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医療放射線防護連絡協議会が第29回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催テーマは「医療関係者の放射線防護・安全管理教育」

2018-12-18

会場風景

会場風景

医療放射線防護連絡協議会は,2018年12月14日(金)に島津ビルイベントホール(東京都千代田区)において,第29回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」を開催した。同講演会は,CTの原理となるX線回転撮影法を開発し,日本の放射線防護の草分け的存在である高橋信次氏の名前を冠し,1990年より毎年開催されている。2010年からは,高橋氏に師事し,放射線防護において国内外で大きな業績を残した同協議会前会長の古賀佑彦氏の名前を冠したシンポジウムも同時開催されている。
29回目となる今回は,「医療関係者の放射線防護・安全管理教育」をテーマに,教育講演1題,高橋信次記念講演1題,古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,最後に参加者を交えた総合討論が行われた。

はじめに,医療放射線防護連絡協議会会長の佐々木康人氏が開会の挨拶に立ち,2011年の福島第一原発事故から7年以上が経過したことを振り返り,改めて放射線のリスク管理には国民全体のリテラシー向上が不可欠であり,その実現のためにも特に医療従事者への教育が重要だと本講演会の意義を語った。

佐々木康人 氏(医療放射線防護連絡協議会)

佐々木康人 氏
(医療放射線防護連絡協議会)

   

 

教育講演では,明海大学保健医療学部の奥村泰彦氏が座長を務め,京都医療科学大学の大野和子氏が「医療関係者への効率的な放射線教育教材の作成と実践」と題して講演した。大野氏らは,原発事故当時の医療従事者の知識不足が招いた混乱から,医療従事者への放射線に関する教材の必要性を実感。そこで,医療従事者や防災関係者などの専門家を対象にした教育教材の制作に取り組み,スマートフォンからアクセス可能なQ&A集,e-ラーニングや電子書籍形式の冊子などを作成した。これらの教材は,専用のポータルサイト「放射線についておはなしします」(https://radiation-protection.jp )に公開されている。大野氏は,作成にあたって,漫画家やウェブデザイナーなど外部の専門家と協働し,親しみやすいよう漫画やイラストを活用したり,スマートフォン版では画面スクロールが1回で済むような分量にするなどの工夫を随所に取り入れたことを紹介した。一方,e-ラーニングの結果,医師の内部被ばくについての理解度が低かったことも指摘。大野氏らは,これまでの成果を生かしつつ,今後も教材の改良を重ねていきたいと述べた。

奥村泰彦 氏(明海大学)

奥村泰彦 氏
(明海大学)

大野和子 氏(京都医療科学大学)

大野和子 氏
(京都医療科学大学)

 

 

高橋信次記念講演は,佐々木氏が座長を務め,星総合病院理事長の星 北斗氏が「福島原発災害を経験して*医療と原発災害の課題*」と題して講演した。星氏が理事長を務める星総合病院(福島県郡山市)は,東日本大震災で建屋が一部崩壊し,診療に制限が出るなど大きな被害を受けた。星氏は,自らの病院の事業継続にも当たりつつ,原発事故直後から復興会議などに出席。「県民健康調査」検討委員会の座長を務めるなど,福島県の復興に取り組んできた。その経緯や政府の対応などを振り返りながら,現在の福島県の状況を報告した。その中で星氏は,医師や看護師などの地元の医療従事者が,震災直後の混乱の中で放射線について十分な知識と自信を持って住民に説明できなかったことを反省点として挙げた。日本は唯一の被爆国でありながら,放射線に関する教育から目を背けてきたことがその原因であるとし,改めて教育の重要性を訴えた。そして,「福島県を将来の担い手である子どもたちを安心して産み,育てられる環境にしたい」とこれからの抱負を語った。

星 北斗 氏(星総合病院)

星 北斗 氏
(星総合病院)

   

 

午後は,医療放射線防護連絡協議会総務理事の菊地 透氏が座長を務める古賀佑彦記念シンポジウムが行われ,「医療関係者への放射線防護・安全教育の現状と課題」をテーマに,3講演が行われた。

