東芝メディカルシステムズ

別冊付録

血管エコーの最新動向
Vascular Ultrasound 血管疾患への超音波検査の応用

佐藤 洋(京都大学医学部附属病院 検査部)

血管超音波検査は,わが国ではこの10年あまりで急速に普及した領域と言える。理由としては,人口の高齢化とともに動脈硬化疾患が増加したことや,肺血栓塞栓症の原因となる下肢深部静脈血栓症予防の観点から需要が増えたことなどが挙げられる。一方,超音波診断装置の進歩はめざましい。高精細の断層像,微細な血流まで可視化できるドプラ法など,さまざまな新技術が登場し,血管疾患に対しても利用価値の高い手法が多い。当院超音波検査センターにて日常臨床で使用する東芝メディカルシステムズ社製の「Aplio XG」は,「Aplio」, 「Aplio XV」の後継機として,高い性能と使いやすさを兼ね備えた装置である。また「Xario XG」も,Aplio XGと同様の操作性と高画質をコンパクトな筐体に収めた装置である。本稿では,Aplio XGとXario XGのさまざまな新技術について画像を提示しながら,血管疾患に対するエコーの有用性を述べる。また,リリースされたばかりのモバイル高性能マシン「Viamo」についても紹介したい。

探触子の選択と条件設定(図1)

血管エコーは,アプローチ範囲が全身に及び,対象血管の体表面からの距離もさまざまであるため,適切な探触子の選択と条件設定が重要である。一人の患者の検査に3,4本の探触子を用いることも多い。
多数の探触子のラインナップの中から現在,体表面アプローチで使用しているものを図1に示した。四肢血管や頸部血管の検査で最も使用頻度の高い探触子は,中心周波数7.5MHzリニア型(PLT-704SBT)である。また,同じ部位を観察する場合でも,動脈疾患を評価する場合と,静脈疾患を評価する場合とでは,装置のドプラ系の条件設定が大きく異なる。静脈検査の場合は,動脈検査よりも低流速の感度を上げた設定が必要である。

図1 京都大学医学部附属病院超音波検査センター血管検査用Aplio XGに装着されている探触子
図1 京都大学医学部附属病院超音波検査センター血管検査用Aplio XGに装着されている探触子
血管エコーは,アプローチ範囲が全身に及び,対象血管の体表面からの距離もさまざまであるため,多くの探触子が必要となってくる

高精細Bモード画像の実現

1)Differential THI(図2)
従来の基本波 Bモード法では,送信周波数帯域と同じ周波数帯域を受信し映像化する(図2 a)。THI(tissue harmonic imaging)法では,送信周波数の倍の高調波信号をPulse Subtraction THI方式で受信する(図2 b)。Pulse Subtraction THI法は,基本波よりビーム幅が細いため,方位方向,厚み方向の分解能が向上する。また,サイドローブレベル軽減効果によるアーチファクトの軽減,多重反射の軽減,コントラスト分解能の向上などが得られる。しかしながら,帯域幅不足のため距離分解能は改善されない,高周波受信のため深部領域におけるペネトレーション(深達度)が不十分,などの問題点があった。
Differential THIは,dual frequency pulsesを送信し,二次高調波とともに差音成分を受信することにより,有効帯域幅を拡大した。よって,低アーチファクトで,高コントラスト分解能とペネトレーションの良い高画質画像が得られるようになった。血管領域では,血管内の多重エコーが減少し,血管壁と血管内腔がより明瞭に分離できるようになったため(図2 c),描出困難な症例でより真価を発揮する手法である。

図2 Tissue Harmonic Imaging:総頸動脈縦断像(PLT-704SBT使用)
図2 Tissue Harmonic Imaging:総頸動脈縦断像(PLT-704SBT使用)
3種類の表示方法にて,同一(頸動脈)部分を観察すると,Differential THIでは明らかに血管壁は明瞭で,血管内腔のアーチファクトが少ないことがわかる。

2)ApliPure Plus(図3)
ApliPure Plusでは,従来のApliPureの機能に加え,超音波の送受信を複数の方向から同時に行うことで,超音波画像特有のスペックルノイズが低減し,画像の視野幅も広がり,広範囲の描出が可能となる。視野幅が広がることで,血管のオリエンテーションが容易になった。フレームレートが若干低下する点に注意したいが,Differential THIやカラードプラ,Advanced Dynamic Flowとの併用も可能である。

