ziostation2を用いた胸腔鏡下食道切除術における術前シミュレーション 東北大学病院放射線診断科 高瀬 圭/森田 佳昭(現・国立循環器病研究センター放射線診療部) / 東北大学病院移植再建内視鏡外科 市川 宏文

ホーム の中のザイオソフトの中のNew Horizon of 4D Imagingの中のziostation2を用いた胸腔鏡下食道切除術における術前シミュレーション


ziostation2を用いた胸腔鏡下食道切除術における術前シミュレーション

図1 臨床的に有用な三次元画像作成と活用には食道外科医(左)と放射線診断医(右)の良好なコミュニケーションが必要である。
図1 臨床的に有用な三次元画像作成と活用には食道外科医(左)と放射線診断医(右)の良好なコミュニケーションが必要である。

胸腔鏡下食道癌手術は低侵襲手術として、1990年代より普及している。従来の開胸術と予後はほぼ同等との報告もあり、現在、当院では胸腔鏡下手術が標準術式となっている。利点としては、低侵襲による術後QOL向上のほかに、拡大視効果による縦隔の細かな構造(気管支動脈、胸管、迷走神経など)の同定能の向上が挙げられる。一方、欠点として、三次元的なイメージや術野全体の把握が難しく、解剖学的誤認による血管や臓器の損傷のおそれがあることである。そのため、術前に、血管や周囲臓器などの立体的位置関係を把握することが、術操作の安全性向上に寄与する。われわれが放射線診断科と外科との協力のもと、ルーチンで行っている術前シミュレーションとその意義について紹介する(図1)。

s 放射線科医の立場から:MDCT撮影と画像処理 (高瀬、森田)

われわれは、1989年にMDCT(東芝社製Aquilion:4号機)、およびワークステーション(ザイオソフト社製M900:2号機)の導入当初から、主に血管系の手術とIVRの術前シミュレーションに三次元画像を使用してきた。その後のMDCTとziostationシリーズの目覚ましい進歩により、より複雑な構造の描出が必要な多臓器のシミュレーションも可能となった。特に食道手術は、気管、食道、各種動静脈、胸管など多数の構造が手術に関与しており、撮影や画像処理に工夫を要する。

撮影では、造影剤は高濃度造影剤(350mgI/mL)を1.9mL/kg程度使用し、全量を30秒間で注入し、生理食塩水で後押しを行う。撮影範囲は頸部〜上腹部までとする。右開胸の手術のため、右鎖骨下領域にアーチファクトを生じないように左肘静脈確保を基本とする。撮影は動脈相、静脈相のダイナミックCTを行い、動脈相はbolus tracking法、静脈相は動脈相撮影20秒後にスキャンを開始する。

再構成は0.5mm厚、0.5mm間隔で行った。作成にあたっては、ziostation2のマルチデータフュージョンを使用し、動脈相と静脈相のデータを用い、それぞれのボリュームごとに最適の造影相で3D作成を行い、最終的にフュージョンさせる。この目的のために、動脈相と静脈相では撮影範囲や撮影パラメーターを同一にさせる必要がある。

シミュレーションでは、(1) 心臓、大血管 (大動脈とその分枝、大静脈、腕頭静脈〜鎖骨下静脈、肺動静脈)、(2) 体表、(3) 気管支動脈、(4) 奇静脈、(5) 骨、(6) 気管気管支、肺、(7) 食道(腫瘍を含めた)、(8)腫大リンパ節の8つのボリュームを作成する(図2)。これらを重ね合わせ、シミュレーション画像は実際の術視野に合わせて、仰臥位で頭側が画面の左側に向かうような方向にし、縦隔内を右側面から観察するように設定する(図3、4)。

実際の手術に準じて、仮想内視鏡モードを使用して視点を右中腋窩線肋間から胸腔内に挿入し、術前シミュレーションを行う(図5)。

図2 Multivolumeの例 a:体表、b:骨、c:肺、d:気管気管支、e:食道、f:腫大リンパ節 マルチデータフュージョンでは、ボリュームごとの加算表示・非表示の選択ができ、 ボリュームごとに異なったカラーも適応可能である。
図2 Multivolumeの例
a:体表、b:骨、c:肺、d:気管気管支、e:食道、f:腫大リンパ節
マルチデータフュージョンでは、ボリュームごとの加算表示・非表示の選択ができ、 ボリュームごとに異なったカラーも適応可能である。

