肝炎訴訟で話題となっているウイルス性肝炎は,わが国で最も多い感染症であり,そのほかの原因の肝炎・肝硬変を含めると,わが国における慢性疾患患者数は300万人を超えている。これに伴う門脈圧亢進症(以下,門亢症)による食道静脈瘤,胃静脈瘤の対応は,日常診療の中できわめて重要となっている1)。
門亢症は,肝を中心とした病変(肝炎など)が原因で門脈抵抗が上昇するか,あるいはA-P(動脈門脈)シャントなどにより門脈への流入血流が増加することで,門脈圧が上昇する状態である。前者をbackward血流説,後者をforward血流説とも呼ぶ。いずれにせよ,圧亢進が起こり,その結果として遠肝性門脈血流が増加し,食道・胃静脈瘤,難治性腹水,脾腫などの諸症状が出現する。
治療を要する病態は,食道静脈瘤,胃静脈瘤,異所性静脈瘤出血,シャント性の猪瀬型肝性脳症,門脈圧亢進症性胃腸症,難治性腹水などになる。前四者には,静脈瘤,シャントとその供血・排血路の閉塞(B-RTO,内視鏡的硬化療法など)が治療法となる。一方,後二者は圧そのものに起因するため,治療法としては圧を下げる方法(TIPSなど)が選択される。その他の病態として脾腫があり,治療として部分的脾動脈塞栓術(PSE)と脾摘の2つの治療法がある。
治療方法には大きく,内視鏡治療,外科治療,カテーテルを用いたインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)治療,薬物療法に分かれる。食道静脈瘤には内視鏡的硬化療法が第一選択となるが,それ以外の症状には,まずIVRによるカテーテル治療が選択されることが多い。外科的治療として一時期盛んに行われたHassab手術,食道離断術は,一部の施設を除いてあまり行われなくなった。脾摘術は,PSEと並んで脾機能亢進を改善させ,脾静脈血流の減少効果により門脈圧を下げる効果があり,有用な治療法である。血小板減少のため,インターフェロン治療の適応のない患者に対して血小板数を増加させ,インターフェロン治療の適応とさせることから最近注目を浴びている。また,門亢症を伴う重症肝不全に対しては肝移植という究極の治療法があり,わが国でも脳死肝移植が始まっており,さらなる発展が期待されている。
しかし,実際の臨床では,食道静脈瘤以外の門亢症にはまずIVR治療がその守備範囲の広さと低侵襲性から選択され,門亢症治療の重要な担い手になっている。IVR治療には大きく,B-RTO,TIPS,PTO(経皮経肝食道静脈瘤塞栓術)2),3),PSE4)とその組み合わせが存在する。それらの治療論理を説明すると,門脈圧を下げる減圧治療には経皮的シャント術であるTIPS5)〜7),またPSEも脾静脈血流を低下させて門脈圧を低下させる。静脈瘤の局所廃絶治療としては,食道静脈瘤に対するPTO,胃静脈瘤に対する排血路から治療するB-RTO8)〜10)がある。肝内で発生するA-PシャントやMesocavalシャントには,コイル塞栓やB-RTO,DBOEの組み合わせでシャントを塞栓し閉塞させることができる。
特に,B-RTOはわが国で開発された治療法11)〜14)で,胃静脈瘤に対し優れた治療効果を持つだけではなく,肝機能の改善効果も併せ持つことが明らかにされてきた。さらに,シャント性の肝性脳症症例にも,B-RTOの技術は応用可能である。本稿では,B-RTOを中心としたIVR治療の門亢症に対する治療戦略について述べたい。
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