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別冊付録

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第12回日本術中画像情報学会 ─「術中MRIの有用性,新たな展開」をテーマにシンポジウムを開催

大会長 松村 明 氏(筑波大学)
大会長 松村 明 氏
(筑波大学)

第12回日本術中画像情報学会学術講演会が7月7日(土),つくば国際会議場にて開催された。大会テーマに「マルチモダリティー時代における術中画像情報─安全で確実な手術をめざして─」を掲げ,松村 明氏(筑波大学医学医療系脳神経外科教授)が大会長を務めた。今回は,第8回日本脳神経外科光線力学学会と第22回日本光線力学学会との合同開催であり,当日はシンポジウム4題のほか,日本光線力学学会と合同の特別講演とシンポジウム,ランチョンセミナーが行われた。

日本光線力学学会との合同開催であった特別講演は,ドイツTuebingen大学のMarcos Tatagiba氏による「First experience with mobile intraoperative MR system in Tuebingen, Germany」が行われた。また,合同シンポジウムでは「術中蛍光血管撮影の有用性」をテーマに5施設からの発表があった。

つくば国際会議場
つくば国際会議場

シンポジウムは,「脳血管内治療・脳循環評価における術中画像の有用性」「脊髄手術における術中画像・モニタリングの有用性」「術中MRIの有用性,新たな展開」「手術室における生体情報の統合化」の4セクションが設けられ,26題の発表が行われた。

そのうち,術中MRIを実施している施設からの臨床報告が行われた「術中MRIの有用性,新たな展開」は,2部に分けて発表が行われ,合計8施設から術中MRIの使用状況や有用性の検討,課題などについての発表があった。

術中MRI国内第1号の導入(2000年,東京女子医科大学)から12年が経過し,術中MRIを用いた手術の5年生存率が報告され始めるとともに,導入施設で症例数が重ねられて治療成績が発表されるようになってきており,術中画像情報としてのMRIへの注目は高まりつつある。

術中MRIで使用するMRI装置は,各施設が目的に応じて静磁場強度を選択し,導入・運用している。中低磁場オープンMRIを術中MRIに用いる利点としては,5ガウスラインが狭く,通常の手術器具を使用しやすいこと,ガントリの開口径が広く撮像中に患者の様子を観察しやすいこと,コストパフォーマンスに優れることなどが挙げられる。シンポジウムでは,日立メディコ社製中低磁場オープンMRIを術中MRIに用いている施設として,東京慈恵会医科大学附属柏病院,鹿児島大学,国立がん研究センター中央病院,東京女子医科大学の4施設からの発表が行われた。

シンポジウム3-1「術中MRIの有用性,新たな展開(1)」は,若林俊彦氏(名古屋大学大学院)と平野宏文氏(鹿児島大学)が座長を務め,田中俊英氏(東京慈恵会医科大学附属柏病院)の「慈恵医大柏病院の術中MRI併用手術の現状〜グリオーマ治療成績の向上と若手術者の育成をめざして〜」から始まった。同院では,これまでにグリオーマを中心に28例の術中MRI併用開頭手術を行っており,その経験から術中MRIの有用性と課題が報告された。肉眼的に同定困難なlow-grade gliomaに対する工夫として,腫瘍の位置・深さをエコーで同定し,術中マーカーを留置して術中MRIを撮像することで,深さやマージンを同定することが可能なことから,経験の少ない医師でも安全に摘出することができる有用なツールであると評価した。そして,これまでの治療成績を紹介した上で,問題点として,<1>eloquent areaに存在するグリオーマを全摘できないこと,<2>腫瘍の全摘率は上昇したが,生命予後が変わらないこと,<3>術中MRI導入後,原発病巣の局所コントロールは良好にもかかわらず髄液播種を呈する所見が散見されることを挙げ,これらの問題点をどう解決するかが,術中MRIが克服すべき課題であるとした。それでも,グリオーマの治療成績向上への術中MRIの貢献度は大きいとし,現時点ではgrade2,3のlow-grade gliomaが至適と考えると締めくくった。

