日立メディコ

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Technical Note

2010年10月号
CT新潮流−最新の被ばく低減技術のポイント

CT−64列CT「SCENARIA」の被ばく低減技術

羽田野顕治
CT戦略本部

64列CT「SCENARIA」図1)は,二次元散乱線コリメータを備えた0.625mm×64列の検出器,2880view/sの高速データ収集,Feldkamp法に比べて高画質な日立独自のCORE法による画像再構成を中心として,心臓だけでなく全身を0.35秒スキャンで撮影できることを特長としている。

本稿では,SCENARIAに搭載した新しい被ばく低減技術について紹介する。

図1 SCENARIA
図1 SCENARIA

●被ばく低減技術

1.CNR-AEC

撮影時の線量を最適化するAEC(Automatic Exposure Control)技術のうち,画像のノイズの標準偏差(Standard Deviation)を指標として,画質を一定にしながら撮影線量を最適化するSD-AECは,すでに広く利用されている。SCENARIAでは,SD-AECに加えて,コントラスト-ノイズ比(CNR)を考慮した線量最適化技術“CNR-AEC”を開発した。一般的に,組織間のコントラストが大きければ,画像ノイズが大きくても組織の識別は可能であり,線量を低減できる可能性がある(図2)。SCENARIAでは,組織間のコントラストと識別性に関する独自のデータベースを用意することにより,CNR-AECの実現が可能となった。特に,被検者のサイズが小さい場合や撮影管電圧が低い場合には,組織間のコントラストが高くなるため,SD-AECに比べて線量低減が期待できる(図3)。

図2 コントラスト・SDと識別能
図2 コントラスト・SDと識別能

図3 CNR-AEC法
図3 CNR-AEC法

2.Intelli IP

“Intelli IP(Iterative Processing)”は,従来の被ばく低減用画像フィルタと異なり,繰り返し適応型処理によって,統計的なデータの信頼性に基づいたノイズ低減処理を投影データと画像の双方に施すものであり,逐次近似法を応用してノイズ低減度,先鋭度,粒状性等のバランスを部位ごとに最適化する処理である。また,SCENARIA専用の高速演算器により,撮影中のリアルタイム処理も可能である。図4に臨床画像を示す。頭部・腹部ともに組織コントラストを保ちつつノイズを低減することができ,大幅な被ばく低減効果が期待できる。

図4 Intelli IPの効果
図4 Intelli IPの効果

3.Cardiac Bow-tie Filter & 寝台横スライド機構

心臓撮影時は撮影対象領域が小さいため,X線を関心領域に絞って照射することにより,全体の被ばくを低減することが可能になる。これを実現するため,X線を関心領域に絞る心臓用の線量補償フィルタ“Cardiac Bow-tie Filter”と,X線を絞った関心領域に心臓を位置決めできるよう寝台横スライド機構(図5)を開発した。寝台横スライド機構は,左右に最大80mmスライドさせることができる仕様となっており,被検者を通常どおり寝台の中央に寝かせた後,簡単な操作で心臓を撮影中心に移動させることができる。つまり,被検者と診療放射線技師にとって,負担の少ないポジショニングが可能となる。また,空間分解能が高いスキャナの回転中心に心臓を位置決めすることができるメリットもある。仮想ファントムによるシミュレーションでは,従来の全身用の線量補償フィルタ(Body Bow-tie Filter)と比較して,心臓撮影時に断面内トータルで最大25%の被ばく低減が可能という結果が得られている。

図5 Cardiac Bow-tie Filter & 寝台横スライド
図5 Cardiac Bow-tie Filter & 寝台横スライド

●無効被ばくを防ぐ機能

被ばく低減に直接効果があるのは,mAs値が下げられるAEC機能やノイズ低減処理であるが,息止め不良や動きによる再撮影(無効被ばく)を防ぐことも,被ばくを最小限に止める意味で被ばく低減につながる。

1.Touch Vision

スキャナガントリ正面の大型液晶モニタはタッチパネルになっていて,表示させたい内容をタッチすると画面が切り替わり,検査についてのさまざまな説明や息止め練習ができるようになっている(図6)。外国人に対しては,10か国語の中から選んで説明をしたり(図6 a),耳の不自由な被検者には,手話アニメーション(図6 b)で息止めのタイミングを説明したりすることが可能である。検査前の説明によって十分に息止めを行うことで,動きによる画像不良や撮り直しのリスクを減らすことが期待できる。

図6 Touch Vision
図6 Touch Vision

2.全身0.35秒スキャン

SCENARIAは,データ収集のビューレートが2880view/sである。0.35秒スキャンでも1008ビューとなり,フルFOV撮影の辺縁部でも十分なデータ密度を確保している。そのため,心臓だけでなく,胸部,腹部の検査においても0.35秒スキャンを使用することができ,被検者の動きに強い撮影が可能である。

本稿で紹介した被ばく低減技術は,臨床的な必要性,実効性を検証しながら研究してきた成果である。今後も継続して,優れた被ばく低減技術を開発していく所存である。

*「SCENARIA」は株式会社日立メディコの登録商標です。