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別冊付録

20号記念 Special Reportage

世界が注目するスポーツ医学施設:JFAメディカルセンター 1.2TオープンMRI「OASIS」による研究を開始

福島県楢葉町の“Jヴィレッジ”内にスポーツ医学施設「JFAメディカルセンター」が開設して,約7か月が経過した。同センターは,国際サッカー連盟(FIFA)がサッカー関連施設の整備を目的に創設した助成制度“Goal Program”の助成を受けて開設されたもので,本Programとしては世界初のスポーツ医学施設である。オフィシャルパートナーである日立メディコ社の超電導型1.2TオープンMRI「OASIS」の国内第1号機をはじめ,各種診断機器が稼働しており,一般の診療はもとより,サッカー選手やプロをめざす子供たちの診療,スポーツ外傷・障害の研究などが行われ,世界のスポーツ医学への貢献が期待されている。同センターで行われている診療および研究の現状とOASISへの期待,展望について,国立スポーツ科学センター内科・放射線科/JFAメディカルセンター副センター長の土肥美智子医師と三澤辰也医師を中心にお話をうかがった。

土肥美智子 医師,三澤辰也 医師

●FIFAの助成による初の医学施設JFAメディカルセンター

土肥美智子医師と超電導型1.2TオープンMRI「OASIS」
土肥美智子医師と超電導型1.2TオープンMRI「OASIS」

JFAメディカルセンターは2009年8月,福島県および楢葉町の協力の下,FIFAのGoal Program初の医学施設として,約80万ドルの助成を受けて設立された。「地域社会,日本社会におけるスポーツ文化の醸成への寄与」と「国際社会への貢献」を事業理念に掲げ,“スポーツ医療事業”,“研究・普及事業”,“地域医療事業”を3つの柱として事業展開を行っている。本事業に対するFIFAの期待は非常に高く,9月14日に同センターで行われたFIFA Goal Programセレモニーには,FIFA会長のジョセフ・S・ブラッター氏も参列し,本センターの設立は“現代サッカーにとって歴史的な出来事”であると高く評価した。
このように,世界からも熱い視線を注がれている同センターには,日立メディコ社の一般撮影装置,超音波診断装置のほか,整形外科領域の診療に必須の画像診断装置として,同社が開発した世界初の高磁場超電導型1.2TオープンMRI「OASIS」の国内第1号機が導入された。また,さまざまなトレーニング機器が導入され,充実したリハビリテーション体制が整えられた。

●スポーツ医学の診断・研究に最適なOASISを導入

診療放射線技師の嶋田芳和技師とOASISのコンソール
診療放射線技師の嶋田芳和技師と
OASISのコンソール

同センターでは,具体的な取り組みとして,(1) スポーツによる外傷・障害等に対する診療,(2) リハビリテーション,(3) スポーツ医科学の研究ならびにスポーツ外傷・障害に関するデータセンター機能,(4) スポーツ医科学の教育,(5) アンチ・ドーピングの啓発拠点,(6) トップアスリートのスポーツメディシンの研究,(7) 子どもの発育・発達期におけるスポーツ外傷・障害予防の研究を挙げている。研究の中心を担う同センター副センター長には,アジアサッカー連盟,国際サッカー連盟のメディカルオフィサーの経験もある土肥医師が非常勤として就任。MRIの選定にあたっても,放射線科医である土肥医師が,日本サッカー協会からの要請を受けてアドバイスを行った。
OASISを推薦した理由について,土肥医師は,「一般の整形外科診療と,スポーツ選手の診療および研究の両面を満たすことを第一条件として検討し,オープンMRIが候補として挙がりました。中でも最近では,特に頭部領域において高磁場装置のニーズが高いことから,これらすべての条件を満たすOASISが最適であると考えました」と述べている。
このとき,OASISはすでに米国内で複数台が稼働していたため,導入に向けて情報収集を行い,同センターの開設に間に合うタイミングで,OASISの国内第1号機の導入が決定した。

●地元患者からアスリートまで幅広い診療を提供

同センターにおける診療は,常勤医の三澤医師が中心となって行っている。三澤医師は,中高一貫教育によりサッカーのエリートを養成する“JFAアカデミー”の生徒の診療やジュニア日本代表の帯同ドクターの経験があり,土肥医師同様スポーツ医学を専門としている。同センターでは,午前は一般の診療,午後は一人20分の予約枠を設けてアスリートの診療が行われるほか,アスレティックトレーナーによるアスレティックリハビリも行っている。また,外来患者数は1日平均約30人で,そのうち5,6人がアスリートとなっている。
一般外来では,腰痛や変形性膝関節症,肩関節周囲炎などの患者さんが多く受診する。同センターではいまのところ,周辺の医療機関などへの周知を積極的に行っていないため,紹介患者数はそれほど多くないが,紹介の多くはMRIによる頭部領域の撮像が目的である。また,MRIの読影・診断は即日を基本としているが,紹介患者については,土肥医師が読影し,依頼医にレポートを提出している。
スポーツ外来の受診者は,運動部に所属する地元の中高生が約40%,JFAアカデミーの生徒が約20%であり,そのうちの約70%をサッカーによる外傷・障害が占める。アスリートについては,早期診断のためにMRIを積極的に撮像しており,受診者のうち約25%に対してMRI検査が行われた。将来的には,MRI撮像を含むメディカルチェックのパッケージをつくり,MRIをより積極的に活用していく方針だという。
このほか,JFAアカデミーの生徒については,外傷・障害の有無にかかわらず,メディカルチェックとして定期的にMRI撮像を行い,症状が出る前のきわめて早期の段階での外傷・障害の発見に努めている。