図3 内視モードによる胸腔鏡下手術シミュレーション 肋間から胸腔内に入り大血管、気管支動脈、奇静脈、食道、リンパ節を手術術式に準じて観察する。胸腔内に入ったのちに上部を鎖骨下動脈近傍まで観察する(a〜f)。次いで、尾側に視野を移動し、胸部下行大動脈手前腹側の食道、気管分岐下リンパ節等を観察する。温存すべき気管支動脈と周囲構造の関係が明瞭である(g〜l)。
図3 内視モードによる胸腔鏡下手術シミュレーション
肋間から胸腔内に入り大血管、気管支動脈、奇静脈、食道、リンパ節を手術術式に準じて観察する。胸腔内に入ったのちに上部を鎖骨下動脈近傍まで観察する(a〜f)。次いで、尾側に視野を移動し、胸部下行大動脈手前腹側の食道、気管分岐下リンパ節等を観察する。温存すべき気管支動脈と周囲構造の関係が明瞭である(g〜l)。

図4 各解剖学的構造の相互関係が気管支動脈を含めて良好に観察できる。 赤:大動脈、濃赤:気管支動脈、 黄:気管支・肺、青:リンパ節
図4 各解剖学的構造の相互関係が
気管支動脈を含めて良好に観察できる。
赤:大動脈、濃赤:気管支動脈、
黄:気管支・肺、青:リンパ節
図5 シミュレーション画像(左)は術中所見(右)をきわめて良好に反映している。
図5 シミュレーション画像(左)は術中所見(右)をきわめて良好に反映している。

▲ページトップへ

s 外科医の立場から:シミュレーションを活用した外科手術(市川)

一般に、鏡視下手術は、通常の手術に対して拡大視による精細な解剖の把握が可能であるが、触覚と遠近感の欠如、術野の全体像が把握困難であるなどの欠点を有する。これらの欠点を、術野の3DCTによるシミュレーションによって補うことは、外科医にとってきわめて有用である。特に放射線化学療法後のsalvage手術においては、術前3DCTによって気管支動脈の走行を把握し、これを温存することで気管血流に配慮することが重要である。胸腔鏡下食道切除術前には、ziostation2で内視画像を詳細に観察して腫瘍と臓器・血管との位置関係を把握して手術計画を立て、イメージトレーニングした後に手術に臨んでいる。観察に必要な臓器は、骨(肋骨、椎体)、心臓・大血管、気管、肺、食道、気管支動脈、リンパ節である。右肺を肺門部で削除することにより右胸腔からの視野を得る。胸腔鏡下食道切除手術は、左側臥位、6ポートの完全鏡視下で胸部操作を行い、縦隔リンパ節の郭清と胸部食道全長を遊離する(図6)。右気管支動脈は、太いものは温存し、細いものは切離する。左気管支動脈は温存すべく努める。

図6 胸腔鏡下食道手術 左側臥位、6ポートの完全鏡視下で胸部操作を行う。
図6 胸腔鏡下食道手術
左側臥位、6ポートの完全鏡視下で胸部操作を行う。

ziostation2によるシミュレーション画像は、郭清すべきリンパ節の位置の三次元的把握、気管支動脈の起始部と走行の把握に有用である。マルチデータフュージョンを用いれば、目的に応じたボリュームを加算表示することができ、リンパ節では、106recRと右鎖骨下動脈の位置関係、106recLと気管、大動脈との位置関係などが確認できる。右気管支動脈は、手術ではほぼ全例で確認されるが、CTではその9割以上が同定され、気管支動脈の温存に有用である。左気管支動脈は、術中よりもMDCTによる同定率のほうが高く、8割程度で温存が可能である。左気管支動脈は走行にバリエーションが多かった。根治的放射線化学療法後の症例で、気管支動脈を同定・温存できない場合は術後気管虚血の危険性があるため、詳細な術前画像による気管支動脈の位置把握が重要である。

術前シミュレーション画像は、郭清すべきリンパ節の位置の三次元的把握、気管支動脈(とくに左)の起始部と走行の同定に有用であり、気管支動脈の温存は気管虚血を回避する上で重要と考える。

▲ページトップへ

s まとめ
図7 術前にはziostation2を用いて入念に手術シミュレーションが行われる。
図7 術前にはziostation2を用いて入念に手術シミュレーションが行われる。

MDCTの登場から10年以上が経過し、ワークステーションの進歩もあり、現在ではさまざまな領域で手術やIVRの術前三次元画像が活用されている。放射線サイドでは、術者の要望をよく把握し、最新の技術を駆使して安全な手技に活用される画像を提供することは、もはやルーチンレベルの仕事となりつつある。また、術者は提供されたシミュレーションデータが、どのように手技に活用されたかを放射線サイドにフィードバックして有用性を伝え、また、常に改善点を要望していくことで全体のレベル向上が図れる。放射線部と依頼医の良好なコミュニケーションが本領域の発展に最も重要と考える(図7)。

▲ページトップへ

(インナービジョン2012年3月号掲載)

ziosofotトップへ

●販売代理店
アミン株式会社
http://www.hi-amin.co.jp/
〒103-0033 東京都文京区本郷2-27-20
tel:03-5689-2323 fax:03-5804-4130
●製造販売元
ザイオソフト株式会社
http://www.zio.co.jp/
〒108-0073 東京都港区三田1-2-18