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別冊付録

技術解説−シーメンスMRIの最新技術紹介 2
高分解能画像をより正確にするために −さまざまな体動補正機能ー

国内における3T装置の導入が進み,設置台数が増えています。装置のハードウェア・ソフトウェア面での開発も進み,3T装置に対する期待は研究からクリニカルルーチンへ,また,頭部から全身の各部位へと広がっています。一方,1.5T装置においては多チャンネル受信コイルによって,従来よりも空間分解能を上げた撮像が主流となっています。
高精細が期待される画像においては,わずかな体動のアーチファクトが目立つため,さまざまな部位で応用することができる体動補正機能が必要となり,臨床用装置に搭載されてきています。
本稿では,全身のどの部位でもシームレスにカバーすることができる多チャンネルコイルシステムのTim(Total imaging matrix)によって実現できる高精細画像を,さらに向上させるための体動補正機能について紹介します。また,ここで紹介するアプリケーションは,1.5Tと3Tの区別なくご使用いただけます。

ナビゲータによる位置補正

体動補正アプリケーションとして代表的なものがPACE(Prospective Acquisition CorrEction)法です1)。PACEはリアルタイムに体動補正をする技術で,1D PACEと2D PACEがあり,それぞれ体動補正をする方向が一次元,二次元であることを指しています。1D PACEは横隔膜と連動する肝臓上縁の1点の上下動のみをモニタするのに対し,2D PACEは肝臓上縁の輪郭をモニタするため,より精度の高い呼吸動補正が可能です。2D PACEの精度をさらに高めるために,例えば,撮像開始後に被検者が寝てしまった場合などの横隔膜位置変位を自動追跡する,MAG(Motion Adaptive Gating)も可能になっています2)
使用頻度が高いのは2D PACEで,呼吸同期T2強調やMRCP,および息止めに利用されます。最近では,SAR低減と高分解能化を目的としたsyngo SPACE(Sampling Perfection with Application optimized Contrast using different flip angle Evolution)3),4)と組み合わせて,アイソトロピックなデータ収集が可能になっています(図1)。
また,呼吸停止下の撮像においても,2D PACEは有用です。上腹部画像においても,撮像時間が長く呼吸停止が難しい場合に,撮像時間の短い複数回の撮像に分けて全肝をカバーすることがあります。このとき,それぞれの息止めにおいて位置ズレがあると,撮像位置が重複するスライスがあったり,ギャップが空いてしまったりという懸念があります。2D PACEを用いた分割息止め撮像では,それぞれのスキャンにおける肝臓上縁の輪郭をモニタして位置を調整するため,位置ズレのない分割息止め撮像が可能です。
2D PACEが適用できるシーケンスとして,T1強調,T2強調,拡散強調等のほかに,Parametric Map(図2)やSpectroscopy(W.I.P.,図3)があります。

図1 2D PACE併用 syngo SPACEによる腹部画像
図1 2D PACE併用 syngo SPACEによる腹部画像

図2 2D PACE併用 T2*Mapping
図2 2D PACE併用 T2Mapping
マルチエコーのグラジエントエコーシーケンスに2D PACEを適用して撮像し,Inline処理で自動的に生成されたT2Mapと元画像とをフュージョン。

図3 2D PACE併用 Spectroscopy(W.I.P.)
図3 2D PACE併用 Spectroscopy(W.I.P.)
呼吸停止下や呼吸同期なしの撮像では,全体のSNRが低下したり,各ピークの分離が不明瞭になっているものが,2D PACEを併用することで大幅に改善されている。

画像そのものによる位置補正

一方,3D PACEはナビゲータを用いずに,収集した画像データそのものの輪郭から位置ズレ補正を行います。各スキャンにおける脳全体の画像データから脳の動き(平行移動,傾き)をモニタし,位置情報をリアルタイムで補正します。元々ファンクショナルMRI(fMRI)用に開発されましたが,臨床応用には有用です5)
また,脳の非造影Perfusion計測のアプリケーションであるsyngo ASL(Arterial Spin Labeling)6),7)にも,同様の位置補正機能が搭載されています(図4)。
3D PACEは,臓器が大きく変形しないことを前提として三次元的な位置ズレを補正していますが,次の2つのアプリケーションは,乳房や肝臓といった変形する可能性のある臓器における機能です。

