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別冊付録

Session II Cardio-Vascular Imaging

小児循環器:先天性心疾患のCT検査におけるDefinition Flashの優位性

佐藤修平(岡山大学病院 放射線科)

佐藤修平(岡山大学病院 放射線科)

岡山大学病院では,2011年6月に「SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)」を導入し,その高い時間分解能を生かして,先天性心疾患患者の心臓CTを多数撮影してきた。本講演では,小児の心臓CTにおけるDefinition Flashの有用性について,特に画質と被ばく線量の面から報告する。

■Definition Flashによる心臓CT

はじめに,生後4日男児の症例を紹介する。胎児超音波検査で心臓の異常が指摘され,出生後の超音波検査で肺動脈閉鎖,心室中隔欠損と診断。その後,造影CTを施行し,肺動脈の閉鎖が確認できた(図1)。肺動脈が,右側大動脈弓から出ている動脈管(PDA)につながっていることも診断できる。
VR画像では(図2),肺動脈は動脈管からのみ血流を受けていることが認められた。日齢35日目にBTシャント(鎖骨下動脈→肺動脈)が施行された。
従来,このような症例は,超音波検査の後に心臓カテーテル検査を実施していたが,現在当院では,術前CTで得られた情報に基づいて手術を行っている。
本検査の実効線量は1.4mSvであり,被ばくも低減されている。

図1 Definition Flashの心臓CT画像 生後4日男児,肺動脈閉鎖,心室中隔欠損
図1 Definition Flashの心臓CT画像
生後4日男児,肺動脈閉鎖,心室中隔欠損
図2 図1のVR画像 術前の心臓カテーテル検査は施行していない。
図2 図1のVR画像
術前の心臓カテーテル検査は施行していない。

■造影CT件数の推移と課題

当院における先天性心疾患に対する造影CTの件数は,2011年に200件を超えた。2012年も,現時点ですでに170件に達しており,年間250件前後になると予測される(図3)。
このように先天性心疾患の造影CTが増加している背景には,CT装置の性能の向上がある。4列CTから始まり,16列CTを経て64列CTになるとようやく,心臓血管外科医が術前の心臓カテーテルなしで手術を実施できるまでの画質となった。ただし,64列CTで大動脈弓離断症を撮影する際の被ばく線量は,10〜20mSvになり,被ばく線量が比較的多いことが課題であった。

図3 当院における先天性心疾患の造影CT件数の推移
図3 当院における先天性心疾患の造影CT件数の推移

■造影CTの役割と撮影条件

先天性心疾患における造影CTの基本的な役割は,超音波検査では見えない,または見えにくいところを評価することである。図4に造影CTの役割を示す。
大動脈系,肺動静脈系,冠動脈系の評価に加えて,無脾症,多脾症についても,超音波検査より造影CTの方が,高い客観性をもって診断できると考えられる。
Definition Flashによる小児の造影CTの撮影時間は,およそ1秒ほどであり,画像再構成の処理も非常に速い。
当院で用いているFlash Spiralの撮影条件を図5に示す。対象が小児であることから,CARE kVを70〜100kVに設定している。また,逐次近似画像再構成法“SAFIRE”は,低被ばくでの撮影に大きく寄与している。
造影条件としては,造影剤(lopamidol)300mgI/mLを2cc/kgにて20〜30秒で静注し,注入終了2秒後に撮影を開始する。あまり細かい設定はしていないが,ほとんどの症例で大動脈系,肺動脈系ともに,安定した造影画像が得られている。ただし,Fontan型手術が施行されている症例では,後期相も撮影するなどの工夫をしている。

図4 先天性心疾患における造影CTの役割
図4 先天性心疾患における造影CTの役割
図5 当院におけるFlash Spiralの撮影条件
図5 当院におけるFlash Spiralの撮影条件

■症例提示

Definition Flashの導入から2012年7月までの約1年間に,延べ291例の先天性心疾患の造影CTを実施した。そのうち1歳未満が39%,1〜5歳が37%であり,全体の3/4が,5歳以下の息止めができない症例であった。

