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超電導オープンMRI「OASIS」 登場

“オープンMRI”の日立から,最新技術の結晶,新世代高磁場オープンMRI装置が登場しました。
「OASIS」は,北米放射線学会(RSNA)で発表された高磁場オープンMRI装置です。これまで,オープンMRIは閉所恐怖症の被検者や整形分野において高い評価を得ていましたが,永久磁石を使用していたために,磁場強度から生じるスペクトロスコピー計測などの撮像機能の制限がありました。このため,超電導型1.5T装置に匹敵する撮像機能を備えたオープンMRI装置が待ち望まれていました。OASISは,超電導磁石の採用により,オープンデザインで1.2Tという高い静磁場強度を実現し,さらに1.5T装置「ECHELON Vega」で開発された多くの高機能アプリケーションを搭載した最新のMRI装置です。本稿では,OASISの概要と,垂直磁場における高磁場用受信コイル技術について解説します。

OASISの概要

OASISのガントリは,開放角度270°,開口の高さは44cmで広い開放感があり,さらにラウンドフォルム・デザインで被検者に安心感を与えます。OASISの主な仕様を表1に示します。
ガントリデザインの特長はオフセットピラーです。図1に示すように,ピラーの位置を左右で非対称にすることで,開放範囲をさらに有効に活用できます。

表1 OASISの主な仕様
表1 OASISの主な仕様
図1 オフセットピラー(上面図)
図1 オフセットピラー(上面図)

●ハードウエアの特長
OASISに搭載されたハードウエアの主な特長を以下に示します。

・HOSS: 被検者が入った状態で静磁場の均一度を安定化させるため,高次項を持つ磁場補正コイルの電流を制御するアクティブシミング機能です。
・ECC機能: 傾斜磁場コイルに印加する電流パルスの波形を,デジタル演算でリアルタイムに計算して高精度に波形制御します。
・Regional Shimming: 静磁場の均一性を,撮像部位に合わせて任意領域で向上するようにターゲットアクティブシミングします。
・マルチコイルセレクター: 受信コイルをあらかじめ複数セッティングしておき,コイルを切り替えて使用することで広範囲撮像を可能にします。
・イメージセンタリング機能: ガントリ内での前後,左右テーブル移動機能を用いて,自動的に撮像中心をガントリ中心にします。
・Sentinelカスタマーサポート: 常時接続したインターネット回線を用いて,装置の状態を常時監視し,故障の予測などを行うことで安定した稼働を実現します。

●高機能アプリケーション

・DTI計測機能: 拡散強調画像(DWI)から連続性を抽出し,線状構造として神経線維情報などを出力できます。
・RAPID計測機能: マルチプルアレイコイルの感度分布の違いを利用して,受信チャンネルごとに独立して受信・再構成することで,撮像時間を短縮します。
・RADAR計測機能: k空間の充填をラジアル状にすることで,位相方向に収束する動きなどの特異的アーチファクトを分散します。
・スペクトロスコピー計測・解析: プロトンの化学シフトに関する情報を得る機能,および画像化する機能です。日立では容易なワンボタン計測が特長です。

●脂肪抑制機能

・CHESS機能(FatSat): 水と脂肪の共鳴周波数差を利用して,脂肪信号のみを選択的に励起して脂肪抑制します。
・WE計測機能: 位相差を利用してバイノミナルパルスによるRF照射を行い,脂肪の横磁化が打ち消し合うように制御します。
・H-sincパルス: 最適化された複数のCHESSパルスを印加する脂肪抑制パルスで,B1不均一の影響を受けにくい特長があります。
・TIGRE: 肝臓などの3Dダイナミック高速撮像に用いる高速3D脂肪抑制シーケンスです。H-sincパルスを部分的に印加します。

●心臓撮像機能

・心筋Perfusion: 造影画像から心筋の灌流に関する情報を含んだ画像を得る機能です。
・心筋遅延造影: 造影剤を投与し,一定時間経過した後にその集積程度を反映した画像を得ます。
・横隔膜ナビゲーション: 呼吸に伴う横隔膜の位置を部分撮像データで把握し,鼓動する心臓の位置に合わせた撮像制御を行います。

垂直磁場における高磁場用受信コイル

永久磁石方式のオープンMRIで実績のある高感度ソレノイド受信コイルですが,高磁場オープンMRIのOASISにおいても同様に,ソレノイド受信コイルのメリットが生かされています。ここでは,磁場方式の違いから生じる受信原理について解説します。

●垂直磁場方式とソレノイドコイル
MRIでは信号受信の方向が限られ,静磁場方向以外での受信となります。水平磁場では人体の左右あるいは上下方向,垂直磁場では体軸あるいは左右方向です。
図2(永久磁石の例)のように,垂直磁場方式ではシンプルなソレノイドコイル(首輪や腹巻様のコイル)で人体を包むことにより受信が可能ですが,水平磁場方式ではコイルループを左右あるいは上下に配置します。また,このコイルの形状が馬の鞍に似ていることから“サドルコイル”と呼ばれています。

図2 垂直磁場と水平磁場
図2 垂直磁場と水平磁場

●ソレノイドコイルの感度
ソレノイドコイルは1つのコイルループで受信が可能であるのに対し,サドルコイルでは2つのコイルループが必要です。図3に示すように,サドルコイルの2つのループによるそれぞれの外側の感度は,信号受信に寄与しません。つまり,感度領域が片側しか利用できません。それぞれのコイルループからは,電気的な抵抗成分により生じる熱雑音が発生し,このレベルが画像のSNRを決定します。
ここで,ソレノイドコイルの信号レベルを100,ノイズレベルを10とすると,SNRは100÷10=10です。サドルコイルでは,信号レベルは50+50=100で,ノイズレベルは10+10ですが,これは20ではなく,ノイズの加算はランダムなので位相差があり,単純な加算とならず,2乗和平均となります。したがって,
√102+102=14.1 
となり,サドルコイルのSNRは7.14と計算されます。つまり,受信感度はソレノイドコイルの71%ということです。逆に言うと,ソレノイドコイルはサドルコイルの1.41倍の感度があり,画像のSNRが1.41倍になります。

