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別冊付録

SessionV:4 Dimensional Imaging

頭部:脳虚血における4 Dimensional Imaging

尾野英俊(中村記念病院 放射線科)

尾野英俊(中村記念病院 放射線科)

4 Dimensional Imagingは,高い空間分解能に時間分解能を加えて,広範囲の形態情報と動態画像を得るもので,CT angiography(CTA)やCT perfusion(CTP)で特に有用性が高い。
CTAでは,撮影範囲が広範囲になったことに加え,撮影時間の短縮化により造影剤量を低減できるようになった。また,撮影タイミングを適切な動脈相に合わせやすいことから,静脈の混在が減少するなどのメリットがある。一方CTPでは,1回で全脳が撮影できるようになったことと,そのデータから4D-CTAを作成することが可能になるというメリットが挙げられる。
また,造影剤を用いたMR灌流画像では,血中造影剤濃度と信号変化率の間の直線性が低いのに対し,CTPでは血中造影剤濃度とCT値との直線性が良く,定量的評価を期待できる灌流画像が得られるというメリットもある。

■ 当院におけるCTPのワークフロー

CT装置は,128スライスの「SOMATOM Definition AS+」で,解析には,「syngo CT Workspace」に搭載された“syngo VPCT Neuro"を使用した。CBF,CBV,MTTmapに加え,4D-CTAも作成する。
CTPは造影剤を5mL/sで40mLを急速静注し,Adaptive 4D Spiralでほぼ全脳を96mmの範囲で撮影する。撮影時には,眼窩を外すように撮影範囲を設定し,水晶体の被ばくを低減している。続いて造影剤を4mL/sで40〜60mLを急速静注し,3D-CTAを頭頂部から大動脈弓部まで撮影する。造影剤注入後はいずれも生理食塩水20mLによる後押しを行っている。
syngo VPCT Neuroによる解析は,“Auto Stroke MTT”モードでカラーマップを作成し,動脈入力関数は通常,自動設定としているが,もやもや病などの両側患側症例の場合は手動で行う。さらに,CTPのデータから4D-CTAを作成し血行動態を確認するほか,頭部,頸部血管,大動脈弓部の3D-CTA画像で血管の形態を観察する。

■ 慢性閉塞性疾患,もやもや病におけるSPECTとの比較

当院では血行力学的脳虚血を評価する検査としてdiamox負荷を行うDual table ARG SPECTが行われており,同時にSEE解析を行っている(図1)。この解析で血行力学的脳虚血の重症度をstage 0〜Uまで分類し,stage Uでは脳循環予備能および代謝予備能が低下していると診断され,内頸動脈狭窄や閉塞性疾患,もやもや病における血行力学的脳虚血の重症度評価に有用とされている。
CTPの有用性について,MTT延長域の分布とSPECTを比較検討した。

図1 Dual table ARG法 SPECTによる血行力学的脳虚血の重症度評価
図1 Dual table ARG法 SPECTによる血行力学的脳虚血の重症度評価

●症例1:右内頸動脈閉塞のもやもや病
30歳代,女性。安静時SPECTでは,右大脳半球の脳血流量は左側に比べ軽度低下しているものの脳血流量は正常範囲で,diamox負荷SPECTでは血管反応性が30%以下に低下している領域が見られ,SEE解析ではstageTと診断された。一方,CTPではMTTの延長域は分水嶺領域にとどまっている(図2)。

図2 症例1:右内頸動脈閉塞のもやもや病
図2 症例1:右内頸動脈閉塞のもやもや病

●症例2:両側内頸動脈閉塞のもやもや病
50歳代,男性。安静時SPECTでは,34mL/100g/min以下の脳血流量低下があり,+10%以下の血流反応性の低下,さらにはsteal phenomenonも見られ,SEE解析でstageUと診断された。CTPでは分水嶺領域を越えて,広範に皮質領域にMTT延長域が広がっている(図3)。

図3 症例2:両側内頸動脈閉塞のもやもや病
図3 症例2:両側内頸動脈閉塞のもやもや病

●MTTの延長域からもやもや病の重症度を診断
図4は,もやもや病の4症例を並べたものである。MTTの延長域を見ると,stageTでは,分水嶺領域にとどまっているが,stageUでは皮質領域にも広がっている。CTPにおいてMTTの延長域の分布を見ることで,血行力学的脳虚血の重症度評価が可能になると思われる。

