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ホーム の中の inNavi Suiteの中の 東芝メディカルシステムズの中の Seminar Reportの中の3テスラ装置を用いたMRアンギオグラフィ 〜腎疾患診療における臨床応用〜 田嶋 強 東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授

Seminar Report

JRC2012 合同企画 産学連携セミナー1
3テスラMRIの新たなポテンシャル

JRC2012(第71回日本医学放射線学会総会,第68回日本放射線技術学会総会学術大会,第103回日本医学物理学会学術大会)が,4月12日(木)〜15日(日)の4日間,パシフィコ横浜で開催された。13日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催の合同企画産学連携セミナーでは,東京女子医科大学画像診断学・核医学講座教授の坂井修二氏が司会を務め,杏林大学医学部放射線医学教室講師の横山健一氏と,東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授の田嶋 強氏が講演した。

3テスラ装置を用いたMRアンギオグラフィ 〜腎疾患診療における臨床応用〜

田嶋 強(東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授)

田嶋 強 東京女子医科大学画像診断学・核医学講座准教授
田嶋  強
1990年九州大学医学部医学科卒業。同医学部附属病院放射線科,国立病院機構九州がんセンター放射線科,九州大学病院放射線科講師を経て,2010年より現職。

MRI黎明期から開発されてきた非造影MRAは,最近の技術的な進歩による描出能向上や,包括医療制度の導入,ガドリニウム造影剤の副作用である腎性全身性線維症(NSF)回避などの観点から,特に腎疾患診療において,これまで以上に脚光を浴びている。当院では,腎臓病総合医療センターを中心に,わが国有数の腎疾患症例数に対して,腎移植,人工透析,腎泌尿器IVRを行っており,腎泌尿器IVR症例では術前のプランニング目的で,非造影MRAを積極的に施行している。本講演では,当院での腎疾患診療における非造影MRAの経験をもとに,実際の臨床例を供覧し,腎疾患における有用性やMRA読影時の注意点について述べる。

■Time-SLIP法併用非造影MRAの原理と特徴

当院では現在,泌尿器関連のMRI検査を年間1200件以上行っており,6台あるMRI装置のうち,東芝メディカルシステムズ社製の3台の装置でTime-SLIP法併用非造影MRAを施行している。

●Time-SLIP法の概要
Time-SLIP法(time spatial labeling inversion pulse法)とは,alterial spin labeling(ASL)の技術をMRAに応用した最先端のMR信号抑制技術で,selective IRパルスを使い,見たい分枝血管だけの分離や,血流方向・血行動態を可視化できる。画像は,反転パルスやinflow効果,背景信号で構成される。撮像においては,腎疾患で多用するTrue-SSFPやFSEなどの信号収集シーケンスと併用できる。また,反転パルスと撮像領域の位置関係や動脈・静脈のinflowなど,画質に影響する因子が多いため,従来の非造影MRAよりもさまざまなことに留意しながら検査を行う必要がある。
Time-SLIP法の原理はまず,selective IRパルスを任意の領域に設定すると,その範囲に流入する血液を描出したり抑制することができる。そして,血行動態を反映する時間(BBTI値)を変化させることで背景信号を調整し,シャッタースピードの速いTrue-SSFPなどのシーケンスで撮像を行うことで,見たい血管のみを分離して選択的に描出することができる。

●Time-SLIP法併用非造影MRAの長所と短所
長所としては,造影剤を使わないためNSFやアレルギーのリスクがない,再撮像可能,動脈・静脈の分離が可能といった点が挙げられる。一方で,短所としては,1シーケンスあたり5分弱と検査時間が比較的長いことや,呼吸や心拍によるアーチファクトの影響を受けやすいこと,描出能がオペレータの技術と経験に依存することが挙げられる。

●3T装置による腎の非造影MRA
1.5T装置と比較した場合の利点は,第一に高いSNRが得られることで,高い分解能や高速撮像が可能となる。T1値の延長・T2値の短縮も利点であり,背景腎の信号上昇が抑えられるため,高コントラスト画像を得ることができる。また,BBTI値を延ばすことができるため,腎動脈の末梢まで描出が可能である。
一方,欠点としては,SARが増加するため,一部のシーケンスでは撮像時間に制限がかかることや,背景構造物の描出が増加することが挙げられるが,われわれの経験からすると問題にならないレベルと考える。

■臨床例への応用

腹部分枝血管の非造影MRAと言えば,従来は腎機能低下例や造影剤使用困難例,あるいは主幹動脈のスクリーニングなどに用いられる位置づけであった。しかし,Time-SLIP法併用SSFPにより十分に有用な画像を得られることから,当院では非造影MRAをルーチンで腎動脈精査に使用しており,腎に関しては造影MRAを行うことはない。

●腹部大動脈および分枝血管の描出
当院では,腹部大動脈の動脈硬化症や動脈瘤,腎動脈の狭窄症や動脈瘤,動静脈奇形,動静脈瘻(AVF),また,副腎動脈の腫瘍栄養動脈などに対して非造影MRAを行っている。
症例1は,副腎褐色細胞腫の評価目的で非造影MRAを行った症例である(図1)。右副腎部のダイナミックスタディの早期相,動脈相を撮像したところ,栄養血管の描出は不良であった。そこで,Time-SLIP法併用SSFPで撮像したところ,腹腔動脈の基始部から分岐する上副腎動脈が腫瘍内に流入していることがわかった。多血性腫瘍における栄養動脈の評価に有用である可能性がある。