続いて,平野宏文氏(鹿児島大学)が「グリオーマ手術における手術支援の使用状況と役割」と題して講演し,同院のグリオーマ手術における術中MRI,蛍光手術,電気生理学的手技の使用状況を報告した。同院では,2009年に0.3TのオープンMRI「AIRIS plus(製品名:AIRIS Elite)」で術中MRIを開始し,2012年3月までに126例の初発グリオーマ患者の治療を行っている。開頭腫瘍摘出術は98例で,そのうち96例でナビゲーションを使用し,61例(62%)で術中MRIを実施。術中MRIの使用をgrade別に見ると,grade2,3で70%以上と,高頻度で使用されている。術中MRIで残存腫瘍が確認された49例のうち33例で追加切除が行われ,22例で全摘が得られた。また平野氏は,他の手術支援のツールとして,蛍光手術も半数程度で行われ,電気生理学的手技の使用頻度も継続的に上昇傾向にあることを紹介。同院のグリオーマ手術においては,ナビゲーションは不可欠であり,術中MRI,蛍光手術も安定的に用いられるようになっており,グリオーマ手術における重要なツールとなっているとした。そして,術中MRIは,腫瘍摘出率の向上に貢献しており,今後症例数が増えていくことで,生存率のデータも出てくるだろうと述べた。

●シンポジウム3-1「術中MRIの有用性,新たな展開(1)」

若林俊彦 氏(名古屋大学大学院)
若林俊彦 氏
(名古屋大学大学院)
田中俊英 氏(東京慈恵会医科大学附属柏病院)
田中俊英 氏
(東京慈恵会医科大学
附属柏病院)
平野宏文 氏(鹿児島大学)
平野宏文 氏
(鹿児島大学)
櫻田 香 氏(山形大学)
櫻田 香 氏
(山形大学)

中原紀元 氏(名古屋セントラル病院)
中原紀元 氏
(名古屋セントラル病院)

シンポジウム3-2「術中MRIの有用性,新たな展開(2)」は,座長を森田明夫氏(NTT東日本関東病院)と継 淳氏(東海大学)が務めた。
まず,成田善孝氏(国立がん研究センター中央病院)が「MRI/CT/DSAを備えた画像支援手術室の安全性と有用性の初期使用報告」と題して講演した。同院では,2012年2月よりMRI,CT,DSAを備えた手術室の稼働を始めており,成田氏はまず,手術室の概要について説明した。手術室の特徴として,顕微鏡画像やナビゲーション,脳波,エコー,カルテ,術中麻酔記録などの多様な情報を,画像配分・合成装置を用いて大型モニタ・天吊りモニタへ表示したり,さまざまな記録装置からの複雑な信号ケーブルを,機器の定位置の天井から吊り下げるといった工夫を施して,機能的な手術室を構築できたことを紹介した。同院では,術中MRIを腫瘍摘出後に撮像し,残存腫瘍がある場合に,術前画像(MRIとPETなどの合成画像)と術中画像を融合させて残存部位を同定,追加切除を行っている。撮像時間自体は10〜15分程度であるが,現在は手術中断から再開までに45〜70分が必要となっているという。これまでに26例の腫瘍摘出術,定位的腫瘍生検術を行い,24例で術中MRIを実施。術中MRI後に追加切除を4例で行っており,16例で全摘出を行うことができたと,成田氏はその有用性を評価した。中低磁場MRI装置の利点として,安全であり,従来通りのさまざまな手術が可能であることを挙げ,術中MRIの有用性は,摘出率向上や残存病変を確認できることにあるとした。課題としては,手術室の占有時間,医師・看護師・診療放射線技師の確保,血腫が描出されにくいこと,麻酔モニタの不安定性などを挙げ,脳外科以外での活用などを考えていく必要もあるだろうと述べた。

