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別冊付録

SessionT:Advanced Technologies

被ばく低減:臓器感受性を考慮した被ばく低減機構

越田晴香(金沢大学附属病院 放射線部)

越田晴香(金沢大学附属病院 放射線部)

金沢大学附属病院では,3台のMDCTと,128スライス2管球搭載の「SOMATOM Definition Flash」(以下,Definition Flash)にて,1日あたり約100件のCT検査を行っている。SOMATOM CTは非常に優れた被ばく低減技術を有し,Definition Flashにも逐次近似法を用いた画像再構成技術“IRIS”や“SAFIRE”,また,体格に応じて管電圧を変化させるAuto kV setting“CAREkV”,臓器感受性を考慮した被ばく低減機構“X-CARE”が搭載されている。本講演ではこのうち,X-CAREに関する検討結果を報告する。

■ X-CAREの概要

放射性感受性の高い,乳腺や甲状腺,眼の水晶体などの体表面臓器は,CT検査では検査対象になることが少ない臓器ではあるが,しばしば付随的にX線ビームの中に入ってしまう。特に,国際放射線防護委員会(ICRP) の2007年勧告で組織加重係数が0.05から0.12と高くなった乳房については,なるべく被ばくを低減させて撮影することが望ましいとされている。
乳房の被ばく低減技術として,ビスマス製防護シールドによって乳房を遮蔽するなどの方法がFrickeらにより報告されているが(AJR,180,407〜411,2003.),この方法による被ばく線量の低減効果は30%程度で,画像への影響はないと言われている。一方,X-CAREは,体前面120度の出力線量を減少させ,高感受性の体表面臓器の被ばくを低減させる機構であり,従来の方法に代わりうると考えている。
そこで,胸部X-CAREによる乳房被ばくの低減効果と,頭部X-CAREによる水晶体被ばくの低減効果について検討した。

■ 胸部X-CAREによる乳房被ばく低減効果の検証

● X-CAREによる出力線量の変化の検証
はじめに,X-CAREによる出力線量の制御について検討した。直径35cmの円形ファントムを空中に固定し,スリットの入った鉛筒をX線の入射に対して垂直になるようファントムを設置し,そこにCTチェンバーを挿入して,X-CAREのON,OFFでそれぞれ15度ずつ鉛筒をずらしながら出力線量を測定した。この鉛筒はスリット外からのX線は完全に遮断でき,また出力線量は焦点チェンバー間距離の空気の減弱を補正したものを使用した。
総出力線量は,X-CAREのON,OFFによる変化は認められなかった。また,それぞれの角度におけるX-CAREの出力線量は,前面部120度が低減し,後面部240度において増加していた(図1)。X-CAREを用いることで,体前面の出力線量を約60%低減できた。

図1 各角度におけるX-CAREの出力線量
図1 各角度におけるX-CAREの出力線量

● X-CAREによる乳房線量低減効果の検証
乳房線量の低減効果については,CTDIvolを9.6mGyに設定し,胸部標準撮影条件で女性型のランドファントムを用いて撮影し,従来法の金属防護シールド法と比較した。金属板は,ここではビスマスではなく厚さ0.2mmの銅板を用い,スペーサーを併用して,女性型ランドファントムの乳房を覆うように金属シールドを作製した。検討項目は,通常時,X-CARE適用時,銅シールド適用時,X-CARE+銅シールド適用時とし,乳房と皮膚線量,および断面内線量分布を測定した。乳房・皮膚線量における蛍光ガラス線量計の配置は皮膚面12か所,断面内線量分布の線量計の配置は乳房4か所,皮膚面12か所,軟部組織5か所,肺27か所,BG用2か所とした。
乳房の吸収線量は,通常時と比較して銅シールドが約22%,X-CAREが約24%,銅シールド+X-CAREが約38%低減された(図2)。また,皮膚の吸収線量についても,通常時と比較して,X-CAREを用いた場合では,体前面の吸収線量は減少したが,後面部の吸収線量は増加していた(図3)。
さらに,線量測定と同一条件で撮影したファントムのSD値について,両側乳房,縦隔および心臓にROIを取ってX-CAREのON,OFFで測定したところ,どの部位においても有意差は認めなかった。

図2 乳房の吸収線量
図2 乳房の吸収線量
図3 皮膚の吸収線量
図3 皮膚の吸収線量

●X-CAREによるCT値とノイズ特性の検証
次に,水ファントムを用いて線量測定と同一条件で撮影し,ファントム内の21か所におけるCT値とSD値を測定した。
図4のとおり,CT値の分布は通常時と比較して,X-CAREではほとんど差は見られないが,銅シールドを用いた場合はビームハードニングの過補正により,ファントム上部のCT値が上昇していた。SD値の分布(図5)も,X-CAREでは通常時とほとんど差がないが,やや後ろに下がっているように見える。また,銅シールドを用いた場合,金属板で覆っている部分の線量が少ないため,中心部のSD値が上昇していることがわかる。
これにより,“銅シールド+X-CARE”の場合は,他の方法よりも吸収線量の低減が可能だが,SD値が上昇し,CT値のムラが生じる画像になると言える。

図4 CT値分布の比較
図4 CT値分布の比較
図5 SD値分布の比較
図5 SD値分布の比較

●胸部単純CTの症例提示
図6aは乳頭部レベルにおける縦隔条件の画像,図6bは肺野条件の画像である。どちらもX-CAREを用いても目立ったアーチファクトはなく,診断に問題のない画像が得られている。両側乳房と心臓,および背面の筋肉にROIを置いてSD値を測定したところ,X-CAREのONとOFFで有意差は認められなかった。

図6 胸部単純CT(17歳,女性)
図6 胸部単純CT(17歳,女性)

■ 頭部X-CAREによる水晶体被ばく低減効果の検証

●頭部表面吸収線量とSD値の検討
頭部表面吸収線量を測定するために,蛍光ガラス線量計をOMライン上の12か所に設置し,頭部標準撮影条件でヘリカルスキャンを行った。X-CAREをONにすると,前面部では吸収線量が低減し,後面部では増加した(図7)。前面120度におけるX-CAREを用いた場合の吸収線量低減率は約30%だった。
同様の条件で水ファントムを撮影した場合の画像周辺のSD値を測定すると,X-CAREのONとOFFで有意差は認められなかった。X-CAREの効果がある前面部においても同様だった。

図7 頭部表面吸収線量
図7 頭部表面吸収線量

●頭部単純CTの症例提示
図8aは脳実質レベルの画像,図8bは水晶体レベルの画像である。どちらも目立ったアーチファクトはなく,診断に問題のない画像だった。

図8 頭部単純CT(56歳,男性)
図8 頭部単純CT(56歳,男性)

■ まとめ

X-CAREは,総出力線量を変えることなく,前面120度の出力線量を低下させる機構であり,後面部の線量を増加させることで,画像への影響を抑えている。これにより,ノイズを増やすことなく,乳房および水晶体の被ばく線量の低減が可能である。また,金属防護シールドを用いるよりも,均一なCT値とSD値が得られるなど,臨床的有用性の高い機構として期待できる。

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