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別冊付録

TOPICS

MRガイド下凍結治療の臨床応用がスタート
「CryoHit」とオープンMRI「AIRIS」を使用した小径腎がんへの経皮的冷凍治療を実施

KKR札幌医療センター斗南病院

清水 匡 科長
清水 匡 科長

KKR札幌医療センター斗南病院では,2011年7月より,MRガイド下による凍結治療の臨床応用を開始した。同院放射線診断科の清水 匡科長は,2001年から開始された凍結治療の治験にも参加した,日本における凍結治療のパイオニアの一人である。日本での凍結治療は,2010年に冷凍手術器が薬事承認され,2011年7月1日から小径腎がん(4cm以下)に対する凍結治療が保険収載されたことで,治験から10年余りを経て,本格的な臨床応用がスタートした。
同院では,冷凍手術器「CryoHit」(Galil Medical社製/日立メディコ社販売)とオープンMRI「AIRIS」を導入し,泌尿器科と連携して小径腎がんの治療を開始したほか,自由診療として難治性がん性疼痛,子宮筋腫,肝がんなどへの適応も始まっている。第一人者としてMRガイド下凍結治療に取り組む清水科長と凍結治療チームのスタッフに,凍結治療の現状と今後の展開を取材した。

チームスタッフ

2011年7月から小径腎がんに対する凍結治療を開始

斗南病院は,国家公務員共済組合連合会(KKR)の医療機関として,北海道庁に隣接する札幌の中心地に1961年に設立された急性期病院である。消化器内科,呼吸器内科,外科,生殖内分泌科など16の診療科で,専門性の高い高度な医療を提供している。
放射線診断科の清水科長は,2011年4月,北海道大学大学院保健科学研究院から同院へ赴任した。インターベンショナルラジオロジー(IVR)を専門にする清水科長は,2001年3月〜2002年10月にかけて北海道大学と東京慈恵会医科大学附属柏病院で行われたオープンMRIガイド下経皮的凍結治療の臨床試験に参加している。今回の斗南病院での凍結治療への取り組みの経緯を次のように語る。
「冷凍手術器の薬事承認を受けて,北大での導入の可能性を模索したのですが,予算やスペースの問題でなかなか難しい状況でした。その時に,非常勤の勤務先だった斗南病院の加藤紘之院長から,装置を導入して取り組んだらどうかというお話をいただきました。加藤院長は,北大で治験を行った時の第二外科(消化器,呼吸器のがんに対する外科治療)の教授で,凍結治療の可能性に理解があり,期待もされていましたので,斗南病院でスタートすることにしました」
同院では,冷凍手術器「CryoHit」と,0.3TオープンMRI「AIRIS」を新たに導入し,凍結治療にあたるチームの編成やスタッフの研修などの体制を整え,2011年7月から小径腎がんに対する治療を開始した。

MRガイド下による手技で安全で確実な治療を実施

CryoHitは,高圧アルゴンガスを使用し,ジュール・トムソン効果によってニードルの先端部分に凍結領域を作り出す凍結治療装置である。治療用のニードルは1.5mm径で,MRIでの使用に対応しており,先端部分は−170℃まで冷却される。凍結治療では,経皮的にニードルを標的部位まで穿刺し,急速冷凍と解凍を繰り返すことで周辺組織の細胞破壊,組織障害を起こし,腫瘍細胞を壊死させる。ほかの局所療法と比べて凍結治療が優れているのは,凍結による麻酔効果で痛みがないこと,タンパク変性が起こりにくくターゲットの周辺組織のダメージが少ないこと,繰り返し治療が可能なこと,などが挙げられる。さらに,治療のガイドとしてMRIを使うことで,凍結領域を正確に確認でき,安全で精度の高い治療が可能になると清水科長は言う。
「MRIは,組織コントラストが高く,腫瘍と周辺臓器の境界を明瞭に確認することができます。さらに,凍結領域は境界明瞭な無信号あるいは低信号に描出されます。RFA(ラジオ波焼灼療法)やFUS(集束超音波療法)などの画像ガイド下の局所療法はもちろん,手術を含めても,ここまで正確に治療域を確認して行える治療法は,ほかにはないのではないでしょうか」と,MRIガイド下凍結治療のメリットを強調する。
同院では,治療のガイド用としてAIRISを導入したが,凍結治療における撮像のほか,婦人科や整形外科,脳神経領域などの中磁場で評価可能な疾患の画像診断にも活用している。

冷凍手術器「CryoHit」のコントロールユニット
冷凍手術器「CryoHit」の
コントロールユニット
凍結治療を行うオープンMRI「AIRIS」
凍結治療を行うオープンMRI「AIRIS」
ニードルの使用時にはバーコードで本体に登録
ニードルの使用時にはバーコードで本体に登録
凍結や解凍の時間や温度をモニタで監視しながらコントロール
凍結や解凍の時間や温度をモニタで
監視しながらコントロール
CryoHitのコントロールユニットはAIRISの操作室に設置
CryoHitのコントロールユニットは
AIRISの操作室に設置
冷凍用のアルゴンガスと解凍用のヘリウムガスのボンベ
冷凍用のアルゴンガスと
解凍用のヘリウムガスのボンベ

