第69回 日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー18

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第69回日本医学放射線学会総会(JRC 2010)が4月8日(木)〜11日(日)の4日間,パシフィコ横浜において開催された。
10日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のランチョンセミナー18「肺がん診断の新たな展開〜フラットパネルディテクターが切り拓く〜」では,一般撮影装置「Definium 8000」に搭載されているアドバンスドアプリケーション“デジタルトモシンセシス”と“デュアルエナジーサブトラクション”の有用性について,Department of Radiology, Samsung Medical Center,Sungkyunkwan UniversityのChung MyungJin氏と財団法人芙蓉協会聖隷沼津病院/聖隷沼津健康診断センター放射線課の田沢範康氏が講演した。

デュアルエナジーサブトラクション法による胸部検診での臨床実績報告

田沢 範康
財団法人芙蓉協会 聖隷沼津病院/聖隷沼津健康診断センター放射線課

  田沢 範康
田沢 範康
財団法人芙蓉協会
聖隷沼津病院/ 聖隷沼津健康診断センター放射線課
1992年岐阜医療技術短期大学診療放射線科卒業,医療法人鶴声会 渡辺病院を経て,94年に財団法人芙蓉協会 聖隷沼津病院に入職。2009年より現職。

財団法人芙蓉協会 聖隷沼津健康診断センターは,2009年5月にDefinium 8000を導入し,デュアルエナジーサブトラクションやデジタルトモシンセシスといった最先端技術を用いて胸部検診を開始した。本講演では,特にデュアルエナジーサブトラクションの使用経験について述べる。


s 当センターにおける胸部検診の現状

当センターでは,胸部X線装置1台,胃部X線装置2台,マンモグラフィ1台,胸部検診車2台,胃部検診車1台,マンモグラフィ検診車1台を用いて,7名の専属技師が健診業務を行っている。2008年度の施設内胸部撮影数は,任意型の人間ドックが1万390名,一般健診が1万343名,対策型の住民健診が2926名であった。一般撮影装置をFPD搭載装置に移行するにあたり,デュアルエナジーサブトラクションやデジタルトモシンセシスといった最先端の機能が健診に有用であると判断し,Definium 8000を導入することとなった。

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s デュアルエナジーサブトラクションを用いた健診の実際

1. デュアルエナジーサブトラクションの原理
デュアルエナジーサブトラクションとは,骨と軟部組織のX線吸収差を利用し,収集画像に最適な係数を掛けて差分(サブトラクション)することで,単純X線写真に加えて軟部組織(骨除去)画像と骨組織画像を生成する手法である。曝射は2回行うが,撮影間隔は約0.2秒であるため通常の撮影とほとんど変わらず,被ばく線量もCR撮影とほぼ同等である。また,本法によって,胸部単純X線写真で問題となっていた,障害陰影となる肋骨などの分離が可能となり,読影支援に貢献すると考えている。

2.当センターにおける検診フロー
当センターでは,以前はフィルム+スクリーンのシステムを使用していたが,撮影から画像表示まで数分かかり,健診のスループットに影響することが課題となっていた。しかし,Definium8000では,画像表示までの時間が約10秒と大幅に短縮し,また,モニタ診断を行うことで,比較的容易に3枚の画像を閲覧可能となったことから,撮影業務の負担を軽減しつつ検診業務を効率的に行え,かつ検診精度の向上にも貢献すると判断し,読影医と相談の上,任意型健診の約2万人全員に対してデュアルエナジーサブトラクション撮影を施行することとした。
実際の健診の流れは,図1のとおりである。以前は,撮影後に現像処理するまで読影ができなかったが,Definium8000の導入によって撮影後すぐの読影が可能となり,受診者1人あたりの読影時間も,1次,2次トータルで約5分かかっていたのが3分へと短縮した。その結果,受診当日に結果を伝える“リアルタイムドック”に有用であった。また,要精査の場合は医師の指示により,以前は胸部単純X線の多方向撮影による精査とCTによる精査のどちらかを行っていたが,Definium8000導入後は,新たにデジタルトモシンセシスによる精査も選択できるようになった。

