症例は重症肺炎のため,VA-ECMO後に肺機能を補助するVV-ECMOを装着した。DCRのPL-MODEの画像では,左肺野の信号値の低下を認め(図3),左側を中心に呼吸療法を継続した。PL-MODEは,肺の局所的な換気分布を画像化する電気インピーダンス・トモグラフィ(EIT)を代替し,VV-ECMO中や人工呼吸療法による換気の適正化に寄与する可能性がある。

図2 症例2:肺炎による重症敗血症症例の心臓ROIの信号値変化

図2 症例2:肺炎による重症敗血症症例の心臓ROIの信号値変化

 

図3 症例2:VV-ECMO中のPL-MODEの画像

図3 症例2:VV-ECMO中のPL-MODEの画像

 

症例3は,肺塞栓症(PE)の症例で,息止めにてDCRを行った。肺野内血流量を可視化するPH2-MODEでは,右の中下肺野や左の下肺野に信号の欠損を認めた(図4)。PEの診断において,息止めDCRにおけるPH2-MODEの有用性は,すでに論文で報告されている1)。また,PH2-MODE はPEの否定にも有用であることから,救急場面でのPEのルールアウトなどに適用できる可能性がある。このほか,一般撮影では評価困難なWestermark’s signが自由呼吸下でのDCRやKINOSISでの解析画像により明瞭化できることから,状態が悪く息止めできないような患者においてもPEの除外/検出ができる可能性がある。

図4 症例3:肺塞栓症

図4 症例3:肺塞栓症

 

症例4は,高度な肺気腫の症例である。肺気腫では,肺野が過膨張となり動きが乏しいためPL-MODEにて信号値が低下する。また,PH2-MODEでは肺気腫による末梢血管狭小化による変化を抽出しているため信号値が低下する(図5)。PEとの鑑別に当たっては,血管支配に一致しない信号値の低下が見られる場合は肺気腫と判断できるが,病歴や心エコーの所見などを複合的に評価することが求められる。

図5 症例4:肺気腫

図5 症例4:肺気腫

 

まとめ

救急集中治療領域において,検査のために重症患者を移動させることは危険を伴い,非常に大きなリスクとなる。ポータブルX線撮影装置でのDCRは,形態学的な評価はもとより,動きを見ることで機能的な評価がベッドサイドで可能であり,今後,非常に重要な検査ツールになっていくと思われる。

●参考文献
1)Miyatake, H., et al.: Circ. J., 85(4) : 400, 2021.

 

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