技術解説(フィリップス・ジャパン)

2018年3月号

Dual Energy Imagingの技術的特徴

「IQonスペクトラルCT」が生み出すスペクトラルイメージングの特長

守谷 芽実((株)フィリップス・ジャパン DIビジネスマーケティンググループ CTモダリティスペシャリスト)

2016年4月,本邦において2層構造の検出器を搭載したマルチスライスCT「IQon スペクトラルCT」の発売を開始した。IQonスペクトラルCTは,“Spectral is Always on”というキーワードが示すとおり,すべての検査で常にスペクトラルイメージングを取得することができるCTであり,今日までに全世界で50台以上の稼働実績があり,国内でも稼働が始まっている。
現在,フィリップスは世界共通の問題となっている医療コストの削減に対応すべく,最低限の検査で診断に結びつく情報を得る“First Time Right”をコンセプトに,CTのみならず,各種モダリティの開発をめざしている(図1)。本稿では,IQonスペクトラルCTの特長,有用性を,フィリップスが掲げる“First Time Right”で提唱する項目に沿って紹介する。

図1 First Time Rightコンセプト

図1 First Time Rightコンセプト

 

■IQonスペクトラルCT

IQonスペクトラルCTは,検出器の構造を2層にした「NanoPanel Prism」と呼ばれる2層検出器を有したCTである。従来の管球側で異なるエネルギーを照射する方式と異なり,検出器側で一つの連続X線エネルギーを高エネルギー,低エネルギーの2つに分光する方式である。そのため,従来使用されている120kVpの撮影プロトコールで,120kVpの画像とスペクトラルイメージング(dual energy画像)をレトロスペクティブに得られるCTとなっている。前者の方式を採用しているCTをdual energy CTと表現するのであれば,2層検出器を搭載したCTはspectral CTと表現することができる。

■Simplify data and insight gathering

近年のCT装置は,大量の薄いスライスデータを作成し画像診断に用いている。この状況は,診断能の向上というメリットが得られる半面,大量のデータをどのように保管し運用するかという課題に直面する。IQonスペクトラルCTは,1回の撮影で120kVpの画像と,必要に応じて後から解析用のデータセットである“Spectral Based Image(SBI)”を取得することができるため,症例ごとや,診断目的に応じてデータ量の最適化を可能にしている。

■Drive appropriateness of imaging and treatment

CT装置は空間分解能に優れているが,濃度分解能の点ではMRIに劣る。そのため,症例によってはCT検査だけでは確定診断に至らず,MRIや超音波検査といったほかのモダリティによる追加検査が必要となる症例も少なからず存在している。
IQonスペクトラルCTによって得られるSBIには,従来の120kVp画像とスペクトラルイメージング(仮想単色X線画像などの情報)が含まれている。その中のヨード密度強調画像,実効原子番号画像はCT値以外の情報を付加価値として提供することができるため,従来のCT値では判別がつきにくい病変をより明確に診断できるようになる。
RSNA 2017にて新たに発表した新しいアプリケーション“Calcium Suppression”は,カルシウムに寄与するX線の減弱を表すボクセルを抑制し,骨の内部構造をイメージングする。そのため,本機能は骨挫傷の診断を支援することが期待されている。従来骨挫傷は,CT画像では描出することができないため,MRI検査がゴールドスタンダードであると言われている。しかし,Calcium Suppressionを用いてカルシウムを抑制することにより,MR画像と同じように骨挫傷を描出することが可能になる(図2)。救急においての骨挫傷を見落とす確率が減らせるだけではなく,ファーストチョイスとしてCTを施行した場合,この情報があれば,その後にMRIを施行する場合に適切なシーケンスを設定することができる。その結果として,確定診断までの時間を短くすることが期待される。

図2 Calcium Suppression画像

図2 Calcium Suppression画像

 

そのほかにもスペクトラルデータを使用して,各ボクセルの電子密度(以下,ED)を推定する専用のアルゴリズムである“Electron Density”も紹介した(図3)。この画像は,CT値(HU)とEDの間の変換が必要とされない直接的な結果であるため,より正確な組織特性を提供することができる。従来は撮影した画像をワークステーションで解析し放射線治療計画システムに転送していたが,スペクトラルイメージングの一つとしてEDの計算が可能になるため,治療計画のワークフローを向上させることの一翼を担っている。

図3 Electron Density画像

図3 Electron Density画像

 

■Enhance the patient and staff experience

CT装置は全身領域を短時間で検査できるため,今日の医療現場においては欠かせない装置となってきている。そのため,操作する医療スタッフは,限られた時間の中で検査目的や患者の状態に合わせて適切な撮影プロトコールの選択,適切な撮影線量,目的に応じた画像作成を行わなければいけない。IQonスペクトラルCTをはじめとしたフィリップスのCTは,“iPatient”という共通のユーザーインターフェイスを採用している。コンソール画面上の文字表記を減らしアイコン表記を採用することで,直感的な操作が可能になる。また,検査開始までのクリック数の最小化,画像再構成までの一連のプロトコールをカード管理するという手法を採用している。これにより,操作を担当する医療スタッフの経験に左右されない画像の提供が可能になる。IQonスペクトラルCTは,検出器側で異なるエネルギーを取得する手法であるため,スペクトラルイメージングを得るために特別なプロトコールの作成,手法の選択というのは必要としない。あらかじめ再構成シリーズの中にSBIを組み込んだプロトコールの作成はもちろん,撮影終了後にSBIを取得することもできるため,ストレスフリーでより多くの情報を取得,画像作成することが可能になる。

■Reduce costs

医療費の増大は,日本のみならず世界でも共通の問題となっている。診療報酬が削減される一方で,装置の導入費用,定期的なメンテナンス費用など,画像診断にかかわるコストは年々増加している。
IQonスペクトラルCTは,仮想単色X線画像を使用することにより,従来と比較して大幅に造影剤を低減した検査が可能である。そのため,造影剤使用量の減少に伴うコストの削減が期待される。また,ヨード密度画像,実効原子番号を用いた物質弁別により,従来CT検査では診断がつかなかった症例も,IQonスペクトラルCTだけで診断できる可能性が広がり,ほかのモダリティを用いて確定診断を行うケースが少なくなることが予想される。
北米のIQonスペクトラルCTユーザーによると,腎機能低下患者におけるCT検査(非造影CTとIQonスペクトラルCTを用いた低造影剤量CTでの比較)においてSBIをルーチンで活用することにより,MRIでの再検査が25%減少,診断に至るまでの時間が34%短縮し,結果としてIQonスペクトラルCTを使用した場合,大幅なコストの削減に至ったという報告がある。これはCT値と形態情報に加え,IQonスペクトラルCTで得られるヨード密度強調画像,実効原子番号などCT値以外の情報が診断に有用であったという裏づけにもなる。

フィリップスは“First Time Right”コンセプトの下,今後も患者へのメリットはもちろん,病院運営のために「低侵襲で高画質」「経済性」に配慮したCT装置の開発を継続していく。

 

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