本シンポジウム最後の発表は,丸山隆志氏(東京女子医科大学)が「神経膠腫摘出に対する術中MRIの後方視的有用性検討」と題して行った。同院では,2000年4月に術中MRIを導入後,症例数は1000例を超える。丸山氏は,2011年8月までの経験症例を後方視的に振り返り,術中MRIの使用/非使用による摘出率・治療成績について検討報告した。対象とした496例の初発神経膠腫手術〔grade2:190(38%),grade3:138(28%),grade4:189(34%)〕のうち,術中MRI使用が467例(94%),非使用が29例(6%)で,非使用の内訳はgrade2が9例,grade3が6例,grade4が14例であった。丸山氏は,grade2,3は症例数が少なく,特異的な症例であると断った上で,grade2,3ではMRIの使用/非使用で摘出率に有意差はなく,PFS(無増悪生存期間)とOS(全生存期間)にも有意差はなかったと述べた。grade4は,摘出率が使用94%/非使用78%と有意差が認められ,OSも11か月/21か月と有意差があったと説明した。丸山氏は,非使用群の症例割合が少なく,バイアスの強い後方視研究であるため,術中MRIの有用性を示すことは難しいとした上で,grade2,3では,術前に他疾患の疑われた症例や,摘出の容易な症例,部分摘出症例が非使用群に含まれるために有意差がほとんどなく,grade4では,状態が悪く準緊急での手術が必要で,MRI手術室が確保不能であったなどの社会的な要因で非使用群が選択され,効能を示唆する有意差が生じたと考えられるとした。国内ではランダム化比較試験が困難なものの,倫理面を考慮した前向き臨床研究が必要であろうと述べた。

●シンポジウム3-2「術中MRIの有用性,新たな展開(2)」

成田善孝 氏(国立がん研究センター中央病院)
成田善孝 氏
(国立がん研究センター
中央病院)
継  淳 氏(東海大学)
継  淳 氏
(東海大学)
森田明夫 氏(NTT東日本関東病院)
森田明夫 氏
(NTT東日本関東病院)
丸山隆志 氏(東京女子医科大学)
丸山隆志 氏
(東京女子医科大学)

シンポジウムの最後に行われた総合ディスカッションでは,術中MRIの有用性や安全管理についての意見が交わされ,安全管理のためにもガイドラインが必要であるといったコメントが出された。なお,日本術中画像情報学会では,昨2011年より術中MRIの手順書の作成を進めていると同時に,術中MRI実施施設のネットワークを構築する方向で動き始めている。

機器展示会場
機器展示会場

このほか学会全体のプログラムとしては,3社によるWork in progressの発表や,機器展示が行われた。

次回(2013年)は,大会長を嘉山孝正氏(山形大学医学部脳神経外科教授・国立がん研究センター名誉総長)が務める(会期・会場は未定)。

●第12回日本術中画像情報学会プログラム

■シンポジウム1 脳血管内治療・脳循環評価における術中画像の有用性
座長 野崎和彦(滋賀医科大学),宮地 茂(名古屋大学)
S1-1 頭蓋内ステント併用脳動脈瘤コイル塞栓術における術中Cone-beam CTの有用性
鶴田和太郎(虎の門病院)
S1-2 血管撮影装置を用いた脳血液量評価(Neuro-PBV)の脳血管内治療への応用
糸川 博(葛西昌医会病院)
S1-3 Hemangioblastomaに対する術中ICG血管撮影の有用性
田村陽史(大阪医科大学)
S1-4 脳動静脈奇形摘出術におけるレーザー光による脳組織血流測定の有用性
小泉博靖(山口大学)

■シンポジウム2 脊髄手術における術中画像・モニタリングの有用性
座長 栗栖 薫(広島大学),本郷一博(信州大学)
S2-1 脊椎手術における術中ナビゲーション
安田宗義(愛知医科大学)
S2-2 脊椎脊髄手術時における術中モニタリングの工夫
武田正明(広島大学病院)
S2-3 髄内腫瘍手術におけるmotor evoked potentialの有用性と限界
黒川 龍(獨協医科大学)
S2-4 頭蓋頸椎移行部硬膜動静脈ろうに対する術中ICG蛍光撮影に関する経験
金 景成(日本医科大学千葉北総病院)
S2-5 脊椎脊髄領域における術中ICG血管撮影の有用性
村上友宏(札幌医科大学)

■合同シンポジウム 術中蛍光血管撮影の有用性
座長 児玉南海雄(福島県立医科大学),粟津邦男(大阪大学)
JS-1(光線力学) インドシアニングリーン内包ナノ粒子を用いた腫瘍選択的な光線力学療法による脊椎転移ラットの治療効果
船山 徹(筑波大学)
JS-2(光線力学) インドシアニングリーン蛍光法によるセンチネルリンパ節同定の検討
白銀 玲(千歳科学技術大学)
JS-3(術中画像) 同一症例におけるインドシアニングリーンとフルオレセインを用いた術中蛍光撮影
佐藤 拓(福島県立医科大学)
JS-4(術中画像) Indocyanine greenによる術中蛍光血管撮影の有用性と課題
小松洋治(筑波大学附属病院)
JS-5(術中画像) 脳神経外科手術における術中ICG videoangiographyの役割と今後の展望
渡部剛也(藤田保健衛生大学)

