技術解説(フィリップス・ジャパン)

2018年9月号

MRI技術開発の最前線

Ingenia Elition 3.0T ─開発のコンセプトと可能性

竹元 寿熙[(株)フィリップス・ジャパン MRモダリティスペシャリスト]

MRI画像診断は,絶え間なく革新的な技術の研究開発がなされており,日々進歩を続けている。その中でも,新しい臨床知見を持った撮像法やさらなる高画質化,高速化の実現,それに伴う高度に複雑化したパルスシーケンスの開発を中心とするソフトウエア研究はめまぐるしいスピードで進んでいる。そして,これらソフトウエアを実臨床で実現するためのハードウエアの開発こそ,MRIベンダーに与えられた命題と言える。一方,患者のケアサイクル全体を考慮した視点では,より少ない損失から健康アウトカムが最大となる医療を概念としたValue-Based Healthcareの重要性が高まりつつあり,画像診断分野においても患者や医療従事者の負担軽減と迅速かつ正確な診断が求められている。
フィリップスは,Value-Based Healthcareの概念に基づいたFirst Time Right(以下,FTR)を掲げ,患者を中心とした包括的医療を見据えたソリューションを展開している。FTRの中で,MRIは「Confidence:確信が持てる画像診断」「Speed:さらなる高速化の実現」「Comfort:検査ストレスからの解放」という3つのコンセプトに基づいた「Ingenia Elition 3.0T」(図1)が登場し,これからの医療に求められる画像診断装置として期待されている。
本稿では,Ingenia Elitionのコンセプトについて,ハードウエアの特長と臨床現場にもたらす可能性を紹介する。

図1 Ingenia Elition 3.0T

図1 Ingenia Elition 3.0T

 

■Confidence:確信が持てる画像診断

フィリップスMRIはこれまで,静磁場均一性の高いマグネット,被検者の撮影部位ごとに最適なRFパルスを生成するMultiTransmit,アナログデジタル変換機が受信コイルに内蔵されたフルデジタルコイルシステム(dStream)など,質の高いMRI検査を実現するために必要なフィリップス独自のハードウエアの開発を行ってきた。さらに,これまで根本的解決が困難とされていた冷却効率と渦電流の問題解決に取り組み,新しいグラディエントコイル(Vega Gradient)をIngenia Elitionに搭載した。
Vega Gradientは,高い冷却効率を実現したダイレクトクーリングシステムの搭載と,渦電流の発生を根本から見直したグラディエント設計が特長である(図2)。
ダイレクトクーリングシステムでは,高い冷却効率により,duty cycleの改善と連続的な最大値の出力を可能とし,膨大なデータ収集量を必要とするfMRIや多軸の拡散テンソル画像の撮像において,ほとんどTRやTEの延長を伴わない。また,高速SE法などでは,echo space短縮など効率的なデータ収集によるブラーリングの低減を可能とし,従来グラディエントコイルと比較し,同等の撮像時間で最大60%の空間分解能向上をもたらすことができる(図3)。
今日まで,渦電流に対しては傾斜磁場遮蔽や傾斜磁場コイルの電流調整など多くの対策がとられているが,根本的解決には至っていない。Vega Gradientの構造設計は,渦電流が形成する磁場の影響を抑え,設計どおりの傾斜磁場印加を可能としている。特に,拡散強調シーケンスでは,MPG印加時間の短縮とEPIシーケンスの正確な制御により,15%のTE短縮と30%の撮像時間短縮をもたらすことができる。さらに,渦電流による信号損失も改善され,b-value 10000以上においても信号強度を保つなど,従来の拡散強調画像と比較し70%のコントラスト分解能向上を可能にしている(図3)。
Vega Gradientは,冷却効率向上と渦電流の低減を可能したことにより,偏差0.03%以下の高い精度でのグラディエント印加を可能とし,理想的なパルスシーケンスを再現することができる次世代のグラディエントシステムである。

図2 新設計グラディエントシステムの特長

図2 新設計グラディエントシステムの特長

 

図3 新設計グラディエントによる高空間分解能画像とhigh-b value拡散強調画像

図3 新設計グラディエントによる高空間分解能画像とhigh-b value拡散強調画像

 

■Speed:さらなる高速化の実現

Ingneia Elitionは,全身領域のさまざまなシーケンスにおいて50%以上の撮像時間短縮を可能とする“Compressed SENSE”が搭載されている。Compressed SENSEは,Compressed sensingとSENSEを統合した次世代の高速化技術であり,Vega Gradientとの組み合わせにより,データサンプリングに正確性と効率性をもたらし,さらなる高次元での短時間撮像を期待できる。
Ingenia Elitionには,ワークフローの向上を図るいくつかの新しい機構が搭載されている。ガントリの両側に設置されたVital Screenでは,従来,操作室内のコンソールで行っていた患者の体重入力や体位変更を,患者傍のタッチパネルで簡便に操作可能であり,さらに,その入力や変更を撮像条件プロトコールに反映することができる。また,呼吸同期や心電図同期の波形の確認だけでなく,検査全体の撮像時間や,息止めや造影の有無など,検査内容を詳細に把握し説明でき,患者への配慮とセッティングの効率化の両立を果たしている。クイックスタート機能では,MR検査室ドアの開閉に連動して自動でスキャンが開始される機能である。これにより,操作者の着席と同時に撮像領域のプランニングが可能となる。さらには,プランニングや解析,3D作成など,画像処理を自動で行う撮像支援機能“SmartExam”と組み合わせ,検査中,一切の操作を必要としないゼロクリックスキャン機能も有している(図4)。結果として,患者のケアに時間や意識を割くことができ,安全な検査を提供することができる。

図4 膝関節ルーチンのゼロクリックスキャン例

図4 膝関節ルーチンのゼロクリックスキャン例

 

■Comfort:検査ストレスからの解放

快適な検査環境の追究は,患者ストレスの低減,画質の向上,検査時間の短縮につながる重要な技術の一つである。フィリップスでは,“In-Bore Experience”によりMRI検査全体における快適性の向上を実現している。In-Bore Experienceは,オートガイダンス機能,静音化技術,映像鑑賞システムにより構成される。特に,映像鑑賞システムIn-Bore Solutionでは,個々の患者の好みに合わせた映像と音楽を鑑賞し,検査に対する不安を軽減する。ユーザーアンケート結果によると,再撮像が70%減少し,沈静が必要な患者を80%減らしている。より多くの患者に最後まで検査を実施することができるソリューションである。
Ingenia Elitionでは,これらのソリューションに加え,新しくComfortPlus Matressを搭載している。寝具メーカーと共同でMRI専用に設計開発がなされた新しいマットレスである。このマットレスで検査を受けた患者の90%が,快適でストレスなく最後まで検査を受けることができたと回答している。ComfortPlus Matressは,不快感に起因する体動を抑制し,画質向上にも貢献することができる。

■今後の発展への期待

フィリップスの新しいポートフォリオとして登場したIngenia Elitionは,ルーチン検査はもちろん,臨床研究などMRI検査にかかわるすべての人をシームレスに結びつけることができるMRI装置である。Vega GradientやCompressed SENSEに代表される最新技術が臨床に広く応用され,確かな画像診断の一助となることを期待したい。

 

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