●高画質と自由な体位の撮像を両立するOASISを評価

超電導型1.2TオープンMRIと新たに開発されたマイクロコイル
超電導型1.2TオープンMRIと新たに開発されたマイクロコイル

OASISでは現在,1か月に約70件の検査が行われている。実際にOASISを使用した印象について,土肥医師は,「四肢関節の撮像の際,トンネル型のガントリでは磁場中心に撮像部位をポジショニングするのが難しいため,アーチファクトなど画質に問題が出たりします。しかし,オープン型のOASISでは,ガントリ内で寝台を横移動することが可能で,磁場中心に四肢を容易に設定できますので,楽な姿勢で検査が受けられます。さらに,空間分解能が高く,短い撮像時間で非常に高画質が得られています。特に,MRAについては1.5T装置と比較しても遜色ないと思います」と高く評価している。
三澤医師も,「手の舟状骨骨折などは,1.2T装置とは思えないほどの高画質です。また,オープン型なので,他院から紹介されてきた閉所恐怖症の患者さんでも,問題なく撮像できます」と述べている。

●JFAアカデミー生を対象にOASISを活用した研究をスタート

一方,OASISを用いた研究は,すでにいくつかのプロジェクトが具体化している。そのうち,MRIによる骨年齢の測定については,いよいよ今年2月1日から,JFAアカデミーの12〜17歳の生徒全員を対象とした6年間の研究がスタートした。
そのねらいについて,土肥医師は,「FIFAでは,年齢別の国際大会における年齢詐称を防ぐため,2003年から手の橈骨のMRI撮像によって骨年齢を測るためのスタディを行いました。その結果を受けて,アジアサッカー連盟では,2008年から骨年齢で試合への出場の可否を判断しています。それに対応するため,子供たちの発達に応じて,年齢を追って個々の縦断的なデータを集めることを目的に,本研究をスタートしました」と説明している。
具体的には,年1回,MRIのT1強調像とT2強調像にて手関節の撮像を行う。橈骨の成長線は,T1強調冠状断像で黒く帯状に描出され,それが年齢とともに閉じていって17歳以上では非常に細い黒い線,あるいはほとんど認められなくなる。また,T2強調像では,閉じる前の成長線は白く描出される。
年齢詐称については,故意に行う以外にも,戸籍制度の整っていない国では身分証明書の生年月日が必ずしも正確とは言えないため,年齢別大会を主催するさまざまなスポーツ団体で年齢の確認は課題となっていた。いくつかのスポーツ団体が,X線による骨年齢の測定を行っていたが,健康な子どもに対する被ばくを伴う検査は国際原子力機関(IAEA)などが認めていないことから,MRIによる骨年齢測定への需要が高まってきた。骨年齢には個人差があり,正確な年齢の測定は難しいが,16歳以下では骨端線が癒合しているケースがほとんどないため,現状では,骨癒合の状態から17歳以上か未満かを判断している。さらに,土肥医師は,成長を追って経時的にMRI撮像を行うことで,骨端線が癒合していく経過をとらえていきたいという。
また,三澤医師は,JFAアカデミー生を対象に,腰椎分離症の早期発見に向けた研究の準備を進めている。具体的には,メディカルチェックにおいて,STIR冠状断像を3か月に1回撮像し,どの程度症状が出た段階で病変が画像に描出されるのかを明らかにしたいという。さらに,10代前半に好発する膝の脛骨粗面における骨端症の一種であるオスグッド病についても,新しく開発されたマイクロコイルを用いて細かく観察していく予定である。

【RAPID KNEEコイルによる手関節から指先までの画像】
【RAPID KNEEコイルによる手関節から指先までの画像】

【RAPID Headコイルによる片麻痺症例】
【RAPID Headコイルによる片麻痺症例】

【RAPID KNEEコイルによる肘関節内側骨端障害例】
【RAPID KNEEコイルによる肘関節内側骨端障害例】

【RAPID KNEEコイルによる膝関節の離断性骨軟骨炎】
【RAPID KNEEコイルによる膝関節の離断性骨軟骨炎】

【RAPID Headコイルによる片麻痺症例の頭部MRA】
【RAPID Headコイルによる片麻痺症例の頭部MRA】

【顎関節マイクロコイル画像】
【顎関節マイクロコイル画像】

●研究成果を世界に向けて発信し予防医学への貢献をめざす

土肥医師は,研究における今後の展望について,次のように述べている。
「ジュニアを対象に,成長の過程を縦断的に研究したデータはこれまでほとんどありませんので,腰椎分離症やオスグッド病の研究では,非常に興味深いデータが得られるのではないかと考えています。特に,どのような段階でMRIの信号が変化し,病気やケガが発症するのかまったくわかっていませんが,これは予防という観点から特に重要な情報です。身体が出来上がる前のオーバートレーニングを避ける,あるいは外傷・障害が起こらないようなトレーニングを行っていくために,有用な情報が得られることを期待しています」
将来的には,JFAメディカルセンターでの研究で得られた成果を,国内はもとより全世界に発信し,スポーツ医学の発展に貢献することをめざすという。
一方,同センターの運営のベースとなるのは,まずは日常の診療である。この点について,三澤医師は,「今後は日本サッカー協会のバックアップのもと,ホームページの作成をはじめとする情報発信や地域への広報を積極的に行い,多くの人に利用してもらえるようにしたい」と抱負を述べている。
まだ開設して間もない同センターであるが,スポーツ医学の歴史に新たな一頁を記す成果が待たれる。

(2010年2月12日取材)

JFAメディカルセンター
JFAメディカルセンター
〒979-0513
福島県双葉郡葉町大字山田岡字美シ森8番
TEL 0240-25-1557 FAX 0240-25-1575
診療科目:整形外科,リハビリテーション科

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