図3 ApliPure Plus の実際:下腿背側アプローチによるヒラメ静脈の観察(PVT-745BTV使用)
図3 ApliPure Plus の実際:下腿背側アプローチによるヒラメ静脈の観察(PVT-745BTV使用)
ヒラメ静脈中央枝の拡張と器質化した血栓を認める。ApliPure Plusでは,血管壁はより明瞭で,筋肉線維もきめ細かに描出されている。また,実際の検査時では,少し視野が広くなることで,オリエンテーションをつけやすい利点がある。

3)Panoramic Viewで血管の縦断像を作る(図4)
Panoramic Viewは,探触子の移動の軌跡を残すような描出法で,リアルタイムに任意断面を長く描出できる。検者が頭の中で持つイメージを具体化できる技術である。リニア型探触子では,視野がどうしても狭くなるが,Panoramic Viewを用いることで,探触子の幅の何倍もの画像が作成可能である。血管領域では,下肢腫張例や閉塞性動脈硬化症,動脈瘤などで利用価値が高い。

図4 Panoramic View:下腿縦断像(深筋膜→)(PLT-704SBT使用)
図4 Panoramic View:下腿縦断像(深筋膜→)(PLT-704SBT使用)
a:健常例(42歳,男性)
b:心不全による下肢浮腫(68歳,女性)。深筋膜よりも浅い皮下組織間質に水分貯留(↓)を認める。
浮腫で特徴的なエコー所見“敷石様所見(coble stone sign)”を認める
c:血栓性静脈炎(右小伏在静脈病変)(72歳,女性)。拡張した小伏在静脈(↓)とその中に血栓(▼)を認める。

パルスドプラ法を使いこなす

1)血流速波形の自動計測 (図5)
パルスドプラ法にて血流速波形を記録した後に,計測(最大流速,最低流速,平均流速,resistance index,pulsatility indexなど)の自動化が可能である。心電図を同時記録することで心拍を認識し,正確に1心拍分(2心拍や3心拍の設定も可能)の血流速波形の自動計測ができる。ドプラ法は,カラードプラ,パルスドプラともに感度が良いが,体表面から深い血管や,低流速のためにSNRが悪い血流速波形しか記録できない場合でも,自動計測の認識精度が高いので使いやすい。一方,自動計測は,画面を静止しなくても可能であるが,血流速波形の輪郭が自動計測波形と重なってしまうために,本来の血流速波形の細かな変化が不明瞭となる。特に,dicrotic notch(重複痕)の認識が困難となることもあり,画像静止後に自動計測を行うようにしている。

図5 パルスドプラの自動計測(46歳,男性,健常例)(PLT-704SBT使用)
図5 パルスドプラの自動計測(46歳,男性,健常例)(PLT-704SBT使用)
a:総頸動脈
b:椎骨動脈は,総頸動脈よりも深部で,かつ血流速も低いために血流速波形のSNRが低下し,不明瞭な波形となることもあるが,自動計測精度は高い。


2)血流量計測(図6)
高精度に血流速波形の自動計測を行い,さらに血管径を計測することで,局所の血流量を非侵襲的に計測することができる。血行再建術後での経過観察にも有用な手法である。

図6 血流量計測:閉塞性動脈硬化症 左総腸骨動脈閉塞病変(68歳,男性)(PLT-704SBT使用)
図6 血流量計測:閉塞性動脈硬化症 左総腸骨動脈閉塞病変(68歳,男性)(PLT-704SBT使用)
血流量計測は,血流速波形の自動計測により平均流速を,また,血管径から血管断面積を算出することにより容易に計測が可能である。本症例では,浅大腿動脈レベルの血流速波形は明らかに左が不良(PSV低下,Act延長)であるが,安静状態では血流量にほとんど差がないことが興味深い。

血流評価のニュースタンダード

1)Advanced Dynamic Flow(図7,8)
Advanced Dynamic Flow(ADF)は,高分解能,高フレームレート,低ブルーミングな血流イメージングを可能にする東芝メディカルシステムズ社独自の血流表示技術である。ADFでは,Aplioの先進アーキテクチャと広帯域特性により,分解能が大幅に向上し,微細な血流を分離して観察することができる。また,血流のカラー表示や血流方向による色分けができるために,伴走する動脈と静脈の分離も容易で,血管エコーにおいてきわめて有用な手法である。また,どの探触子でも利用可能なため,最近はカラードプラよりもADFを用いることが多い。