図3 サドルコイル(上)とソレノイドコイル(下)の概念図
図3 サドルコイル(上)とソレノイドコイル(下)の概念図

●ソレノイドコイルの感度範囲
図3を見ると,受信方向の違いからサドルコイルはコイルの装着範囲しか撮像視野がないのに対して,ソレノイドコイルではコイルの軸方向に広がっています。これは,同じ視野範囲ならば,ソレノイドコイルはより小さなコイルを使えることを意味しています。図4はシミュレーションによる計算結果ですが,コイル直径が小さいほど高感度(計算値は照射効率)となることがわかります。この感度変化は,コイルの直径を半分にすると受信感度がおよそ2倍になることを示しています。
ソレノイドコイルは被検者にフィットして装着できる分,小型にすることが可能で,この効果による感度差も大きく画像に寄与します。

図4 コイル感度シミュレータ
図4 コイル感度シミュレータ

●永久磁石装置の受信感度
静磁場強度と画像SNRの関係は,パルスシーケンスが同一であれば比例します。ところが,これは静磁場強度が近い範囲の場合で,例えば0.4TのAPERTOと超電導1.0T装置ではパルスシーケンスが異なってきます。具体的には,ケミカルシフトによるMR信号の周波数ズレが水と脂肪で3.5ppm存在するため,この両者を1ピクセルに収めるために,静磁場強度の上昇と共にバンドワイズを広げる必要が起こります。この結果,静磁場強度と画像SNRの関係は,平方根に比例することが知られています。したがって,0.4Tと1.0Tでは1.58倍の差となり,ソレノイドコイルによる感度向上と受信コイルの小型化の相乗効果により,APERTOは部位にもよりますが,1.0T装置に匹敵した画像SNRが得られています。

●QDコイルの展開
最新の受信コイルは,シンプルなコイルではなく,多チャンネルのマルチコイルが基本となっています。
2つのコイルを直交配置で組み合わせた受信コイルをQDコイルと呼びますが,QDコイルでは独立した2つのコイルからの信号を加算し,信号レベルは2倍,ノイズレベルは先に述べたように1.41倍となるため,SNRを1.41倍に高めることができます。ただし,これは2つのコイルが同一感度の場合であり,水平磁場では2つのサドルコイルにより構成可能ですが,垂直磁場ではソレノイドコイルを2つ用いることはできず,サドルコイルとの組み合わせとなります。この場合のSNR向上は,最適合成状態で個々のコイルの2乗和平均となり,
√12+0.712=1.23
(ソレノイドコイルの感度を1とすると,サドルコイルの感度は0.71)
となります。したがってソレノイドとサドルのQDコイルでは,SNRが23%向上します(図5)。
水平磁場の場合も同様に,QDコイルによって感度が向上し,
√0.712+0.712=1.00
となり,QD構成でソレノイドコイル1つと同等であることがわかります。

図5 水平磁場と垂直磁場のQDコイル
図5 水平磁場と垂直磁場のQDコイル

●OASISの受信感度
この受信コイルによる画像SNR向上は,静磁場強度を強めたことに等しいと言えます。したがって,1.2TのOASISはソレノイドコイルの高感度と広視野の効果により,1.5T以上の画像SNRが得られることになります。
実際の水平磁場装置で用いられるQDコイルは,2つのサドルコイルの組み合わせではなく,バードケージ型と呼ばれる分布乗数回路を用いたものが一般的です。これは,RFの高周波数化に対応したもので,動作原理はサドルコイルと同様となります。
さらに,コイルのマルチ化を進めたものがアレイコイルです。高感度な小径コイルを複数並べて配置し,それぞれのコイルからの信号を独立して受信することで,高感度化を図ります。ただし,コイルループの近傍は感度が向上しますが,距離が離れると感度は低下し,例えば腹部の場合,複数のコイルを組み合わせたマルチコイルでは,体表部はSNRを向上できますが,体深部ではQDコイルと同等か,複雑な受信システムの損失(プリアンプのノイズ,コイル間結合など)のため,むしろ低下すると考えられます。さらに,この方式のコイルでは感度が領域で異なるため,顕著な画像シェーディングが生じ,感度ムラの補正手段が必須となります。もちろん,感度ムラ補正はSNRの改善ではなく,信号輝度をフラットにする処理なので,中心部でノイズが持ち上がり,見かけの画像SNRが低下する場合もあります。
OASISのマルチコイルであるRAPIDコイルはソレノイドコイルがベースなので,感度の均一性が高く,中心部位においても感度優位性が保たれ,重要な中心部位での感度優位性は1.5T以上と考えられます。
図6に,新たに開発されたOASISのRAPID Headコイルの外観と画像例を,図7に,RAPID Bodyコイルの外観と画像例を示します。それぞれ,ソレノイドコイルベースの高感度マルチコイルシステムで,すべての撮像方向で最大2倍のRAPID計測が行えます。

図6 RAPID Headコイルと画像例
図6 RAPID Headコイルと画像例
図7 RAPID Bodyコイルと画像例
図7 RAPID Bodyコイルと画像例

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