図4 自動位置ズレ補正機能によるsyngo ASL
図4 自動位置ズレ補正機能によるsyngo ASL

乳房における位置ズレ補正

syngo BRACE(Breast Acquisition and CorrEction)は,乳房造影ダイナミックの各撮像ごとの位置ズレを補正する機能です。SPAIR(Spectral Attenuated Inversion Recovery)の併用により均一な脂肪抑制効果が得られていますが,体動があると,造影前後のサブトラクション画像において解剖学的情報にズレを生じ,乳管等をMIPで描出した際の画像にも影響を与えます(図5)。
syngo BRACEは,ダイナミックスキャンの全画像データ収集終了後に,各3Dデータセットの乳房画像の輪郭から三次元的な位置ズレ補正を行います。3D PACEと異なるのは,多少の変形がありうるということを前提に処理されるにもかかわらず,512×512マトリクス,80スライスでの一連のダイナミック撮像のデータセットの場合,補正処理は約3分で終了します。

図5 syngo BRACEによる乳房画像の位置ズレ補正
図5 syngo BRACEによる乳房画像の位置ズレ補正
a,b:造影前後のサブトラクション画像。補正前(a)に見られる乳房輪郭のアーチファクト(↓)が,補正後(b)には見られない。
c,d:サブトラクション画像をMIP処理したもの。

肝臓における位置ズレ補正

DynaVIBEは,肝臓造影ダイナミックの各撮像ごとの位置ズレを補正する機能です。体動のほかに,各スキャンにおける息止めの呼気(あるいは吸気)の仕方が異なっていることでも,サブトラクション時に位置ズレを生じたり,時間−信号強度変化曲線にも影響を及ぼしたりする可能性があります(図6)。
DynaVIBEは,ダイナミックスキャンの各データから肝臓の輪郭を抽出し,三次元的な位置や形態の補正を行います。これによって,ピクセルごとの信号変化解析を高い精度で行うことができます。

図6 DynaVIBEによる肝臓画像の位置ズレ補正
a:異なる息止めの位置で得られたデータを,肝臓の輪郭を合わせることで位置の補正を行う。
図6 DynaVIBEによる肝臓画像の位置ズレ補正
図6 DynaVIBEによる肝臓画像の位置ズレ補正
b:スキャン1から4までの画像でサブトラクションした結果。

おわりに

3T装置,Timに代表される高性能アレイコイルにより,クリニカルルーチンで用いられる画像も高精細になっています。反面,わずかな動きが画質に及ぼす影響が目立つようになるため,さまざまな部位に対応できる位置ズレ補正機能が重要な役割を果たします。ここでご紹介した体動補正ソフトウェアはこれからの高精細撮像において必須のアプリケーションになっていくと考えられます。

●参考文献
1) Thesen, S. et al: Prospective acquisition correction for head motion with image-based tracking for real-time fMRI. Magn. Reson. Med. 44, 457〜465, 2000.
2) Macedo et al: Automatic Motion Compensation algorithm(MAG)improves scan completion rate for free breathing whole heart coronary MRA. Soc. Cardiovasc. Magn. Reson. 2007, abstract No.368, 2007.
3) Mugler, J.P. et al: Optimized single-slab three-dimensional spin-echo MR imaging of the Brain. Radiology, 216, 891〜899, 2000.
4) Lichy, M.P. et al: Magnetic resonance imaging of the body trunk using a single-slab, 3-dimensional, T2-weighted turbo-spin-echo sequence with high sampling efficiency(SPACE)for high spatial resolution imaging. Invest. Radiology, 40・12, 754〜760, 2005.
5) Naganawa, S. et al: Whole-brain vascular reactivity measured by fMRI using hyperventilation and breath-holding tasks: efficacy of 3D prospective acquisition correction(3D-PACE)for head motion. Euro. Radiol, 14・8, 1484〜1488, 2004.
6) Edelman, R.R. et al: Signal targeting with alternating radiofrequency(STAR)sequences: Application to MR Angiography. Magn. Reson. Med. 31, 233〜238, 1994.
7) Luh, W.M. et al: QUIPPSU with thin-slice TI1 periodic saturation: A method for improving accuracy of quantitative perfusion imaging using pulsed arterial spin labeling. Magn. Reson. Med. 41, 1246〜1254, 1999.

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