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別冊付録

SessionU:Cardio-Vascular Imaging

小児循環器:Dual Source CTを用いた川崎病性冠動脈
後遺症の超低被ばく冠動脈CT検査とCardiac MRIに対する有用性

上村 茂(昭和大学横浜市北部病院 循環器センター)

山本浩之(倉敷中央病院心臓病センター 循環器内科)

最近,放射線被ばくがクローズアップされているが,特に小児の場合は,放射線感受性が高い。そのため,当院では可能なかぎり,低被ばくの検査方法を検討している。

■ 川崎病の冠動脈後遺症の診断:Flash Spiral Cardio使用例

川崎病は,小児に特異的な後天性心疾患であり,罹患者の10%程度が冠動脈に瘤を形成する。特に巨大な瘤の場合は,将来的に閉塞,狭窄を来し,心筋梗塞を引き起こす確率が高くなる。また,中等度の瘤の場合には,瘤が縮小し内腔が正常化したように見えるが,血管壁が肥厚するため,CTでのフォローアップが重要となる。

●症例1:巨大冠動脈瘤─瘤出口部狭窄
26歳,女性,心拍数47bpm。1歳6か月の時に川崎病に罹患し,他院での超音波検査で左主幹部からLADに10mmの巨大冠動脈瘤が指摘された。20歳で当院に来院。冠動脈造影検査で,LCAに石灰化を伴う巨大瘤と狭窄が,RCAには開口部に小さな瘤が認められた。図1は,23歳の時に64MDCTで撮影したVR像と,26歳の時にFlash Spiral Cardioで撮影したVR像とを比較したものである。DSCTでも,低線量でありながら,RCAの瘤が拡大し,LADには瘤を囲むようにカルシウムが沈着していることが鮮明に描出されている(図1b)。

図1 コンベンショナル心臓撮影モード Adaptive Cardio Sequence
図1 64MDCTとの比較   a:64MDCT b:DSCT

●症例2:中等度冠動脈瘤─縮小・退縮・Ca沈着
12歳,女児,心拍数56bpm。1歳0か月で川崎病に罹患した。本症例は,他院での超音波検査でLAD・RCAに4mmの中等度冠動脈瘤が認められ,1年後の冠動脈造影検査では,LADに拡張が見られた。その後,当院で経過観察となり,Flash Spiral Cardioで,冠動脈CTを施行した。図2の単純CT像(b)では,LAD部に小さな石灰化が認められ,川崎病による冠動脈病変が強く生じていたことを示唆している。

図2  症例2:中等度冠動脈瘤のMIP像(a,c,d), 単純CT像(b)
図2 症例2:中等度冠動脈瘤のMIP像(a,c,d), 単純CT像(b)

●症例3:中等度冠動脈瘤─早期内腔正常化
8歳,男児,心拍数59bpm。3歳時に川崎病に罹患し,その1か月半後に催眠下で64MDCTで冠動脈CTを施行。LADとLCXの分岐部に中等度の瘤が認められた。発生3か月後に冠動脈造影検査を施行したが,瘤は自然消退していた。その後,経過観察として8歳時にFlash Spiral Cardioでの冠動脈CTを行った。図3のVR像では,分岐部に瘤は認められず,MIP像,curved MPR像でも異常は見られなかった。

図3 症例3:中等度冠動脈瘤のVR像
図3 症例3:中等度冠動脈瘤のVR像

●症例4:中等度冠動脈瘤─経過観察
6歳8か月,男児,心拍数78bpm。2歳5か月,3歳6か月の2回,川崎病に罹患した。冠動脈造影検査でRCAに瘤が認められ,その後,フォローアップのためにFlash Spiral Cardioでの冠動脈CTを施行。高心拍のため,フェーズが収縮末期にかかり画質に影響しているが,curved MPR像はきれいに描出されている(図4)。

図4 症例4:中等度冠動脈瘤のcurved MPR像
図4 症例4:中等度冠動脈瘤のcurved MPR像

●川崎病冠動脈後遺症のCT検査の意義
川崎病の冠動脈後遺症におけるCT検査の目的は,冠動脈の走行・形態の観察に加え,カルシウムの沈着を見ることである。撮影法は,心電図同期で拡張期に限局して1心拍で行い,被ばく量を低減することが重要である。また,Normal Spiralの場合は,管電圧,管電流を低くし,テーブルスピードを上げることがポイントである。