■日本光線力学学会との合同ランチョンセミナー
座長 端 和夫(太平洋脳神経外科コンサルティング)
MR-Guided Robotic Surgery Garnette Sutherland, MD(University of Calgary)

■特別講演(日本光線力学学会合同)
座長 松村 明(筑波大学)
First experience with mobile intraoperative MR system in Tuebingen, Germany
Marcos Tatagiba, MD, PhD(Eberhard-Karls University of Tuebingen)

■Work in progress
座長 青木茂樹(順天堂大学)
WP-1 画像・情報支援のデジタル化,高度化に適応した統合型術前・術中画像・情報マネージメントシステムを目指して
惠藤信一郎(ブレインラボ株式会社)
WP-2 「syngo Neuro PBV IR」の紹介
清水 覚(シーメンス・ジャパン株式会社)
WP-3 術中超音波検査
宮本 清(日立アロカメディカル株式会社)

■シンポジウム3-1 術中MRIの有用性,新たな展開(1)
座長 若林俊彦(名古屋大学),平野宏文(鹿児島大学)
S3-1 慈恵医大柏病院の術中MRI併用手術の現状 〜グリオーマ治療成績の向上と若手術者の育成をめざして〜
田中俊英(東京慈恵会医科大学附属柏病院)
S3-2 グリオーマ手術における手術支援の使用状況と役割
平野宏文(鹿児島大学)
S3-3 テント上グリオーマの手術ステージ別に見た術中MRIシステムの有効性と限界
櫻田 香(山形大学)
S3-4 術中MRI統合ナビゲーションシステム支援内視鏡下経蝶形骨洞手術
中原紀元(名古屋セントラル病院)

■シンポジウム3-2 術中MRIの有用性,新たな展開(2)
座長 森田明夫(NTT東日本関東病院),継  淳(東海大学)
S3-5 MRI/CT/DSAを備えた画像支援手術室の安全性と有用性の初期使用報告
成田善孝(国立がん研究センター中央病院)
S3-6 術中MRI手術における患者安全
継  淳(東海大学)
S3-7 術中画像用コンパクトMRIシステムの開発と運用:一般化への展望
森田明夫(NTT東日本関東病院)
S3-8 神経膠腫摘出に対する術中MRIの後方視的有用性検討
丸山隆志(東京女子医科大学)

■シンポジウム4-1 手術室における生体情報の統合(1)
座長 長谷川光広(藤田保健衛生大学),藤井正純(名古屋大学)
S4-1 次世代脳神経外科手術室の構築:周術期画像情報管理システム(PICS)の導入
市川智継(岡山大学)
S4-2 手術教育を目的とした3次元手術顕微鏡の術中応用
立石健祐(横浜市立大学)
S4-3 術中手術用顕微鏡に装着したiPadによる神経画像表示方法の開発
柿澤幸成(信州大学)
S4-4 頭蓋底手術における3Dバーチャル画像の有用性 ーシミュレーションからナビゲーションへー
藤井正純(名古屋大学)

■シンポジウム4-2 手術室における生体情報の統合(2)
座長 渡部剛也(藤田保健衛生大学),丸山隆志(東京女子医科大学)
S4-5 マルチトレーサーPETを用いた脳腫瘍手術戦略
池谷直樹(横浜市立大学)
S4-6 覚醒下手術周辺環境セットアップの当科における工夫
佐藤 充(横浜労災病院)
S4-7 運動野・錐体路近傍グリオーマに対する複合モニタリングシステム導入後治療成績
大竹 誠(横浜市立大学)
S4-8 超音波統合光学式ナビゲーションシステムを用いたグリオーマ病変の術中シフトの検証
中島伸幸(東京医科大学)
S4-9 ニューロナビゲータにおける簡便なマーカーレス・レジストレーション法とネットサポートの開発
小針隆志(自治医科大学)

●問い合わせ先
学術講演会事務局
筑波大学医学医療系脳神経外科
TEL 029-853-3220
E-mail:JIOS12@md.tsukuba.ac.jp
http://jios12.umin.jp/

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