シーメンス・ジャパン株式会社

別冊付録

Session T Cardiac Imaging

冠動脈T Dual Source CTが冠動脈疾患診断にもたらした革新について

三浦俊郎 山口大学大学院医学系 研究科器官病態内科学 准教授
三浦俊郎
山口大学大学院医学系
研究科器官病態内科学
准教授

山口大学では,2006年に「SOMATOM Sensation 64-Slice configuration」およびDual Source CT「SOMATOM Definition」(以下,DSCT)を相次いで導入した。
DSCTは,従来のSingle Source CTの時間分解能165msの約半分となる83msという驚異的な時間分解能を実現。DSCTにより,高心拍数症例に対しても,βブロッカーを使用することなく,冠動脈CT検査が可能となった。
今回,DSCTの診断能および最適画像再構成時相に関する検討を行い,83msという時間分解能の意義を確認した結果を報告する。

藤村達大*1 松崎益徳*1
中島好晃*2 岡田宗正*2 松永尚文*2
*1 山口大学大学院医学系研究科器官病態内科学
*2 山口大学大学院医学系研究科放射線医学分野


βブロッカーを用いず高心拍数患者の撮影が可能に

64スライスCTは,空間分解能および時間分解能に優れ,約15秒間の息止めで冠動脈造影が可能になったが,心拍数が65bpm以上になると,アーチファクトのない良好な画像を得ることが難しい。そのため,心拍数が65bpm以上の患者に対しては,βブロッカーの投与が必要であり,緊急の検査やβブロッカーが禁忌になっている頻脈症例などにおいては,冠動脈CTを行うことが困難であった。
一方,DSCTでは,83msという時間分解能を実現したことにより,βブロッカーが禁忌な症例でも,診断可能な画像を得ることができるようになった。

DSCTの症例画像

はじめに,当院におけるDSCTで撮影した症例画像を提示する。図1は,左冠動脈画像であるが,末梢の細い血管まで明瞭に描出されている。図2は,頻脈症例の画像である。βブロッカーを用いることなく,心拍数95bpm(a)の患者でも明瞭な画像が得られ,不整脈のある125bpm(b)の患者でも診断可能な画像が得られている。
また,冠動脈プラークの検出と輝度の評価は非常に重要である。図3は同一症例における64スライスCTと,1年後のDSCTの画像であるが,時間分解能に優れるDSCT画像の方が,よりクリアにプラークを描出できていることがわかる。

図1 DSCTによる左冠動脈画像
図1 DSCTによる左冠動脈画像

図2 DSCTによる頻脈症例画像
図2 DSCTによる頻脈症例画像

図3 同一症例における64スライスCTとDSCTの冠動脈プラーク検出能の比較
図3 同一症例における64スライスCTとDSCTの冠動脈プラーク検出能の比較

64スライスCTとDSCTの診断能の比較

心臓カテーテル検査(CAG)と冠動脈CTを両方施行した症例について,64スライスCTとDSCTの診断能を比較した。
64スライスCTでは, 高心拍数の患者にはβブロッカーを使用して43例(心拍数平均63±10)を,DSCTでは,βブロッカーをまったく投与せず,37例(心拍数平均67±12)を撮影した。その結果,感度,特異度,陽性的中率(PPV),陰性的中率(NPV),正診率はいずれも有意差はなかった。本検証では,64スライスCTとDSCTの対象患者における心拍数の差にバラツキがあったため,心拍数が診断能に与える影響を明らかにすることを目的に,さらに次の検証を行った。
DSCTでは,心拍数65bpm以上(平均74±7)の高心拍数の患者27例を,64スライスCTでは,心拍数の高い患者にはβブロッカーを投与して,心拍数65bpm以下(平均57±6)とした27例を撮影した。スキャンプロトコールを図4に示す。
CAGで評価した狭窄度(AHA分類)と比較した結果,75%以上の有意狭窄を検出する,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,正診率のいずれも,両者で遜色のない結果が得られた。また,有意差はないものの,感度は明らかにDSCTの方が優れた結果が得られている。

図4 CT スキャンプロトコール
図4 CT スキャンプロトコール

DSCTにおける最適画像再構成時相の検証−時間分解能83msの意義

次に,DSCTが高心拍数でも診断可能な画像が得られる機序を明らかにするために,Dual Doppler Echocardiographyを用いて,DSCTを施行した患者32例に対して,等容拡張期(IRT)と拡張中期の時相での心静止時間(Diastasis)を計測し,最適画像再構成のタイミングについて検討した。
まず,心機能と両時相の心静止時間の関係を見てみると,心拍数65bpm以下の心機能正常例では,拡張中期相の心静止時間が十分あるのに対し,心機能低下例では心拍数65bpm以下でも心静止時間が消失することがある。一方,IRTの心静止時間は,正常例よりも低下例の方が逆に延びているため,心機能低下例では,IRTで撮影する方が良いということになる。さらに,IRTの心静止時間は,正常例で90ms,低下例で110msであったため,DSCTの時間分解能83msであれば,心機能にかかわらず,すべての患者で診断可能な画像が得られることがわかった。
次に,心拍数と両時相の心静止時間の関係を解析した結果,心拍数の増加に伴い,拡張中期相の心静止時間は著明に短くなるのに対して,IRTの心静止時間は心拍数に依存せず,100ms前後でほぼ一定であった。そして,64スライスCTの時間分解能165msでは,心拍数が65bpmを超えると,両時相の心静止時間をカバーできないのに対し,DSCTの時間分解能83msであれば,IRTにおいて,心拍数に非依存的に良好な画像再構成が可能であることが明らかとなった。図5は,高心拍数症例のDSCT画像である。拡張中期相(b)で再構成した画像はボケているのに対し,IRT(a)で再構成した画像は,プラークも明瞭に描出できている。
一方,拡張中期相では,どの程度の画像再構成が可能かを検討したところ,心拍数65bpm以下でも,心肥大や心不全などの心機能低下例があるため,25%程度の患者を撮影できず,心拍数65bpm以上では,わずか30%程度であることがわかった。

図5 DSCTによる高心拍数症例における再構成時相の違いによる画質の変化
図5 DSCTによる高心拍数症例における再構成時相の違いによる画質の変化

まとめ

通常,低心拍数の症例は拡張中期相で,高心拍数の症例はIRTで画像再構成を行うが,64スライスCTの時間分解能165msは,IRTの心静止時間での画像再構成には不十分であることがわかった。そして,83msの時間分解能を持つDSCTでのみ,IRTの心静止時間で診断に十分な画像取得が可能であることが明らかになった。DSCTでは,高心拍数の患者に対してもβブロッカーを使用することなく,診断能の高い画像が提供可能である。
当院では,DSCTの導入により,他院から紹介された胸痛患者などに対して,迅速に冠動脈CT検査を施行できるようになるなど,多くのメリットが得られている。βブロッカーをまったく投与することなく冠動脈CTが撮影できるDSCTは,冠動脈疾患の治療にあたる,われわれ循環器医にとって,必須の装置であると言える。

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