事前のMR画像から穿刺の方向やニードルの本数などをプランニング

同院では,2011年7月〜2012年2月までの間に,12例の凍結治療を行った。現在,治療の対象となる患者は,大学病院や北海道がんセンターからの紹介が中心だが,凍結治療が地方紙に紹介されたことで,患者自らの希望で来院するケースも増えつつあるという。
凍結治療の適応判断は泌尿器科医が行い,年齢や腎機能などの全身状態から外科手術が困難な場合で,小径腎がんの適応となる4cm以下が対象となるが,実際に治療が可能かどうかは腫瘍のサイズと同時に,位置が問題になると清水科長は言う。
「凍結治療では,腫瘍の位置は重要です。腫瘍が腎洞と言われる,腎臓の内部で血管に近いところにある場合には,血流によって十分な凍結が得られないことがあります。また,腎門部で血管近傍の場合も,血管損傷などのリスクが高くなりますので,年齢などを考慮して,慎重に適応を判断します」
紹介患者については,必ず凍結治療の可否について,CTやMRIの画像で確認する。治療対象と判断した患者については,外来でインフォームド・コンセントを行い,事前にオープンMRIで撮像して腫瘍の位置や穿刺経路を確認し,治療時の体位やアプローチの方向,ニードルの本数まで術前プランニングを行う。

オープンMRIでの凍結治療の実際

平井寛能 技師(診療放射線技師)
平井寛能 技師
(診療放射線技師)
鎌田 豊 技士(臨床工学技士)
鎌田 豊 技士
(臨床工学技士)
佐藤光恵 看護師
佐藤光恵 看護師

〈凍結治療体制とセッティング〉
凍結治療にあたるスタッフは,術者である清水科長のほか,診療放射線技師2名,臨床工学技士2名,看護師2名。診療放射線技師は,術前術中のMRIの撮像を担当し,臨床工学技士はCryoHitの準備と術中の操作,また,直接介助者として清潔野で術者への器具出しなどの役割も担う。看護師は,病棟からの申し送りを受け,術中の患者の観察や声かけ,清潔野への器具や薬品出しなどを行う。
臨床工学技士の鎌田 豊技士は,「事前の準備としては,冷凍・解凍に使用するガスボンベの確認と補充,治療に使用するニードルの準備などを行います。術中は,CryoHitの操作のほか,術者の補助として器具出しやニードルの凍結テスト,止血用のゼラチンスポンジの準備などを担当しています」と説明する。
同院では,凍結治療時の患者の体位は,側臥位か腹臥位が多いが,オープンMRIの開口部の高さの関係から,体格や腫瘍の位置に合わせて選択する。この時に患者が楽な体位が取れるように,クッションや大型の枕などを用意した。放射線部の佐藤光恵看護師は,「凍結治療自体が初めての取り組みでしたので,治験での経験がある清水科長の助言を得ながら試行錯誤しました。患者さんの体位維持のための枕やクッション,清潔のためのMRIガントリの覆布のセッティング,凍結中のニードルでの凍傷防止用の温水の循環方法など,症例を重ねて改善していきました」と語る。

〈凍結治療の進め方〉
凍結治療装置では,穿刺前にニードルのテストを行うことが求められている。鎌田技士は,「ニードルの安全性の確認のために,凍結テストを行わないと本治療の凍結ができない機構になっています。麻酔をしている間に,ニードルを生理食塩水に入れて凍結テストをするのも,臨床工学技士の役割です」と言う。
CryoHitでは,5本のニードルを同時に制御することが可能だが,治療では腫瘍の大きさや形状によって,2〜4本を使用する。1本目の穿刺後,“stick”という出力を下げたモードで,針先を少しだけ凍らせてニードルを固定する。「固定のためのアイスボールが大きくなりすぎると,次に刺す針がぶつかってしまうため,干渉しないように細かく調整します」と鎌田技士は説明する。
すべてのニードルが腫瘍内に穿刺されたことをMRIで確認した後,凍結と解凍のサイクルを2回行う。1回の凍結は10分を標準として,腫瘍の大きさによって調整し,解凍は2分間の自然解凍で行う。清水科長は,「強制解凍によって,凍結部分をすべて解凍する方法もありますが,急速冷凍後ゆっくり解凍することが最も組織障害効果が高いと言われていることと,中心に近い−40℃以下の部分は,すでに細胞が壊死していると考えられ,周囲の−20℃以上の領域を2回凍らせればいいと判断して,この方法をとっています」
凍結中には,腫瘍の状態をMRIでほぼリアルタイムで確認し,温度の変化を画像から判断して,腫瘍の外径から5mm以上のマージンをとって凍結を行う。

