近年,わが国においては画像診断の目覚ましい進歩により,わずか5mm程度の肝腫瘍性病変まで検出可能となった。肝腫瘍性病変検出能の高い画像検査としては,従来報告されているCTHA,CTAPのほかに,2008年1月から保険収載された肝特異性造影剤Gd-EOBDTPA造影MRIが注目されている。
一方,画像検査で検出された病変についての悪性度診断や治療適応判断については,典型的肝細胞がん所見である多血性病変以外は明確な指針は存在しない。わが国で広く普及している『肝癌診療ガイドライン』1)(図1)では,造影CT またはMRI 動脈相high・静脈相low 以外を非典型的腫瘍像とし,2cm超であればオプション検査として血管造影,CT angiography,SPIO造影MRI,造影超音波,腫瘍生検が推奨され,肝細胞がん確診が得られれば「治療へ」と記載されている。
欧米では,肝硬変例の腹部超音波検査における肝腫瘍性病変についてはAASLD(American Association for
the Study of Liver Diseases)のガイドライン2)(図2)があり,1cm未満の肝腫瘍性病変は3〜4か月ごとに超音波検査を施行し,1cm以上になれば造影剤を用いた検査を行うことが推奨されている。また,1.2cmの腫瘍性病変については,2種類の造影検査(CT,MRI,超音波のいずれか)で典型的な血流パターンであれば治療適応とされ,1種類のみ典型的であるものや,2種類の造影検査ともに典型的な血流パターンを示さないものは,腫瘍生検で治療適応を決定することが推奨されている。
このように,各種ガイドラインでは肝腫瘍性病変の治療適応は,腫瘍径と血流診断で規定されている。腫瘍生検は信頼できる検査のひとつであるが,サンプリングエラーや腫瘍の一部が脱分化したような病変の存在を考慮すると,完全な診断は困難である。また,神代ら3)が報告した非多血性肝細胞がんである,いわゆるearly hepatocellular carcinmaの診断においては,腫瘍生検のみでは診断困難な症例が少なからず存在する。
われわれは以前より,SPIO造影MRIおよび造影超音波にて肝腫瘍性病変の質的診断について検討を行ってきた。質的診断における肝細胞がん所見とは,Sonazoid(ソナゾイド)造影超音波においては投与10分以降のKupffer phaseでのdefectまたはhypoechoic lesionであり,SPIO造影MRIではT2*強調像での高信号,Gd-EOB-DTPA造影MRIでは投与20分後の肝細胞相での低信号所見を示す。非多血性肝腫瘍性病変の悪性度評価および治療適応決定には,この質的診断が重要である。
今回われわれは,血流診断および質的診断ともに可能であるソナゾイド造影超音波とGd-EOB-DTPA造影MRI に注目し,肝腫瘍性病変の悪性度評価と治療適応決定における両者の位置づけについて考察した。
閉じる