東芝メディカルシステムズ

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Technical Note

2011年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−Cardiac Imaging最前線 ─Aquilion ONEの到達点と将来展望

大澤幸恵
CT事業部

1998年の4列マルチスライスCTの登場より,レトロスペクティブに心電図同期撮影を行う冠動脈検査を中心とする心臓CTの臨床応用が始まった。その後,スキャン速度の高速化とともに64列マルチスライスCTが登場し,呼吸停止時間の短縮,造影剤量の低減,最適な撮影条件・心位相を支援するソフトウエアや,画像処理ワークステーションの機能向上により,検査全体のスループットが改善され,心臓CT検査は冠動脈疾患に対する非侵襲的検査として一般化してきた1)
しかし,64列マルチスライスCTにも,(1) 不整脈症例への適用,(2) 被ばく低減,(3) ステント内腔の評価,(4) 高度石灰化症例の診断能低下など,まだ課題は残されており,さらなる進化が求められている。また,冠動脈を中心とした形態診断CTに加えて,治療戦略を支援する機能診断ができるCTへと変化していく必要がある。
本稿では,320列エリアディテクターCT「Aquilion ONE」(図1)による,これら課題の克服,今後の展望について紹介していく。

図1 Aquilion ONEの外観
図1 Aquilion ONEの外観

■Aquilion ONEの特長

Aquilion ONEは,体軸方向に0.5mmの素子を320列配列した検出器を有しており,最大で16cmを撮影できる面検出器CTである。
心臓撮影では,面検出器の特長を生かし,プロスペクティブに16cm幅の心電図同期コンベンショナル撮影が行え,1回転0.35秒,1心拍分のデータから画像を作成することができる。従来のヘリカルスキャン方式に比べ,さらなる呼吸停止時間の短縮,造影剤量の低減ができる。
画質においても一目瞭然である。ヘリカル補間によるブルーミングアーチファクト(ボケ)が軽減され,冠動脈プラークや血管壁を鮮明に描出することができる。また,バンディングアーチファクト(ズレ)が原理的に発生しないため,撮影範囲の上端・下端の造影剤濃度のムラがない。冠動脈プラークの性状評価において,CT値の変動は致命傷になるが,Aquilion ONEでは,再現性良く撮影,観察することが期待できる。

■不整脈症例への適用

心臓CT検査を受診される患者様のうち,同調リズムではない群は約27.6%だったとの報告がある2)。不整脈症例では,非同調リズムによるデータ連続性の欠落が診断能を低下させるという報告もあり,検査適用外とするのが一般的である。
画像再構成方法に関しては,さまざまな不整脈除去ソフトウエアがあるが,従来のヘリカルスキャン方式で不整脈症例を撮影した場合,多くの心電図データを取得し,不要な心電図データを除外する必要がある。この除外後のデータも,同調リズムではないため,最適な心位相を検索しセグメント再構成を行うのは容易ではない。
これに対し,Aquilion ONEでは撮影時に不整脈を自動的に検出する機能がある。スキャン前,スキャン中の心電図波形を常にモニタリングし,予期せぬリズムが発生した場合でも,ばく射を中断し,必要な次の心拍データを撮影する機能が搭載されている。取得されたデータから心電図編集機能を用い,Aquilion ONEの特長である1心拍ハーフ再構成の画像を作成することも可能であり,通常の心臓CT検査と同様の流れで撮影が行え,安定した画質を提供できるようになる。

■被ばく低減をしながらイメージクオリティーを向上させる技術 ─New AIDR

Aquilion ONEは撮影時間を短縮でき,また,心電図同期ヘリカルスキャンによる低ヘリカルピッチでのスキャンではなく,1スキャンにて全心臓を撮影できるため,従来の撮影方式に比べ被ばくをより低減できる。例えば,(1) 適切な撮影範囲の設定,(2) 撮影心位相を狭める,(3) 適切な管電流設定,(4) 低管電圧により,約1〜3mSv程度の撮影を安定して行うことができる。
また,非常に注目されている逐次近似再構成を応用し,生データベースでの統計学的ノイズモデルやシステムモデル,さらには,撮影部位や組織構造をベースとした3次元アナトミカルモデルを用いた被ばく低減再構成技術“New AIDR(Adaptive Iterative Dose Reduction:逐次近似再構成)”の開発を進めている。これにより,ノイズ低減効果で最大50%,被ばく低減効果で最大75%が期待できる。また,この再構成法では被ばく低減だけでなく,肩や骨盤部で投影データの不均一から発生するストリークアーチファクトを効果的に低減し,高画質な画像を得ることができる(図2)。