●症例1:1歳,女児,左心低形成症候群
術前は64列CT,Glenn手術(SVC→肺動脈吻合術)を施行後はDefinition FlashのFlash Spiralで撮影した(図6)。
大動脈や肺動脈を比較すると,64列CTでは時間分解能が不足しているのに対し,Flash Spiralでは高心拍でも明瞭に描出されていることがわかる。心室の心筋構造のみならず,細いオリジナルの上行大動脈や,そこから分岐しているさらに細い冠動脈も見えている。Definition Flash導入直後にこの画像を見たときは,非常に感動したことを覚えている。また,画質はきわめて高いが,被ばく線量は1.2mSvと低く,64列CTの1/8程度にまで低減されている。

図6 症例1:1歳,女児,左心低形成症候群
図6 症例1:1歳,女児,左心低形成症候群

●症例2:8歳,女児,修正大血管転換
冠動脈をターゲットにする場合は,Flash Spiral Cardioを用いている。拡張期で撮影したところ,心室内の構造が非常によく見えている(図7)。左房が解剖学的右室につながり,そこから大動脈が出ている,修正大血管転換の構造がよくわかる画像が得られている。冠動脈の分岐パターンはcommon typeであった。被ばく線量は1.2mSvと低かった。

図7 症例2:8歳,女児,修正大血管転換(Flash Spiral Cardio)
図7 症例2:8歳,女児,修正大血管転換(Flash Spiral Cardio)

●症例3:8歳,男児,完全大血管転換+大動脈縮窄症
術後に広範囲をFlash Spiral Cardioで撮影。2本の冠動脈が同じ場所から起始している単冠動脈(single coronary artery)がきれいに描出されている(図8)。被ばく線量は1.9mSvであった。

図8 症例3:8歳,男児,完全大血管転換+大動脈縮窄症の術後VR画像(Flash Spiral Cardio)
図8 症例3:8歳,男児,完全大血管転換+大動脈縮窄症の術後VR画像(Flash Spiral Cardio)

■被ばく線量の検討

Flash Spiralで撮影した238例の被ばく線量をまとめてみると,CTDIvolは平均1.06mGy,DLPは平均29.7mGy,実効線量は1.59mSvであった。
CARE kVにおける70kVと80kVの比較も行った(表1)。CARE kVはスカウトビューを撮影したところで管電圧が決定される。体重別では,10kg以下では70kVが選択される傾向があった。実効線量は,80kV 59例の平均が1.70mSv,70kV 167例の平均が1.44mSvであった。
1回目の撮影時に80kV,2回目に70kVになった6歳,女児の症例で,管電圧による画質の違いを比較してみた(図9)。管電圧が低いほど造影剤の吸収値が上昇するため,70kVの画像が好まれる場合もあるのではないかと思われた。
実効線量は,80kVでは1.4mSv,70kVでは1.2mSvだった。体重10kg以下の症例では,70kVのFlash Spiralで撮影しても,十分な高画質が得られることがわかった。Definition Flashによる小児の心臓CTは,1人あたりの自然放射線の世界平均年間被ばく線量である2.4mSvに比べても,非常に低い被ばく線量で撮影することが可能である。

表1 管電圧による被ばく線量の比較
表1 管電圧による被ばく線量の比較
図9 管電圧70kVと80kVの画像の比較 6歳,女児,肺動脈閉鎖,心室中隔欠損,MAPCAs rt Unifocalization後,bil m-BTシャント後
図9 管電圧70kVと80kVの画像の比較
6歳,女児,肺動脈閉鎖,心室中隔欠損,MAPCAs rt Unifocalization後,bil m-BTシャント後

■まとめ

先天性心疾患の診療はチーム医療である。心臓血管外科,小児循環器科,放射線部が協力しながら,1人でも多くの児を救命できるよう,日々診療にあたっている。そして,先天性心疾患の診断にとって,Definition Flashはきわめて強力なツールである。

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