図1  Definium8000によるデュアルエナジーサブトラクション導入前後の検診フロー
図1  Definium8000によるデュアルエナジーサブトラクション導入前後の検診フロー
 

3.要精査所見の検討
検診におけるデュアルエナジーサブトラクションの有用性を確認するために,胸部単純X線の多方向撮影およびCTによる要精査所見の統計について検討した。
期間は,2008年および2009年の5月から11月までで,男女別年齢構成に差のない任意型健診受診者約6000名を対象とした。全体の要精査件数は,Definium8000導入前の80名に対し,導入後は64名と20%も減少している。特に,画像上で判断がつかない“疑い所見”が,導入前の25病変に対し導入後は11病変と半数以下に減少した(図2)。
次に,精査の結果についてまとめると,胸部単純X線の多方向撮影による精査依頼数が,2008年の51名から2009年は35名と約30%も減少し,有所見率は22.2%から28.5%に増加した(図3)。
CT精査依頼数は2008年,2009年ともに29件と変わらなかったが,偽陽性が6件から2件へと減少し,有所見率は47.4%から76.4%にまで大幅に増加した(図3)。これらは,疑い所見が大幅に減少したことによるものと考えられる。
つまり,デュアルエナジーサブトラクションを用いた健診では,胸部単純X線写真の限界を補い,スクリーニングの精度が向上するのはもちろん,結果として,1日に約100件もの読影を行う読影医の診断業務の軽減や,無駄なCT精査による被ばくの削減にも貢献することが実証されたと言える。

図2  Definium8000 導入前後の要精査件数比較結果
図2  Definium8000 導入前後の要精査件数比較結果
図3  Definium8000 導入前後の精査所見比較結果
図3  Definium8000 導入前後の精査所見比較結果

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s 症例別の効果の検証

38歳,男性の場合,胸部単純X線写真で左上肺野の肋骨と重なって結節と思われる陰影が認められた(図4 a)。軟部組織画像では陰影は指摘できなかったが(図4 b),骨組織画像で明瞭に描出され(図4 c),骨島と診断された。デュアルエナジーサブトラクションでは,X線吸収差によって正確な差分画像が得られるため,骨組織画像では骨と同じX線吸収差の組織を描出することがわかった。
56歳,女性のケースでは,右下肺野に肋骨と重なる結節と思われる陰影が認められ(図5 a),軟部組織画像では肋骨だけが消え,陰影が描出されたが(図5 b),骨組織画像では指摘できなかった(図5 c)。要精査となってCT検査を行ったところ,肺がん疑いで手術となり,術後の病理検査でステージTの肺がん(腺癌)であることが確認された。デュアルエナジーサブトラクションにより,明らかな陽性として早期に診断できた例と言える。

図4  38歳,男性。aで結節らしき陰影が認められたが,骨島と診断された。
図4  38歳,男性。aで結節らしき陰影が認められたが,骨島と診断された。
図5  56歳,女性。明らかな陽性として肺がんが早期に診断できた例。
図5  56歳,女性。明らかな陽性として肺がんが早期に診断できた例。

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s まとめ

デュアルエナジーサブトラクションは,胸部単純X線写真の限界を補い,スクリーニングの精度が向上するため,偽陽性に対する無駄な精密検査やCT被ばくの削減に貢献するほか,病院における日常臨床でのCT検査に影響を及ぼすことなく,より有効活用するためにも役立つと思われる。また,FPD搭載装置のメリットとして,画質の向上,スループットの向上,被ばく低減が挙げられるが,さらに,デュアルエナジーサブトラクションやデジタルトモシンセシスなどの付加価値のある機能を加えることで,FPDの有用性がより生かされると考えている。

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●お問い合わせ先
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