CT線量計測による患者線量の評価

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近年、医療に対する世間の目は厳しくなっており、特にわれわれの扱う放射線については人体に対する影響を恐れる風潮にある。さらに、メディアなどの情報公開を求める動きも相乗して、臨床現場で直接被ばく線量や人体への影響について問われる機会が非常に増えたと感じられる。しかし、それは本来当然の要求であろう。いまではインターネット環境によって誰でも簡単に情報を集め、知ることができるようになった。例えば、AJR1)やLancet2)の論文でもすぐに読むことができ、知識を得ることができる。
そこで、われわれは臨床現場で必要な線量測定や防護の方法などを正しく理解し、知識として持っていなければならない。本稿では、当院のCT検査における線量測定の方法と患者線量の評価について、データを示しつつ考え方を述べる。

福井大学医学部附属病院放射線部
石田 智一

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s CT線量測定、管理の意義

 CT検査時の線量評価については、ファントムを利用してCT装置の性能評価や日常管理として行うものと、TLD素子などを使用して実際に被検者の特定部位における線量評価を行うものの2種類あると考えられる。本来、被検者一人ひとりの被ばく線量を測定し、最適化するのが理想である。したがって、TLD素子などを用いて随時測定・計測し、管理すべきである。しかし、臨床現場においては事実上不可能であり、使用するTLD素子の特性や、限られた部分でしか測定できないなど、問題点も多い。

  一方、大まかな目安として、ファントムを用いた線量測定に関しては、ICRP勧告3)4)や医療被ばくガイドライン5)など、さまざまな文献が出版されている。しかし、これはあくまでも目安であり、与えるリスク(線量)と得られる情報(診断能)とのバランスを考えることが大切である。例えば、線量を減らして撮影しても、目的とする画質が得られなければ無駄な被ばくとなりうるし、また、その逆も考えられる。したがって、照射した線量と得られる画質の関係を考えるための指標として、CT装置の性能評価としての線量評価を行うことが大切である。

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s 当院における線量測定

 使用装置はLightSpeed Ultra、撮影条件を表1、2に示す。線量測定方法は、ICRP publication 873)に準じてCTDIvol、DLPの測定を行った(図1)。

  表1は、当院における線量測定結果を示したものである。本装置の実効エネルギーはscanFOVがHead(25cm)の場合は55keV、Abdomen(48cm)では62.2keVであった。また、表3、4の結果から、頭部の撮影条件はdose efficiencyが73.86%と低いモードを利用しており、改善すべき点である。

図1 使用機器と計算式(CTDIw、CTDIvol、DLP)
図1 使用機器と計算式(CTDIw、CTDIvol、DLP)
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表1 アルミ半価層測定による実効エネルギー測定結果(4DAS×2.5mm)
表1 アルミ半価層測定による実効エネルギー測定結果(4DAS×2.5mm)

表2 アクリルファントムにおけるCTDIw測定結果
表2 アクリルファントムにおけるCTDIw測定結果
1:120kV、180mA、2.0s、Scan FOV 25cm、スライス厚 5mm(4DAS×1.25mm)
2:120kV、180mA、2.0s、Scan FOV 48cm、スライス厚 7.5mm(4DAS×3.75mm)
3:120kV、180mA、2.0s、Scan FOV 25cm、スライス厚10mm(4DAS×2.5mm)

表3 当院における頭部、腹部CT撮影条件でのCTDIvol測定結果
表3 当院における頭部、腹部CT撮影条件でのCTDIvol測定結果
1.頭部:120kV、180mA、2.0s、Scan FOV 25cm、スライス厚 5mm、(4DAS×1.25mm)
2.腹部:120kV、215mA、0.7s、Scan FOV 48cm、スライス厚 7.5mm (8DAS×2.5mm)、pitch=0.875

表4 検出器幅、スライス厚設定を変化させた場合の照射線量測定結果
表4 検出器幅、スライス厚設定を変化させた場合の照射線量測定結果
120kV、180mA、2.0s、Scan FOV 25cm、pitch= 0.875




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s シミュレーションによる実効線量の算出

 前述のとおり、性能評価を目的とする線量評価方法によって、線量と画質のバランスを知ることで、臨床現場において撮影条件の最適化を可能としている。しかし検査終了後、被検者から検査による被ばく線量を問われたときに自信を持って正確に回答することは非常に難しい。近年、線量測定、評価の困難さから、デジタルファントムを作成し、シミュレーションによって散乱、吸収をコンピュータで検討することが増えてきている。その種類は数種類あり、それぞれ特徴がある。詳細については省略するが、ここでは、当院においても参考値として利用しているImPACT6)というソフトウエアについて述べる。

  ImPACTの特徴は、シミュレーションを行うことができるCT装置の種類が多いことである。また、市販の表計算ソフトを使用しているため、誰もが使用しやすくなっている。ImPACTを無料でダウンロードし、NRPB2507)というデータを購入することでシミュレーションが可能となる。そのため、臨床現場においても使い勝手が良く、効率的に使用できると考えられる。

  しかし、ファントムは標準体型の女性を模擬して作られているものしかなく、男性、小児、乳児に関しては、係数をかけて計算しなければならない。また、体格や肥満度などの身体的影響を加味することができないため、それに関しては何らかのデータで補正する必要がある。そのため当院では、標準体型の女性の目安の値として、CT待合室に被ばく線量の案内を掲示している(図2)。