まず,国立がん研究センター先端医療開発センター機能診断開発分野の藤井博史氏が,「放射線の健康影響に関する教育資料の作成」と題して講演した。藤井氏は,放射能のhot spotであった千葉県北西部の東葛地区で立ち上げられた「東葛地区放射線量対策協議会」に放射線被ばくの健康影響に関する専門家として参画。協議会の活動の一環として,地域住民を対象に放射線被ばくについて説明するリスクコミュニケーション活動を行ってきた。井戸端会議形式で少人数を対象とする活動は有効な反面,効率の悪さは否めなかったことから,藤井氏らは教材としてインフォグラフィックス技術を活用したアニメーション動画を作成し,既存資材と比較するアンケート調査を実施した。その結果,良好な感触が得られたことから,インフォグラフィックの有用性に期待が持てるとし,今後,さらにアンケート調査を重ね,検討を進めていきたいとした。

次に,榊原記念病院放射線科の粟井一夫氏が「病院従事者の現状と課題」と題して,放射線技術の変遷から放射線防護・安全教育について考察を述べた。一般撮影検査では,患者が受ける線量を左右する因子は,受像システムの違い(フィルム,CR,FPDなど)や撮影条件,散乱線除去グリッドの使用の有無など多岐にわたる。粟井氏は,フィルム−スクリーンからCR,そしてFPDへとデジタル化が進んだことで,ある程度安定した画像が得られるようになった反面,ともするとこれらの因子に無自覚になり,線量増加につながりかねないと指摘した。そして,便利さのツケが患者に回されることがないよう,デジタル化の経緯を理解し,撮影に関する知識や技術を身につけた上で放射線教育が行われるようにすべきと提言した。一方,研修医の減少に伴い,稼働時間の延長など臨床現場での労働環境悪化があるとし,そのような現実を踏まえ院内教育を行う必要があると述べた。

最後に,聖路加国際大学看護学研究科の麻原きよみ氏が,「保健師の現状と課題 保健師の放射線および放射線防護に関する教育〜現状と今後に向けて〜」と題して講演を行った。かつて放射線教育は,看護師教育カリキュラムから30年以上にわたって外されており,原発事故当時,現場の保健師は放射線の知識がほとんどないまま,住民支援にあたらざるを得なかった。その反省を踏まえ,2018年版の看護師および保健師国家試験出題基準に放射線に関する項目が加えられたものの,現状の教育は不十分であり,教員への研修や教材が必要との声も挙がっている。そのような中で,麻原氏らは,住民が放射線を健康に関するリスク要因の一つとしてとらえ,放射線防護の知識を日常生活に取り入れ,適切に使おうとする価値観かつライフスタイルである「放射線防護文化」を,住民の間に形成するための実践モデルを明らかにすることを目的に,保健師と協働でアクションリサーチを行った。その結果,既存の保健活動に放射線防護の教育・相談を組み込み,住民が不安や疑問を出しやすい場や雰囲気を作ることが有用であることが示された。この研究結果に基づいて,麻原氏らは放射線教育のプログラムとテキストを開発。原発事故後の体験をもとに,リスクコミュニケーションに関する具体的な事例検討とロールプレイを加え,現任教育でも活用可能なことが紹介された。講演のまとめとして,麻原氏は,稀有な災害を経験した自分たちだからこそ示すことができる,看護職に必要な知識や技術を世界に発信していきたいと抱負を述べた。

菊地 透 氏(医療放射線防護連絡協議会)

菊地 透 氏
(医療放射線防護連絡協議会)

藤井博史 氏(国立がん研究センター先端医療開発センター)

藤井博史 氏
(国立がん研究センター先端医療開発センター)

 
     
粟井一夫 氏(榊原記念病院)

粟井一夫 氏
(榊原記念病院)

麻原きよみ 氏(聖路加国際大学)

麻原きよみ 氏
(聖路加国際大学)

 

 

休憩をはさんで行われた総合討論では,演者・シンポジストが登壇し,菊地氏の進行の下,「医療関係者へ放射線防護・安全教育を効率的に実践するための提言」をテーマに総合討論が行われた。

なお,2019年2月17日(日)には,首都大学東京荒川キャンパス(東京都荒川区)にて,「医療放射線診療放射線従事者の個人管理の現状と課題」をテーマに,第40回「医療放射線の安全利用フォーラム」が開催される予定となっている。

 

●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会 (日本アイソトープ協会内)
TEL 03-5978-6433(月・火・木・金)
FAX 03-5978-6434
Email jarpm@chive.ocn.ne.jp
http://jarpm.kenkyuukai.jp

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