図7 Advanced Dynamic Flow(ADF)-1
図7 Advanced Dynamic Flow(ADF)-1
a:腎梗塞症(腎長軸像)(40歳,女性,高安動脈炎症例)(PVT-375BT使用)。梗塞部に一致して,血流シグナルの欠損像(↑)を認める。
b:バージャー病(下腿縦断像)(78歳,男性)(PLT-1204AT使用)。バージャー病で見られるコークスクリュー状側副血行路“corkscrew sign”(細かならせん状の血管形態)をよく表現している。
c:内頸動脈起始部高度狭窄(内頸動脈縦断象)(80歳,男性,脳梗塞症例)(PVT-745BTV使用)。ブルーミングアーチファクトの少ないADFは,狭窄率計測においても血管造影とほぼ同等の狭窄率を示す。NASCET 77%狭窄。高周波マイクロコンベックスプローブは,頸動脈エコーにおいてアプローチの自由度が大きく,下顎骨下から上方にアプローチすることで,内頸動脈を長く描出できる。症例によっては,第2頸椎レベルまで容易に描出できる。
d:下腿腓骨皮弁の筋膜皮膚穿通枝の同定(58歳,男性,咽頭がん術前症例)(PLT-1204AT使用)。形成外科領域において,皮弁移植前の筋膜皮膚穿通枝(↑)の同定に,ADFはきわめて有用である。血管径は1mm程度しかない。▼は深筋膜。

図8 Advanced Dynamic Flow(ADF)-2
図8 Advanced Dynamic Flow(ADF)-2
亜急性深部静脈血栓症(大腿静脈不完全閉塞病変)(62歳,男性)。血栓の中を縫うような血流(再開通所見)が観察される。Bモード単独では,血栓の存在は評価できるが,初期の再開通所見は判断しにくい。
CFV:総大腿静脈,DFA:大腿深動脈,GSV:大伏在静脈,SFA:浅大腿動脈,SFV:浅大腿静脈

2)Twin View(図9)
ADFやカラードプラ法と,Bモード断層法を左右にリアルタイムで表示できるTwin Viewでは,血管壁の形態と血流情報を同時に観察が可能である。適切なドプラゲイン,繰り返し周波数,ドプラフィルタの設定なども調整しやすい。

図9 Twin View
図9 Twin View
ADFやカラードプラ法と,Bモード断層法を左右にリアルタイムで表示できるため,血管壁の形態と血流情報を同時に観察することが可能である。

モバイル高性能マシン「Viamo」登場

超音波診断装置の利点である可動性を活かして,病室や処置室などで超音波検査をする機会は多い。エコーラボに来室ができない患者さんは,重症であることが多く,本来はハイスペックの超音波診断装置で検査を行いたい。そのような医療現場の要望に応えて「Viamo」(図10)が,2009年4月にリリースされた。持ち運びが容易で,バッテリーで動作可能なノートパソコンタイプ,画質はAplio XG,Xario XGレベルで,さらに,全画面タッチパネルを採用し,思い切ってボタンを減らしながらも操作性が良いといった理想を実現した装置である。

図10 2009年4月にリリースされたばかりのViamo(左)とAplio XG(右)と筆者
図10 2009年4月にリリースされたばかりのViamo(左)とAplio XG(右)と筆者

まとめ

血管疾患の画像診断において,超音波検査は,スクリーニングとしても精密検査としても利用価値の高い検査である。その真価を発揮するためには,解剖,病態生理,重症度評価,合併症,治療法,鑑別診断などの臨床上知っておくべき知識とともに,優れた超音波診断装置,探触子の選択,的確な条件設定,アーチファクトの鑑別,アプローチなど,画像描出にかかわるテクニックが常に要求される。今後も,進歩を続ける医用超音波の新技術と新しい治療法に対応して,常に臨床応用に努めていきたい。

●参考文献
1) 島野俊彰 : 超音波断層像の高画質化と最新技術.超音波検査技術, 29・7 ; 859〜865, 2004.
2) 川岸哲也・他 : 差音を利用した新しいティッシュハーモニックイメージング. 超音波医学, 31, (suppl.), 86, 2004.
3) 川岸哲也・他 : 差音を利用したTHIにおける距離分解能向上についての考察. 超音波医学, 32, (suppl.), 257, 2005.
4) 佐藤 洋 : 血管疾患に超音波検査をいかに活用するか. 映像情報Medical, 38・5, 601〜610, 2006.
5) 入江喬介, 佐藤 洋:血管エコーにおける血流の基礎知識. INNERVISION, 18・11, 56〜63, 2003.
6) 佐藤 洋 : 超音波検査の原理とアーチファクト. 血管診療技師認定機構・血管無侵襲診断法研究会編集, 血管無侵襲診断テキスト, 東京, 南江堂, 104〜113, 2007.
7) 佐藤 洋 : 超音波検査 装置の基本(設定,条件など). 血管エコーABC, 東京, メジカルビュー, 34〜44, 2006.

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