東芝メディカルシステムズ

Technical Note

2009年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

MRI−心臓MRI最新技術

久原重英
MRI事業部MRI開発部

MRIは,任意断面撮像が可能であるとともに,高いコントラスト・時間分解能を有し,循環器領域においても,形態・機能・代謝にわたる総合的な診断法として目覚ましく発展してきた。放射線被ばくがなく,非造影での検査も可能なことから,近年はフォローアップや検診等でその重要性と期待が増している。一方,患者さんに安心して検査を受けていただくことは,安定したハートレートがより良い画質につながる心臓MRIにおいて,本質的に重要な要素である。最新の東芝1.5T MRIシステム「EXCELART Vantage powered by Atlas」は,開放感のある短軸架台に静音機構“Pianissimo”を内蔵しているため,患者さんの負担をやわらげ,安心して検査を受けることができる。
本稿では,EXCELART Vantage powered by Atlasにおける最新の心臓MRI技術について紹介する。

■ 心臓撮像に適した高性能コイル“Atlas SPEEDER Body Coil”

EXCELART Vantage powered by Atlasは,最大128エレメントのパラレルイメージングコイルによる全身撮像を可能としたMRIシステムであるが,心臓領域においても高いパフォーマンスを発揮することが可能である(図1)。心臓撮像時には,任意のセグメントを選んで,上下16チャンネルのパラレルイメージングコイルとして動作する。特に,中央部のエレメントサイズを外側よりも狭いサイズにすることで,心臓領域に限定した高S/N撮像が可能となる。また,パラレルイメージングに必要な高いG-factorを実現しているこのコイルは,最大5倍速の2方向パラレルイメージングを可能とすることで,心臓領域に必要な高いパフォーマンスを実現している。


図1 Atlas SPEEDER(32エレメント)
図1 Atlas SPEEDER(32エレメント)

■ 形態・心機能・遅延造影における撮像技術の進歩

MRIの高い組織コントラストを生かした撮像法として,脂肪抑制法とBlack Blood法を併用したT2強調撮像法があり,急性期心筋梗塞における浮腫の画像化が可能と言われている(図2)。
高い時間分解能を生かしたシネ撮像法による心機能解析や,造影剤投与後,十数分待って撮像することにより,心筋梗塞部位などを明瞭に描出できる遅延造影撮像法も良好な画像が得られる(図3)。さて,遅延造影撮像法においては,心筋の信号値がゼロ近くになるTI(Inversion Time)を,撮像時の条件設定で決定しなければならない。このとき,TIを変えながら複数の画像を撮像してTI値を決定する“TI-prep”機能を用いることで,設定すべきTI値を容易に求めることが可能となった(図4)。ここで重要なのは,インバージョンパルスによって反転された縦磁化が回復する際,実際の撮像では,撮像に用いるRFパルスによって,縦磁化の回復曲線が変形を起こすことである。これが原因となり,TI-prepで求めたTI値と実際の撮像でのTI値が異なる場合がある。そこで,遅延造影撮像のシーケンスそのものにTI-prep機能を適用することで,正しいTI値を容易に,かつ正確に求めることを実現している。


図2 Black Blood T2WI(狭心症)
図2 Black Blood T2WI(狭心症)
(画像ご提供:特定医療法人社団同樹会 結城病院様)

図3 陳旧性心筋梗塞(OMI)
図3 陳旧性心筋梗塞(OMI)

図4 TI-Prep
図4 TI-Prep
(画像ご提供:特定医療法人社団同樹会 結城病院様)

■ 心筋パーフュージョン撮像の描出力向上技術

心臓MRI検査の重要な検査法に心筋パーフュージョン撮像がある。心臓の安静時と負荷時において,造影剤のファーストパスを高い時間分解能で撮像することにより,冠動脈の予備能の把握などが可能となる。弊社では高いS/Nを有するSSFPベースのパルスシーケンスを用いることで,必要な時間分解能を保ちながら,高いコントラストと高い空間分解能,撮像カバレージの実現を可能としている(図5)。


図5 SSFPパーフュージョン(心筋梗塞)
図5 SSFPパーフュージョン(心筋梗塞)
(画像ご提供:特定医療法人社団同樹会 結城病院様)

■ Whole Heart MRCA撮像における確実性と画質向上の技術

近年,CTの飛躍的な技術進歩による冠動脈画像の画質向上には目覚ましいものがあるが,MRIによるWhole Heart MRCA(以下,WH MRCA)の撮像技術も着実な進歩を見せている。MRIは被ばくの問題がなく,また,基本的に造影剤も必要としないため,小児の撮像や川崎病のフォローアップ,および検診などでの重要性が増している。WH MRCAの撮像では,心筋と血液の高いコントラストを実現する3D SSFPシーケンスに,Atlas SPEEDER Body Coilが実現する高いパラレルイメージングファクタを生かして,自然呼吸下撮像での短時間化(図6 a),もしくは息止め撮像を可能としている(図6 b)。WH MRCA撮像のポイントは,多時相で撮像したシネ画像をもとに冠動脈が静止している時間を正しく求め,その静止時間内に正しくデータ収集期間が収まるように,各パラメータを計算して設定することである。弊社では,これらの面倒な計算を操作者が特別に意識することなく,コンソール上で簡単に設定可能としたことで,より簡単に,短時間で,効率良く撮像できるようにした。
また,自然呼吸下撮像では撮像中に患者さんの呼吸レベルが変動すると,撮像時間の延長や,最悪の場合,検査が終了しないといったことも生じる。この問題を解決するために,自動的に呼吸レベルの変動を認識して追尾できる機能も搭載している(図7)。この機能により,検査の成功率の向上,検査時間の短縮が図られるだけではなく,WH MRCAの画質向上が実現できる。


図6 Whole Heart MRCA
図6 Whole Heart MRCA

図7 呼吸レベル自動追尾機能MRCA
図7 呼吸レベル自動追尾機能MRCA

■ 今後の技術的展望と方向性

本稿では,弊社の心臓MRI最新技術を紹介した。心臓MRIの技術は目覚ましい進歩を遂げてきたが,今後はCTとの比較対比をベースにして,よりMRIの特長が生かせる方向性をめざしたい。例えば,高い組織コントラストを生かしたプラークイメージングやVessel wallイメージングなどの技術が進展していくと期待される。一方,誰でも簡単に検査を行えるための簡単な操作性へのニーズも増大している。例えば,自動追尾機能などの自動化技術の進化によって,臨床現場における心臓MRIが,さらに広く普及することが期待できるであろう。



【問い合わせ先】 MRI事業部