図1 症例1:副腎褐色細胞腫(40歳代,女性)
図1 症例1:副腎褐色細胞腫(40歳代,女性)

●移植腎動脈狭窄の描出
腎移植後の合併症には,拒絶反応,カリニ肺炎やCMV肺炎といった感染症,水腎症やVURなどの泌尿器科的合併症があるが,移植腎動脈狭窄やAVFなどの血管系合併症も時に経験され,これらはIVRの対象になる。文献によると,移植腎動脈狭窄の発生頻度は1〜23%で,原因は動脈硬化や解剖学的要因,手技的要因と報告されている。発生部位は,レシピエント側の腸骨動脈,吻合部,移植腎動脈側で,これらの部位の精査が必要となる。
症例2は,腎移植後5年の症例で,MIP像では右外腸骨動脈と吻合された移植腎動脈が明瞭に描出され,特に狭窄がないことが確認できる(図2 a)。3Dで撮像してるため,腎動脈の分岐角度に合わせたスライスで再構成し直し,斜冠状断や斜横断像で見ることで,吻合部の状況をより詳しく観察できる(図2 b)。
症例3は,腎移植後4か月目に高血圧が出現し,PTRAを行った症例で,非造影MRAでフォローアップを行っている(図3)。PTRA前のダイナミック造影MRAと比べ,PTRA後のTime-SLIP法併用SSFPの方が末梢まで明瞭に描出されていることがわかる。

図2 症例2:移植腎動脈の正常MRA像(Time-SLIP法併用SSFP,30歳代,女性,生体腎移植後5年)
図2 症例2:移植腎動脈の正常MRA像
(Time-SLIP法併用SSFP,30歳代,女性,生体腎移植後5年)
図3 症例3:移植腎動脈吻合部狭窄に対するPTRA(60歳代,女性,生体腎移植後4か月)
図3 症例3:移植腎動脈吻合部狭窄に対するPTRA
(60歳代,女性,生体腎移植後4か月)

●IVR術前・術後評価への応用
当院では,非造影MRAを腎動脈狭窄症のPTAに多く使うが,ほかにも腎動脈瘤やADPKD(常染色体優性遺伝性嚢胞腎),移植腎AVFのTAE,移植腎動脈狭窄症のPTAにも応用している。
ADPKDは著明な動脈硬化を合併しているケースも多いが,ほとんどが透析症例である。そのため,術前に造影検査を行うことは少ないが,非造影MRAにより,血管の走行だけでなく狭窄の程度までわかり,IVRの適応判断や治療計画にも参考になる。また,嚢状動脈瘤では,TAEの治療計画を行う上で瘤内の乱流を評価することが非常に有用との報告もあり,術前にTime-SLIP法併用SSFPで確認することもできる。
症例4は,移植腎の生検後に血尿が出現し,ドップラーエコーで移植腎内にAVFが疑われた症例である(図4)。造影CTでは移植腎下極に複数の拡張した血管が見られ,多発AVFの可能性も疑われた。IVRを行う上で病変の局在を明確にするため,非造影MRAを行った。Time-SLIP法併用SSFPでBBTI値を変えながら撮像すると,BBTI=1000で下極に異常血管が明瞭に描出された。BBTIを上げるとほかにも異常血管が見えてくるが,AVFは移植腎の下極に1か所だけ存在すると判断し,血管造影でも証明された。

図4 症例4:移植腎動静脈瘻,BBTIによる描出の違い(3T,30歳代,女性)
図4 症例4:移植腎動静脈瘻,BBTIによる描出の違い(3T,30歳代,女性)

●腎非造影MRAのピットフォール
腎の非造影MRAにおける読影時,あるいは撮影時のピットフォールを2つ挙げる。1つは,静脈側乱流による偽病変で,腎静脈と下大静脈の合流部に腎動脈の偽狭窄を,移植腎静脈と腸骨静脈の合流部に移植腎動脈や腸骨静脈の偽狭窄を示すような画像を呈することがある。これに対しては,他のBBTI値で撮像したり,FSEなど別のシーケンスを参照することで除外することができる。
もう1つは,AVFにおける葉間動脈の描出制限であるが,3T装置で撮像することで,流速の速い動脈枝の描出が良好となる可能性がある。
図5は,腎移植後2週間目の症例で,Time-SLIP法併用SSFPでは移植腎動脈の吻合部に血栓症による閉塞と,吻合部より上流の腸骨静脈に血栓症が疑われた。いずれも,血管造影とドップラーエコーで否定され,合流部の乱流による偽病変と判定した。特に本症例では,移植腎下極にAVFがあり,乱流が増加した可能性がある。偽病変には部位的な特性があるため,偽病変を疑った場合には,ほかのBBTI値で撮像するなどの工夫が必要である。

図5 動静脈瘻に伴う移植腎動脈の偽狭窄(3T,40歳代,男性)
図5 動静脈瘻に伴う移植腎動脈の偽狭窄(3T,40歳代,男性)

■まとめ

Time-SLIP法を中心とした非造影MRA技術は,将来の腎疾患診療において,より重要な役割を担っていくものと期待している。

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