いわゆる古典的肝細胞がん(HCC)に対する肝動脈化学塞栓術(TACE)は,HCCの集学的治療の一翼を担ってきたが,近年のラジオ波焼灼療法(RFA)などアブレーション治療,埋め込み型ポートによる肝動注療法の発達で,その相対的評価はひところよりも低下している感は否めなかった。しかし,それらの新しい治療法においても一長一短があることが明らかとなり,依然としてTACEの地位は下がっていない。しかしながら,経動脈的に行うTACEでは,HCCを完全な壊死に陥らせることが困難なものも存在する。特に被膜内,被膜外に存在するHCCに対する抗腫瘍効果は不良である。これらの部位に存在するHCCは,動脈のみならず門脈からも栄養されており,経動脈的な治療では腫瘍が残存してしまうという,TACEよる治療効果の限界がここにあった。したがって,これを克服するため,門脈領域まで抗腫瘍効果を及ぼすことができる新しいカテーテル治療の開発が課題であった。
  筆者らはこれを解決すべく,肝静脈をバルーンカテーテルで一時的に閉塞し,肝内の血行動態を人為的に変更して施行する一時的肝静脈バルーン閉塞下TACE1)を考案し,臨床応用を行ってきたのでその概略について述べる。

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