MRスペクトロスコピー(MR spectroscopy:MRS)は,MRI測定手法の1つで,MRI装置で測定されるスペクトルから特定の化学物質(代謝物)の有無,濃度を測定するために用いられる。通常のMRIは,水素核の磁気共鳴で測定されるさまざまな物理化学現象(プロトン分子密度,緩和現象,分子拡散など)を観測し,最終的に画像のピクセル強度として表示する。これに対し,MRSは測定領域内のNMRスペクトルを解析し,化学物質に対応する信号の化学シフト(chemical shift)と強度から,生体内の特定の化学物質(代謝物)の種類・状態・量などの情報を得る手法であり,化学分析で使用されるNMRと同様の手法である。MRSは,他の医療画像診断や生化学的検査方法と比べ,生体内部の広い範囲の代謝物の化学情報を非侵襲的に得られるため,特定の代謝物と関連がある疾患,神経細胞の活動,悪性腫瘍の状態などの判定や,脂肪などの定量に有用であると期待されている。
しかしながら,現状のMRI装置の測定条件では,MRスペクトルの各ピークの幅は広く,かつ生体内では水分を含め化学シフトが近接する多種類の分子が混在しており,ピークが重複してしまうため,一部の代謝物を除き診断に必要な化合物を正確に比較,定量できる明瞭なスペクトル情報を得ることは困難であった。また,スペクトル情報の解析には,NMRスペクトルに関する知識と習熟が必要である。
「LCModel」は,Stephen ProvencherInc(. カナダ)が開発したMRS 自動解析ソフトウエアである。解析にはMRS のデータファイルを読み込み,MRS 測定条件に対応したbasis-setファイル(特定の代謝成分の標準濃度溶液を種々の条件で測定した比較用データファイル)を指定するだけで,統計学的な手法を用いてスペクトルを自動的に解析し,代表的な代謝物の定量を行えるソフトウエアである。LCModelでは自動解析と,basis-setファイルの利用で,解析者と機器,測定条件により生じる差異を低減でき,解析結果の標準化が期待されている。
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