図2 New AIDRのアルゴリズムと臨床画像
図2 New AIDRのアルゴリズムと臨床画像

■心筋の虚血を評価する ─心筋パーフュージョンソフトウエア

昨今,虚血性心疾患の治療方針は,COURAGEトライアル3),FAME Study4)などにより,冠動脈病変の描出はもとより,心筋虚血の有無の診断が重要といった流れに変わりつつある。虚血を評価する検査としては,負荷心電図や心筋SPECTがゴールドスタンダードであり,心臓カテーテル時に冠動脈血流予備能を計測できるFFR5)がある。ここで話題となるのは,診断ワークフローの中で心筋SPECTや心臓カテーテル検査を施行する前に,CTで心筋の虚血を診断できないかということである。
心筋灌流CT検査の理想は,心筋SPECT検査と同様に安静時,負荷時の撮影と考える。心筋灌流CT検査は,64列マルチスライスCTでも試行されていたが,被ばくを考慮して,安静時のみ,または負荷時のみの撮影が多かった。また,従来の撮影方式によるバンディングアーチファクトは,心筋CT値のムラの原因となり,診断能を低下させる要因につながっていた。Aquilion ONEでは,広範囲かつ等位相,等時相撮影によって,心筋の造影ムラのない均一なデータが取得できる。また,前述のように1スキャン1〜3mSvで撮影できるため,カルシウムスコア,安静時,負荷時撮影を含めても15mSv以下で撮影が可能となる(図3)。
東芝では,心筋灌流CT,冠動脈CTと心筋SPECT,CAGとの比較を行う世界8か国16施設によるCorE320(Coronary Evaluation by using 320 row detector CT)をサポートしており,現在各サイトでのデータ収集,および解析を行っている。

図3 心筋灌流CT画像解析 負荷画像で,Antero-lateralに軽度の濃染不良が見られる。 (画像ご提供:相澤病院様)
図3 心筋灌流CT画像解析
負荷画像で,Antero-lateralに軽度の濃染不良が見られる。 (画像ご提供:相澤病院様)

■ステント内腔の評価・ 高度石灰化病変の描出能向上

心臓CTでの最大の課題は,ステント再狭窄の評価と高度石灰化病変の内腔評価である。高CT値に起因するブルーミングアーチファクトや,その周辺のアンダーシュートは冠動脈狭窄の判定を困難とさせ,診断精度を下げてしまう6)〜9)。このため,ステント,高度石灰化を除去し,冠動脈の内腔評価精度を向上させる期待が非常に高い。
ステントや高度石灰化を除去する方法はさまざま模索されているが,その中でも造影画像から非造影画像を減算するイメージサブトラクションは,従来のクリニカルワークフローで行えるため実用的ではないかと思われる。
東芝では,以前から頭部サブトラクション,軌道同期撮影機能などのソフトウエアを製品化しており,イメージサブトラクションに関する技術,ノウハウと豊富な経験がある。また,拍動している心臓のステント,石灰化をサブトラクションすることは,対象物に時間と位相のズレがなく,静止している状況が望ましい。Aquilion ONEでは,1心拍ハーフ再構成から得られる等時相・等位相でisotropicなデータを自動で位置合わせしながら減算する方法を用いており,容易にステント,石灰化の除去ができる可能性がある。
現在,この冠動脈サブトラクションに関しては,岩手医科大学病院附属病院循環器医療センター様と共同研究を行っており,近い将来実用化をめざしている(図4)。

図4 冠動脈サブトラクション画像 (画像ご提供:岩手医科大学附属病院 循環器医療センター様)
図4 冠動脈サブトラクション画像
(画像ご提供:岩手医科大学附属病院 循環器医療センター様)

●参考文献
1) 日本循環器学会 : 循環器疾患診療実態調査2009年報告書
2) 近藤 武・他 : 循環器医からみた冠動脈CT検査の現状と将来展望. 第65回日本放射線技術学会総会学術大会, 2010.
3) Boden, W.E., et al. : N. Engl. J. Med., 356, 1503〜1516, 2007.
4) Tonino, P.A., et al. : N. Engl. J. Med., 360, 213〜224, 2009.
5) Pijls, N.H.J. : Heart, 90, 1085〜1093, 2004.
6) Pundziute, G., et al. : J. Nucl. Cardiol., 14, 36〜43, 2007.
7) Corderio, M.A., et al. : Heart, 92, 589〜597, 2006.
8) Rumberger, J.A., et al. : Circulation, 92, 2157〜2162, 1995.
9) 冠動脈(心臓)CTのためのSCCTガイドライン : SCCT Japan Regional Committee 監修. http://www.scct.jp/SCCTguideline.pdf
*Aquilion ONEは東芝メディカルシステムズ株式会社の登録商標です。
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