〈MRIによる撮像〉
MRIは,術前のプランニングではT1およびT2強調画像を撮像し,主にT1強調画像のアキシャル像をベースにして,コロナル,サジタルの撮像を行う。本番での体位を決定するため,背臥位や側臥位,半側臥位などをガントリ内で試し,体位を決定してから撮像する。
凍結治療時には,まず,事前の計画に基づいて患者のポジショニングを行い,体表のアプローチする部分に指を当てて撮像を行う。それによって,穿刺部分と腫瘍の位置を把握し,撮像断面とシーケンスを決定して,ダイナミックモードで穿刺の状況を確認しながら手技を行う。平井寛能技師は,「穿刺時には,針先を進めるたびに繰り返し撮像しますので,1回のチューニングで連続して撮像できるダイナミックモードを使っています」と説明する。
凍結状態の確認の際には,基本的に1分おきに撮像する。凍結領域は,T1,T2の緩和時間が短縮することで,無信号で黒く抜けて表示される。これによって,非凍結領域とのコントラストが明瞭になり,病変部のみの正確な治療が可能になる。凍結中の撮像上の注意点について,平井技師は,「凍結範囲が拡大していくので,全体をとらえるために画像を見ながらギャップとスライス厚を調整します。凍結ではマージンを取りますので,腫瘍だけでなく周辺組織まで観察できるように,撮像範囲に注意することが必要です」と言う。

MRガイド下凍結治療の手順

術者と診療放射線技師の連携が安全で正確な凍結治療を実現

ここまで,順調なスタートを切った凍結治療だが,MRガイド下凍結治療をよりスムーズに進めるためには,術者とスタッフ,特に撮像を担当する診療放射線技師との連携が重要になると清水科長は言う。
「MRガイド下の穿刺では,CTのように断面が決まっていないので,次にどんな画像が必要かを判断するセンスと技術が要求されます。MRIでは,任意の断面で画像が撮れ,シーケンスもさまざまです。手術場の器具出しの看護師のように,1手先を読むことが手技時間の短縮にもつながり,安全で確実な治療が可能になります」
その点について,平井技師は,「ポジショニングと腫瘍の形状から,術者が必要とする画像を予測して準備することを心掛けています。1回の手技で2時間程度はかかりますので,撮像時間を短縮できれば,体位変更ができない患者さんの負担を減らせます。術者と一心同体になれるように,経験を積み重ねていきたいですね」と言う。

症例

難治性がん性疼痛や子宮筋腫など凍結療法の適応拡大に取り組む

凍結治療の保険収載にあたっては,日本低温医学会など関連学会が中心となって作成された「MRIガイドによる小径腎癌に対する経皮的凍結療法のガイドライン」がベースとなったが,施設基準として“常勤の泌尿器科の医師が2名以上配置”という条件が設けられた。同院では,泌尿器科医が1名のため,現状では凍結治療としての保険請求は行っていない。清水科長は,「この治療法が保険診療として認められたことは大きな進歩ですが,安全な治療の実施という観点からは,放射線専門医の存在や外科のバックアップ体制なども考慮されるべきです。ただ,当院としては患者さんに対して最善の治療法を提供することを優先して,凍結治療を実施することにしました」と言う。
同院では,MRガイド下凍結治療について,院内の倫理委員会の承認を得て,難治性がん性疼痛,子宮筋腫,肝臓がん,を対象に自由診療で治療を開始するほか,今後,乳がん,有痛性骨腫瘍などへの適用も検討している。清水科長は,凍結治療の難治性がん性疼痛への適応に期待していると言う。
「凍結療法では,神経の通り道であるミエリンシースを残して神経線維だけを壊死させ,神経の再生によって痛みが緩和されるという報告があり,疼痛緩和への効果が期待されています。骨でも凍結領域の硬化と再生・復元が起こることが確認されており,骨転移や骨盤内の転移などでの疼痛コントロールで,神経損傷などの合併症の恐れが少ない凍結治療に期待しています」
最初の臨床治験から10年を経て,ようやく臨床での適応がスタートした凍結治療。清水科長は,「日本の凍結治療は,欧米をはじめ中国からも大きく遅れをとってしまいました。ただ,治験から中心となって尽力された東京慈恵会医科大学附属柏病院の原田潤太教授の努力と関連学会の支援,CryoHitをディーラーとして扱う日立メディコの協力がなければ,日本での凍結治療の開始はなかったと言ってもいいでしょう。それだけに今後,この治療法に積極的に取り組み,普及,発展させていくことが,われわれの責務だと考えています」と語る。
凍結治療の適応拡大については,JIVROSG(Japan Interventional Radiology In Oncology Study Group:日本腫瘍IVR研究グループ)で多施設共同研究の準備が進められている。低侵襲で患者にやさしい凍結治療が,治療の選択肢のひとつとして普及,発展していくことが期待される。

(2012年1月19日取材)

KKR札幌医療センター斗南病院
KKR札幌医療センター斗南病院
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TEL011-231-2121
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