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取材報告

2010
放射線医学総合研究所
医療被ばくの最新のエビデンスと説明の重要性に関する公開講座を開催

会場風景
会場風景

米倉義晴氏(放医研理事長)
米倉義晴氏
(放医研理事長)

久住静代氏(原子力安全委員会)
久住静代氏
(原子力安全委員会)

渡辺正実氏(文部科学省研究振興戦略官)
渡辺正実氏
(文部科学省研究振興戦略官)

清 哲朗氏(厚生労働省医政局指導課)
清 哲朗氏
(厚生労働省医政局指導課)

辻井博彦氏(放医研理事)
辻井博彦氏
(放医研理事)

 独立行政法人放射線医学総合研究所(放医研)は,医療関係者のための役に立つ公開講座「医療における放射線〜エビデンスに基づいて現場の質問に答える」を,3月13日(土)に幕張メッセ国際会議場(千葉市美浜区)で開催した。放医研では,研究実績を広く一般に紹介する目的で講演会や公開講座を所内で定期的に開催してきたが,16回目となる今回は“特別編”として,医療関係者および一般市民を対象に医療被ばくに関する最新の知見と説明の重要性を中心にしたプログラムを企画し,文部科学省,千葉県,千葉市などの後援を得て会場を幕張メッセ国際会議場に移して行われた。
 開催にあたって挨拶した放医研理事長の米倉義晴氏は,「レントゲンの発見からX線の医学利用の恩恵は計り知れないが,近年,放射線検査の重要性が高まり利用が増加するにつれ,影響に対する懸念も大きくなっている。医療現場で,放射線のリスクとベネフィットを適切に説明し安心して医療が受けられる環境を構築することが重要だと考え,公開講座を開催した。医療被ばくの増加と患者の安心・安全の問題は,省庁の垣根を越えた協力が不可欠であり,活発な議論と場となることを期待したい」と述べた。

 また,来賓として原子力安全委員会の久住静代氏,文部科学省の研究振興戦略官の渡辺正実氏,厚生労働省医政局指導課の清 哲朗氏が挨拶した。
 久住氏は「世界的に医療による放射線被ばくの増加が問題視されており,UNSCEAR(国連科学委員会)やICRP(国際放射線防護委員会),WHO(世界保健機関),IAEA(国際原子力機関)などにおいて,医療利用の放射線防護の基準が検討されている。また,フランスや米国でも放射線リスクとベネフィットについて議論されており,今や世界中で関心が集まっている。医療関係者には,ICRPのいう“正当化”と“最適化”をこれまで以上に意識し,社会や患者に対して適切に説明することが必要とされている。この公開講座が放射線防護について改めて認識し,社会から信頼される放射線診断,放射線治療の発展に繋がることを期待している」と述べた。
 渡辺氏は「放医研は,粒子線治療やPETなど放射線の医学利用をはじめ,低線量の放射線の影響などの放射線防護研究,緊急被ばく医療への対応など放射線医学に関する最先端の研究を行っている組織であり,これだけのスタッフがそろっている施設は世界にも類を見ない。その放医研の放射線医療被ばくに関する研究や取り組みを,さまざまな分野で有効に活用してほしい」と述べた。
 清氏は「現在は,医療における放射線の利用は規制が少なく,放射線防護の原則である“正当化”“最適化”を前提として現場にゆだねられている。しかし,新しい国際勧告のICRP2007年版では,線量の把握やそれに基づいた合理的な削減などが求められており,今後,法令での対応も検討しなければならない状況に変わりつつある。日本はCT大国といわれるように画像診断機器が普及しており,早期診断などメリットも大きいが,検査の無制限な拡大には懸念もあるところだ。医療被ばくの正確な知識と説明の重要性に理解ある医療スタッフが多く現場にいることは,今後の政策を提案するときの大きなポイントになる」とコメントした。