  Huda8)9)らは、4種類のCT装置におけるDose Length Product(DLP)の値から、ImPACTを用いて実効線量へ変換し測定する検討を行った。この検討では、DLP値から実効線量への変換係数を求めることで、CT装置のコンソールに表示されているDLP値を用いて被検者の実効線量を求めることができるとしている。しかし、やはり、体格や体質の違いは加味されていない。またHuda9)らは、小児の体幹部CT検査における実効線量の算出も行っている。この論文では、成人の実効線量をImPACTを用いて求め、その値をスキャン範囲(cm)、mAs値、体重(kg)によって調整することで、小児の値が得られるとしている。またThomas 10)らは、小児CT検査において、CT装置のコンソールに表示されるDLP値から年齢に合わせた実効線量の算出を行った。いずれの検討も、簡便で根拠に基づいた実効線量値として、臨床現場において使うことができると考えられる。

  ちなみに、当院での頭部、腹部CT検査の撮影条件における実効線量を算出した結果、頭部CT検査は3.3mSv、腹部CT検査は15mSvとなった。この値はあくまでも目安として考え、被検者への説明には誤解のないように伝えなければならない。現在、被検者の体格、肥満度を加味したシミュレーションの妥当性を考えている。当然、体格、体質(筋肉質、肥満など)によって、人体内での物質との相互作用が異なり、また実効エネルギーも変化すると考えられる。これらをシミュレーションできれば、より信頼性の高い実効線量の算出が可能になると考えている。

図2 当院での放射線被ばくに関する案内パンフレット
図2 当院での放射線被ばくに関する案内パンフレット
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s 今後の課題

 今後、臨床現場では、被検者から被ばく線量について問われることがますます多くなると予想される。また、予防医学の実現に向けた検診業務の拡大により、より低被ばくで正確な診断が求められる。より正確な被ばく線量管理を行うためには、他施設で受けたすべての医療被ばくも把握することが求められる。したがって、被検者一人ひとりの被ばく線量を測定し、確立した管理体制を実現しなければならない。

  そこで、筆者の考えを図3に示し、読者の方々の参考になればと考えている。

  まず、被ばくという観点から考えると、CT装置の進歩によって、被検者の体格(大きさ、厚さ)に合わせて管電流を変動させる機能(mA modulation)が充実してきた。その制御方法はCT装置メーカーによってさまざまであるが、基本的には回転中に連続的な増減を繰り返して管電流値を制御しているため、この回転角度ごとの管電流値は、情報として装置が持っている。当然、その他の撮影条件(管電圧、X線ビーム幅、pitchなど)についても、すべて情報として持っている。さらに、その条件で撮影したCT画像があるが、この画像はボリュームデータであるため、三次元的な構造や位置関係を把握することができる。これらの情報をうまく利用して、まず被検者の三次元画像を作成する。実際の撮影時におけるX線管軌道を求め、その軌道をある角度ごとの点と考え、その各時点での管電流値を求める。次に、シミュレーションにて各時点で検査時の撮影条件にて照射したと仮定して、被ばく線量を算出する。これは、一般撮影でのシミュレーションとほぼ同じと考え、残りの角度を同様に計算し、すべての値を足し合わせることで実効線量を得る。当然、問題点は多く含まれるが、現在のデジタルファントムを被検者のデータにすることや、正確な撮影条件で算出できることから、より正確な被ばく線量が求められると考えている。

図3 各被検者に対する線量評価
図3 各被検者に対する線量評価
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s 最後に

  現状での問題点を明確にし、測定、算出可能なデータの意味を理解した上で、被検者に情報開示をするべきである。いかにわかりやすく、正確に伝えることができるかは、線量測定などの技術とコミュニケーション能力の双方が求められる。そのため、当院では接遇を重視し、待合室へのパンフレットの設置や、専任の問い合わせ担当者を決定するなどの対策を行っている。

 当院での考え方や取り組みを参考にして、各施設で最適な方法を検討していただければ幸いである。測定値の意義を十分理解して、その値をどのように使用するかが重要である。

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●参考文献
1) Brenner,D.J., et al.: Estimated risk of radiation induced fatal cancer from pediatric CT. AJR, 289〜296, 2001.
2) Gonzalez,A.B.,Darby,S.: Risk of cancer from diagnostic X-Rays; Estimates for the UK and 14 countries. Lancet, 363, 345〜351, 2004.
3) ICRP2002(publication No.86), Pergamon, Oxford, UK.
4) ICPR2007(publication No.102), Pergamon, Oxford, UK.
5) 日本放射線技師会医療被ばくガイドライン委員会:医療被ばくガイドライン. 東京, 医療科学社, 2002.
6) ImPACT Group(2007)CT dosimetry tool, ImPACT, St.George's Healthcare NHS Trust, London.
http://www.impactscan.org/ctdosimetry.htm. Accessed 3 Jan 2008.
7) Jones, D.G.,Shrimpton, P.C.:Normalized organ doses for X-ray computed tomography calculated using Monte Carlo techniques(NRPB SR250). National Radiological Protection Board, Chilton, UK, 45, 1993.
8) Huda, W., et al: Converting Dose-Length-Product to effective dose at CT. Radiology, 248・3, 995〜1003, 2008.
9) Huda, W., et al.: Computing effective doses to pediatric patients undergoing body CT examinations. Pediatric Radiology, 38, 415〜423, 2008.
10) Thomas, K.E., et al.: Age-specific effective doses for pediatric MSCT examinations at a large children's hospital using DLP conversion coefficients; A simple estimate method. Pediatric Radiology, 38, 645〜656, 2008.

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GE社のMDCTについては「モダリティEXPO」をご参照ください。

●お問い合わせ先
GEヘルスケア・ジャパン株式会社
(2009年8月1日より社名が変更になりました)
〒191-8503 東京都日野市旭が丘4-7-127 TEL 0120-202-021(カスタマー・コールセンター)
http://www.gehealthcare.co.jp