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別冊付録

Session U Dual Energy Imaging

Xenon Stable Xenon1回吸入法によるDual Energy肺換気CT

本田憲業(埼玉医科大学総合医療センター放射線科)
本田憲業
埼玉医科大学総合医療センター
放射線科

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は罹患率・死亡率ともに急増しており,現在,世界第4位の死因となっている。わが国においても今後,重要な死因になると予測される。わが国の肺気腫患者予測数は530万人(日本呼吸器学会の疫学調査より)だが,そのうち肺気腫と診断されている患者数は20万人であり,多くが見逃されている。
肺の診断における画像診断の重要性は高まっており,特に形態診断は格段に進歩した。CTでは,撮影時間の短縮や心電同期により心臓の動きの影響が減少し,血管病変の造影CT診断も容易になった。また,画素の微小化や解像度の向上も進歩している。ただし,機能診断面では,まだまだ進歩の余地があると思われる。なかでも肺の換気疾患であるCOPDは,機能診断としての換気CTが有効と考えられる。そこで,Dual Energy Imaging(以下,DEイメージング)を用いた非放射性Xenon(Stable Xenon)による肺換気CTの研究を開始した。本講演では,初期の研究データをもとに発表する。

■Xenon臨床利用の概観と造影剤としての利用

放射性Xenon(Xe)は,133Xeが核医学の換気シンチグラフィに使用されており,撮影法や解析法はすでに確立されている(1回吸気・息止め→washin→wash-out撮影)。一方,非放射性Xenonは,標準状態の密度が空気の1.293に比べて5.887とはるかに高いことからCT値が高く,肺に吸入すればガスの分布を示すcontrast mediaになりうる。実際,肺から血液へ溶解するXenonを用いたXe脳血流CTがすでに保険適用され,国内約100施設で実施されている。
今回,研究開始にあたり,SOMATOM Definition FlashのDual Energyモードにより,Xenonガスが封入されたrubber bagでXenon濃度とCT値の関係を調べてみた。Xenon濃度が増えるに従って,CT値が直線的に上昇していることがわかる(図1)。上昇の程度は80kVが最も多く,最大エンハンスメントは100HUほどあるので,管電圧は80kVが最適と考えられる。XenonのCT値をヒストグラムで測定すると非常にきれいな正規分布を示し,CVは0.5%未満のため,平均値を代表値として使うことの正当性が証明された。

図1 XenonはCT造影剤になる!
図1 XenonはCT造影剤になる!

■Xenon投与法についての考察

Xenon換気CTにおけるXenon投与法は核医学の手法が参考になる。現在,臨床で行われている換気CTはすべて再呼吸法であるが,この方法では複数の撮影が必要になり,1回呼吸法よりも検査法が煩雑で被ばくも増える。また,Xenonの投与量も多くなり,麻酔作用が懸念されるが,安静換気の機能図が得られるという利点もある。一方,1回呼吸法は,1回の肺活量呼吸でXenonを吸入し息止めするという非常に簡便な方法であり,Xenonの投与量も少なくてすむ。

■1回呼吸法のファントム実験

Xenon1回吸入肺CTは核医学の手法としてすでに存在するので,X線の吸収値で画像化すればCTでの撮影が可能ではないかと考えた。それを確かめるために,実際にファントム実験を行った(図2)。容量4Lの太いアクリルチューブ内に,直径16mm,長さ約5cmの6本のチューブが入っており,蓋を交換することで両端の通気口の大きさが変更できる。Xenonガス吸入器(安西メディカル社製)でXenon 35%,酸素65%のガスを作製し,それをファントムに吸入してCTを撮影する。
その結果を図3に示す。チューブの開口径が大きくなるほど換気が多くなるため,Xenon濃度が高くなり,黒から赤に変わっていくことがわかる。開口径とXenon画素値の相関は図4のとおりで,開口径が大きいほど換気が多いという予測と一致した良好な結果が得られた。また,DEイメージング(Three-material decomposition:成分分解)とsubtraction法を比較した結果,吸入前後のsubtractionによっても換気の寡多と関連する値が得られた(図5)。

図2 Xenon1回吸入肺CTのファントム実験
図2 Xenon1回吸入肺CTのファントム実験
図3 ファントム実験の結果
図3 ファントム実験の結果
図4 開口径とXenon画素値の相関関係
図4 開口径とXenon画素値の相関関係
図5 Three-material decompositionとsubtractionの比較
図5 Three-material decompositionとsubtractionの比較

■SubtractionとThree-material decompositionの比較

subtractionとThree-material decompositionを比較すると,Three-material decompositionの方がミスレジストレーションアーチファクトが少ない安定した画像が得られることが明らかである(図6)。さらに,腹背方向の濃度差も明瞭に描出されている。Three-material decompositionで肺を軟部組織と空気とXenonの3つでモデル化し,各成分に適切な初期値と傾きを与えればXenon濃度が計算できる。これは,肺野が-500HU以下であれば妥当と言える。

図6 subtractionとThree-materialdecompositionの画像の比較
図6 subtractionとThree-materialdecompositionの画像の比較

■臨床例

症例1(図7)は,器官内のXenon濃度が最も高く,腹側が少なく,背側が多いという理論通りの結果が得られている。空気呼吸時とXenon吸入時の肺野のヒストグラムでは,Xenon吸入時にCT値のピークが上昇している(図8)。ピークシフトは約50.6HUになるので,19%程度のXenon濃度と推計される。DEイメージングのThree-material decompositionとsubtractionで得られた画像のヒストグラムを見ると,Three-material decompositionの方が正規分布の形をしていることが明らかである(図9)。
1回呼吸法の被ばくは,CTDIvolが6.6mGyであり,effective radiation exposureをDLPの0.017倍とすると約4.4mSv程度となり,被ばくが多い検査ではないことがわかる。また,1回呼吸法と再呼吸法とを比較すると,1回呼吸法ではXenon 80%,酸素20%までXenon濃度を増やせる可能性もあり,画質の改善や定量性の向上が期待できると考える。ただし,定量法が確立されていないことが課題である。一方,再呼吸法は定量解析法はあるものの,病的肺では解析モデルに当てはまらないこともある。

図7 症例1(60歳,男性,非喫煙者):Three-material decomposition画像
図7 症例1(60歳,男性,非喫煙者):Three-material decomposition画像
図8 症例1:空気呼吸時とXenon吸入時のCT値ヒストグラム
図8 症例1:空気呼吸時とXenon吸入時のCT値ヒストグラム
図9 症例1:Three-material decompositionとsubtractionのCT値ヒストグラムの比較
図9 症例1:Three-material decompositionとsubtractionのCT値ヒストグラムの比較

■まとめ

Xenon1回呼吸法によるCT換気イメージの作成法を検討したところ,吸入気Xenonガス濃度とCT値は直線関係にあった。また,1回の肺活量吸入とDEイメージングのThree-material decomposition法を用いて換気の寡多と関連するXenon画像が取得でき,従来の再呼吸法よりも簡便だった。Three-material decompositionはXenon吸入-空気吸入間のsubtractionよりも視診が容易で,かつCT値ヒストグラムの形状も好ましい。以上より,Xenon1回呼吸法によるCT換気イメージは,DEイメージングのThree-material decompositionが優れていると考えられ,今後の臨床応用が期待される。

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