図4 MTTの延長域の分布からもやもや病の重症度を推測
図4 MTTの延長域の分布からもやもや病の重症度を推測

■ 超急性期脳梗塞における閉塞血管再開通後の出血リスクの予測

CTPによる超急性期脳梗塞での閉塞血管再開通後の出血リスクの予測について,症例を示し解説する。

●症例3:右中大脳動脈閉塞(自然再開通)
67歳,男性,右中大脳動脈閉塞が翌日に自然再開通した(図5)。梗塞巣の一部に出血を起こし,T2*強調画像で低信号を呈しているが,それと一致してCBVが著明に低下している。このようにCBVが低下している場合,再開通により出血する可能性があると考えられ,CBVに注目することで,出血リスクが推測できると思われる。

図5 症例3:右中大脳動脈閉塞(自然再開通)
図5 症例3:右中大脳動脈閉塞(自然再開通)

■ 超急性期脳梗塞におけるischemic core,tissue at risk(ischemic penumbra)の予測

syngo VPCT Neuroでは,CBF,CBV,TTP,MTTといったパラメータのほか,血管から組織へ造影剤が移行し始める時間を考慮したパラメータであるTTS(time to start),組織から造影剤が排泄され始める時間を考慮したパラメータであるTTD(time to drain)を得ることができる。超急性期脳梗塞の予後予測に関して,TTS,TTDといったパラメータが有用な情報を提供しうるのか,その可能性について,症例を提示し説明する。

●症例4:右中大脳動脈閉塞(非再開通)
72歳,男性,発症4時間後(図6)。DWIの高信号域に一致してTTSが高度に延長しており,その領域はischemic core を表している可能性がある。本症例では再開通は得られなかったが,MTTが延長しているにも関わらず梗塞に至っていない領域があった。同部のTTSは延長しておらず,TTDの延長も軽度であった。つまり,MTTが延長していても,TTS,TTDが高度に延長していなければ,たとえ再開通が得られなくても梗塞には至らないと推測することができる。

図6 症例4:右中大脳動脈閉塞(非再開通)
図6 症例4:右中大脳動脈閉塞(非再開通)

●症例5:右中大脳動脈閉塞(再開通)
59歳,女性,rt-PA血栓溶解療法により再開通となった(図7)。MTTおよびTTDでは皮質領域に高度の延長域が広範に見られるが,TTSでは軽度の延長にとどまっている。つまり,MTTやTTDが高度に延長している領域でもTTSの延長が軽度にとどまっている領域は,早期に再開通すると梗塞からの救済が可能なペナンブラ領域と推定できる可能性がある。

図7 症例5:右中大脳動脈閉塞(再開通)
図7 症例5:右中大脳動脈閉塞(再開通)

●症例6:右中大脳動脈閉塞(非再開通)
59歳,男性,rt-PA血栓溶解療法を施行したが再開通は得られなかった(図8)。TTDでは,皮質領域に広範な高度延長域が認められる一方,TTSでの高度延長域は限局的で,来院時に撮影されたDWIでの高信号域とほぼ一致している。もし早期に再開通していれば,来院時DWIの高信号領域,つまりTTSが高度延長していた領域に梗塞がとどまっていたかもしれないが,実際には再開通は得られず,右中大脳動脈領域に広範な皮質梗塞が生じた。その領域はTTDが高度に延長していた領域とほぼ一致している。これらのことから,TTSおよびTTDの高度延長でischemic coreの予測,TTSの軽度延長およびTTDの高度延長でtissue at risk(ischemic penumbra)の予測が可能になることが考えられる。MRIでしかdiffusion-perfusion mismatchを評価できなかったが,CTにおいてもTTSとTTDとの間でmismatchを評価し,ischemic core,tissue at risk(ischemic penumbra)の領域を推定できるようになる可能性もある。しかし,超急性期脳梗塞の予後予測におけるTTSとTTDの有用性に関しては,まだ数例を検討しただけであり,今後症例を重ね,その有用性の有無を検討していかなければならない。

図8 症例6:右中大脳動脈閉塞(非再開通)
図8 症例6:右中大脳動脈閉塞(非再開通)

■ まとめ

4 Dimensional Imagingにより,従来の灌流画像に加え,4D-CTAが得られるため,4 vesselsの血行動態を同時に観察できるようになった。また,慢性期閉塞性疾患では,血行力学的脳虚血の重症度評価において,MTTの延長域の分布を見ることでSPECTに迫る情報を提供できる可能性がある。さらには,超急性期脳梗塞において,CBVやTTS,TTDのパラメータから,治療戦略に有用な情報を得られる可能性がある。

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