シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2008年11月号別冊付録
次世代の多軸血管撮影装置 Artis zeego 未来へのプラットフォーム

Angio−Artis zeegoの開発背景と技術特長

RSNA2007で発表され,そのユニークで近未来的な外観が話題となった多軸血管撮影装置「Artis zeego」。 多軸方式による柔軟なアームの動きを備えた本装置は,多彩なポジショニングと撮影形態を実現し,臨床面や運用面において多くのメリットを提供します。 この装置が開発された背景と技術特長,そして,応用領域について紹介します。

  多軸血管撮影装置「Artis zeego」
多軸血管撮影装置「Artis zeego」

1.開発の背景(*はオプション)

現在,血管撮影装置の回転撮影データから構築される三次元血管像や,syngo DynaCTによる軟部組織断面像は,頭頸部や体幹部インターベンション手技に不可欠な機能の1つとなっています。また,この三次元画像情報は,体内へのデバイス誘導を目的とする3Dロードマッピングや3Dガイディングなどへも応用され始めており,術前・術後の診断目的だけでなく,術中の情報を迅速に提供できる統合画像支援ツールとして,注目されています。
三次元画像アプリケーションの応用領域の拡大と使用頻度の高まりにより,装置ハードウェアには,より高度な課題が要求されます。すなわち,(1) より広い領域を精密に回転撮影できること,(2) 透視状態から迅速に回転撮影へ移行でき,また,簡単に透視状態へ戻れること,(3) 得られた三次元画像と透視画像とを正確に一致させられること,(4) オペ室設置の場合,治療形態に合わせてアームを任意の位置に配置できること,(5) 傾斜可能なORテーブルに連動した透視・撮影が行えること,(6) 将来的な新しい撮影方法に対応できる拡張性を有すること,などです。
このような要求を実現するために最適と考えられたのが,Cアームやアームスタンドに高精度な回転機構を多数搭載した多軸制御方式です。
この方式の第1の利点は,アームを高い精度,柔軟性を持って駆動できる点にあります。動作に伴う位置精度や旋回性能が向上するため,迅速で正確な撮影透視や,高精度な回転データ収集が可能となり,ロードマップやガイディング機能の精度も向上します。
第2の利点は,アイソセンターをアームの動きだけで任意に設定できる点です。寝台を動かすことなく視野や投影方向を設定できるため,被検者中心の治療環境を実現できます。また,アイソセンターに対するX線ビームの相対位置も変えられるため,撮影時の軌道バリエーションが広がります。
このように,多軸方式Cアームは原理的に多様な応用可能性を有しており,運用面・臨床面で多くの優位性を生み出すと考えられます。以上のような背景のもと,「多軸血管撮影装置」の開発がスタートし,2007年に「Artis zeego」が発表されました。


2.技術特長

(1) 8軸可動式アームスタンドによる高い柔軟性
本装置のアームスタンドは,計8軸の回転機構から構成されます(図1)。全身領域での使用を想定し,30cm×38cmのFDを搭載して,床設置式ながら約200cmの広範囲撮影を実現しています。精度,柔軟性に優れたCアームは,サポートスタッフや周辺機器の配置状況に応じて,多彩なCアーム挿入ポジション,パーキングポジションをとることができます(図2)。


図1 8軸の回転機構(緑色部)
図1 8軸の回転機構(緑色部)

図2 柔軟なアームポジションやパーキングポジション
図2 柔軟なアームポジションやパーキングポジション

(2) FIS(Flexible Isocenter System)が生み出す画期的な機能群
アイソセンターを柔軟に設定できるFIS (Flexible Isocenter System)を搭載することで,多軸方式を生かした高い機能性を実現しています(図3)。例えば,長手・横手方向への視野移動は,Cアームの平行移動操作のみでも行えます。また,寝台が連動した状態でCアームの高さも変更でき,術者の身長やフォームに合わせた最適な作業高を選択できます。さらに,ORテーブルが傾斜した場合でもCアームは連動傾斜し,寝台面に沿ったCアームの長手・横手移動を行えます。


図3 FIS(Flexible Isocenter System)アイソセンターを任意に設定可能
図3 FIS(Flexible Isocenter System)アイソセンターを任意に設定可能

(3) Large Volume syngo DynaCT
前述のFISによる偏心回転軌道を活用した撮影機能です。DynaCTデータ収集時の回転撮影を2回に分け,アイソセンターに対する検出器の相対位置を交互にオフセットさせることで,より広い断面の再構成を実現します(図4)。このとき,長方形の検出器を体軸に対して縦方向にセットすれば,断面積だけでなく体軸方向の撮影範囲も拡大できるため,腹部・胸部を中心とした体幹部でのDynaCT撮影時に威力を発揮すると考えています。(図5


図4 Large Volume syngo DynaCT
図4 Large Volume syngo DynaCT
図5 Large Volume syngo DynaCT画像例
図5 Large Volume syngo DynaCT画像例

(4) 高い運用性能の数々
多彩なCアーム動作やFISなどの高機能を有する本装置ですが,専用コントローラにより操作は簡単・迅速に行えます。安全対策も十分に考慮されており,多数の近接センサ・接触センサに加え,患者保護領域や独立した安全監視機構を備えています。そのほか,新しいユーザーインターフェイスや処理プロセスの搭載など,機能性だけでなく運用性も高める設計にしています。

3.応用領域と有用性

以上のような特長を有する本装置は,頭頸部,心臓領域,腹部のインターベンション治療において,精度と柔軟性を生かした高い機能性を発揮できます。例えば,Cアーム操作だけで視野移動ができるため,寝台とCアームとの相互位置調整など術者の労力を軽減でき,迅速でリスクの少ない検査・治療が期待できます。特に体幹部においては,広大な撮影範囲と柔軟で正確なCアームの動きにより,血管系,非血管系を問わず,大きな効果を期待できます。
また,Hybrid OR などのように手術室に設置する場合には,多様なスタンバイポジションにより外科手術用のワークスペースを確保しやすく,必要に応じて透視や回転撮影を簡単に施行できるなど,ポジション間の迅速な移行が画像情報のリアルタイム性と精度を高めるのに貢献します。さらに,救急部門においても,多軸方式の特長を生かした,多目的撮影装置としての使用が検討され始めています。

4.おわりに

高度化するインターベンション治療に対応していく上で,高い精度と自由度を備えた多軸方式の血管撮影装置は,次世代の画像支援治療環境へ向けたブレイクスルーの役割を果たすと思われます。この意味で,当社は「Artis zeego」を未来のインターベンション環境構築へ向けたプラットフォームと位置づけ,今後も多軸方式を生かした独自の応用機能の開発を進めていく予定です。
インターベンション環境に新たな可能性を拓く「Artis zeego」の展開に,今後もご注目ください。