■ CTのMRIに比した有用性1

冠動脈CTがMRIに対して優れている点の1つに,カルシウムの検出がある。川崎病の冠動脈後遺症でのカルシウムの沈着を見ることに加え,心外膜(収縮性心膜炎),心臓内腫瘤,成人弁膜症などの弁・弁輪部カルシウム沈着が挙げられる。

●症例5:収縮性心膜炎
16歳,女性,心拍数70bpm。全身に倦怠感があり近医を受診したところ,超音波検査で肝静脈の怒張を指摘された。さらに,紹介先の病院において,血液検査でBNP値が224.5pg/mLと高く,超音波検査で右心房の拡大が認められ,当院を受診した。収縮性心膜炎と拘束型心筋症の鑑別が困難なため,Normal Spiralで撮影した。MPR像では心内膜が肥厚しており,心外膜にはカルシウムの沈着が認められた(図5)。

図5 症例5:収縮性心膜炎のMPR像
図5 症例5:収縮性心膜炎のMPR像

■ CTのMRIに比した有用性2

冠動脈CTがMRIに比して優位である症例として,体内に金属を留置している場合が挙げられる。

●症例6:総肺静脈還流異常症術後の肺静脈狭窄ステント留置術
1歳4か月,女児,心拍数56bpm。総肺静脈還流異常症の術後,両側の肺静脈にステントを留置したが,ステント内での再狭窄を見るため,Normal Spiral(ピッチ3.0)で撮影を行った。撮影条件は,管電圧80kV,管電流70〜80mAs,実効線量0.20mSvである。図6は,ステントを選択して画像処理したもので,ステントの位置や内腔の開存を明瞭に描出している。本症例のように1mSv以下でもフォローアップには有用な情報が得られることは,今後,複数回CT検査を受けることを考慮するとメリットである。

図6 症例6:総肺静脈還流異常症術後の肺静脈狭窄ステント留置術のVR像
図6 症例6:総肺静脈還流異常症術後の肺静脈狭窄ステント留置術のVR像

■ 新生児・乳児期早期のDSCTの有用性

新生児や乳児期早期の症例においても,DSCTは有用である。

●症例7:肺動脈閉鎖症,右室低形成,LCA右室瘻,動脈管開存症
生後13日,男児,心拍数150〜160bpm。肺動脈が閉鎖しているため,Lipo-PGE1を使用後に,肺動脈と大動脈の短絡手術を行った。本症例はNormal Spiral(ピッチ3.0)で撮影したが,DSCTを初期導入のため,管電圧120kVと高めで,管電流70〜80mAs,実効線量1.10mSvであった。VR像では,動脈管が彎曲して肺動脈につながっているのがわかる。また,冠動脈瘻から細い冠動脈が出ているのが描出されている。この冠動脈瘻では,右室の2か所から大動脈に血液が流れている(図7)。

図7 症例7:肺動脈閉鎖症,右室低形成,LCA右室瘻,動脈管開存症のVR像
図7 症例7:肺動脈閉鎖症,右室低形成,LCA右室瘻,動脈管開存症のVR像

●症例8:重複大動脈弓(血管輪),気管狭窄
2か月,女児,心拍数120bpm。重複大動脈弓での血管輪による気管狭窄を起こした症例である。Normal Spiral(ピッチ3.0)を使用し,管電圧100kV,管電流120mAs,実効線量3.63mSvで撮影した。実効線量が高めなのは,撮影範囲が広く,被検者の体重が10kgだったためである。気管分岐部の上部で狭窄を起こし,その部が血管輪で挟まれている。血管輪の右側は細く,左側が太くなっている(図8)。MPR像では血管輪の中に気管が入っているのがわかり,位置関係や狭窄の程度を評価できる。

図8 症例8:重複大動脈弓(血管輪),気管狭窄のVR像とMPR像
図8 症例8:重複大動脈弓(血管輪),気管狭窄のVR像とMPR像

■ CTのMRIに比した有用性3

このように冠動脈CTでは,肺野の所見,気管・気管支の情報が得られる点で,MRIよりも有用性が高い。また,生命維持装置などを検査室内に持ち込めることもメリットである。

■ まとめ

当院ではDSCTにより被ばく低減を図りつつ,小児循環器領域の検査を施行できた。CTは,MRIよりもカルシウム沈着や呼吸器の合併症例の診断に有用であり,体内金属の留置などを考慮すると安全性も高い。これらを踏まえ,MRIとCTそれぞれの装置の特徴を理解し,検査を施行することが重要である。

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