●第1部・講演「医療被ばくの現状と考え方」
 第1部は「医療被ばくの現状と考え方」として,放医研の研究者から最新の知見について報告された。講演の最初に,座長を務める米原英典氏(放射線防護研究センター規制科学総合研究グループ)から,放射線被ばくを考える上で基礎となる“放射線の単位”“等価線量と実効線量”“実効線量の計算の考え方”“線量のスケール”などについて説明が行われた。
 続いて,酒井一夫氏(放射線防護センター長)が「医療被ばくを取り巻く動向」として,UNSCEARやICRP,IAEAなど国際的な枠組みや日本の法令など医療放射線と放射線防護・規制の全体像,ICRP2007年勧告と国際機関などの防護への取り組みなどを紹介。赤羽恵一氏(重粒子医科学センター医療放射線防護研究室)は「医療被ばくの現状」として,日本のCTの普及状況と検査頻度から割り出した全被ばくにおける医療被ばくの割合,米国との国民線量の比較データ,現場における正当化・最適化の考え方と各放射線診断の被ばく線量レベルなどを説明した。
 「低線量放射線被ばくの影響」を講演した島田義也氏(放射線防護センター発達期被ばく影響研究グループ)は,低線量被ばくが及ぼすヒトへの影響とリスクの考え方を説明した。最後に神田玲子氏(同センター規制科学総合研究グループリスクコミュニケーション手法開発チーム)が「患者さんに説明する際のポイント」として,医療放射線を患者がどう感じているのかのアンケートの結果を紹介し,医療被ばくを患者に説明する際のポイントなどを講演した。

●特別講演「安全と安心の考え方」
 続いて,明石真言氏(放医研)を座長として,早稲田大学理工学術院客員教授の永田久雄氏による特別講演「安全と安心の考え方」が行われた。永田氏は,労働安全,安全工学の立場から「安全・安心」の考え方について講演した。安全は“(利用者が)受け入れられないリスクが存在しないこと”で,リスクを排除するための安全管理システムが必要になる。一方,安心とは“悩みや不安”がない状態だが,不安はゼロにはできないため,その種をひとつずつ排除することが必要で,特に“不要な”不安を取り除くことが重要だとした。しかし,「CT検査ががんの原因」という新聞報道をはじめ,「環境影響ホルモン」「BSE問題」「こんにゃくゼリー」など“過剰な”不安をあおるマスメディアの報道が問題で,これに対応するには正確な情報を地道に発信し続けるしかないと指摘した。

●第2部・パネルディスカッション「あなたは医療被ばくについて患者の質問に答えられますか?」
 パネルディスカッションでは,神田氏をコーディネーターに,パネリストとして北村善明氏(日本放射線技師会会長),中村仁信氏(日本医学放射線学会理事/彩都友紘会病院長),上杉英生氏(国立がんセンター東病院看護部副看護師長 / がん看護専門看護師)に放医研の酒井氏,島田氏が登壇。フロアからの質問を含めて「若い女性に対する10日則(10 days rule)は必要か」「子供や胎児への影響について」「低線量放射線の反復被ばくや間隔の問題について」「個人の被ばく線量管理など日本での取り組み」「被ばくに関する新しい知見の教育方法」「情報発信における放医研の役割は」などのテーマについてディスカッションが行われた。

 最後に挨拶した放医研理事の辻井博彦氏は「放射線に対する漠然とした不安があり,正しく使うためには正確な知識が必要だ。放医研として,公開講座などの取り組みを通じて,科学的なエビデンスを積み重ねて社会に還元していきたいと考えている」と述べた。

●第1部・講演
座長:米原英典氏(放医研)
座長:米原英典氏
(放医研)
酒井一夫氏(放医研)
酒井一夫氏
(放医研)
赤羽恵一氏(放医研)
赤羽恵一氏
(放医研)
島田義也氏(放医研)
島田義也氏
(放医研)
神田玲子氏(放医研)
神田玲子氏
(放医研)
 

●特別講演
永田久雄氏(早稲田大学理工学術院客員教授)
永田久雄氏
(早稲田大学理工学術院客員教授)
座長:明石真言氏(放医研)
座長:明石真言氏
(放医研)

●第2部・パネルディスカッション
パネルディスカッション風景
パネルディスカッション風景
北村善明氏(日本放射線技師会会長)
北村善明氏
(日本放射線技師会会長)
中村仁信氏(日本医学放射線学会理事)
中村仁信氏
(日本医学放射線学会理事)
上杉英生氏(国立がんセンター東病院看護部副看護師長)
上杉英生氏
(国立がんセンター東病院
看護部副看護師長)

●問い合わせ先
独立行政法人 放射線医学総合研究所
TEL 043-206-3026
Eメール info@nirs.go.jp
http://www.nirs.go.jp/