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取材報告

2010
日本医療情報ネットワーク協会が「JAMINAセミナー2010」を開催

会場の様子
会場の様子

田中 博 氏(理事長)
田中 博 氏(理事長)

水島 洋 氏(副理事長)
水島 洋 氏(副理事長)

辰巳治之 氏(副理事長)
辰巳治之 氏(副理事長)

川上順子 氏(東京女子医科大学)
川上順子 氏(東京女子医科大学)

浜本義彦 氏(山口大学)
浜本義彦 氏(山口大学)

  特定非営利活動法人日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)は4月23日(金),文京シビックホール(東京都文京区)において,「JAMINAセミナー2010」を開催した。JAMINAは,安全で質の高い医療を受けたいという国民の視点から,医療のITの普及に向けて活動していくことを目的に2003年に設立された。今回のセミナーでは,「JAMINA講演」,「特別講演:医師再教育eラーニングの取り組み」,「医療情報分野における各省庁の今年度の取り組みについて」,「医療情報分野における各団体の今年度の取り組みについて」の4つのセッションが設けられた。

  開会にあたり,理事長の田中 博氏(東京医科歯科大学大学院教授)が挨拶に立ち,医療再生という課題に対して,ITやネットワークが重要な役割を果たすと述べた。引き続き,「JAMINA講演」の最初の演題として,田中氏による理事長講演「日本版EHRの実現に向けて」が行われた。田中氏は,日本の医療について,質が高く,かつ低コストで提供できていると位置づけた上で,医療崩壊の理由として医師不足を挙げた。さらに,慢性疾患の増大や高齢化の進展が医療費高騰につながっていると,現状の問題点を整理した。そして,これらの問題解決のためには,生涯を通じたケアと地域連携によるケア,ホームヘルスケアが必要だと述べた。田中氏はこの3つのケアを広げるためにの政策の必要性に触れ,米国のオバマ政権におけるヘルスケアIT施策について紹介した。

  この後副理事長の水島 洋氏(東京医科歯科大学教授)が,「個人化医療の時代における医療情報ネットワークの活用」をテーマにした副理事長講演を行った。水島氏は,国立がんセンター(現・国立がん研究センター)所属時に構築したハイビジョン静止画による多施設間のテレビ会議システムの事例や,病理画像をスキャンする「ナノズーマー」を用いた遠隔病理コンサルテーション,アジア太平洋高度ネットワーク(APAN)の医療応用WGの活動などを紹介した。さらに水島氏は自らが取り組むオミックス医療情報学についての解説も行った。次いで行われたもう1題の副理事長講演では,「生命活動を支える『情報薬』─『情報薬』の開発と『戦略的防衛医療構想』─」と題して,辰巳治之氏(札幌医科大学大学院教授)が登壇した。辰巳氏は,情報を早く的確に収集することで予防や早期治療を実現する「戦略的防衛医療構想」というコンセプトを紹介。その上で,情報を人に与えることによって心と体に変化をもたらすという「情報薬」について,具体的な実例を挙げて説明した。

  午後からは第2セッションの特別講演が行われ,まず東京女子医科大学女性医師再教育センターのセンター長である川上順子氏が「女性医師支援におけるe-ラーニングの役割」をテーマに講演した。川上氏は,女性医師が増える現状についてデータを示した上で,女性医師を活用する必要性は高いと述べた。そして,同大学が設置した女性医師再教育センターについて,卒業生以外の女性医師も対象とし,就職と切り離した教育を行っており,多くの病院が研修先になっていると説明した。同センターが運用しているeラーニングシステムは,利用者の年齢,性別,所属を問わず,職種も医師以外の看護師などの医療従事者,医学生も受講が可能。1セッション20分で,再研修の実際を学ぶキャリア,救急蘇生や医療面接のスキルを身につけるベーシック,各診療科のトピックスを学ぶアドバンスの3つのカテゴリーに分けられる。2010年3月末で39名の再研修修了者がおり,受講者の80%以上は同大学以外の卒業生である。川上氏は,このシステムの課題として,双方向性とバーチャルな実践的研修ができるようにしたいと述べた上で,男女問わず,医師の再研修を支援し,地域医療に貢献したいとまとめた。続いて,同センターでも用いられた内視鏡教育のeラーニングシステムについて,山口大学大学院教授の浜本義彦氏が講演した。浜本氏らが開発したeラーニングシステムは,内視鏡による診断から治療までを一貫して疑似体験するもの。実際の内視鏡画像を見ながら病変部の検出や症状の診断,治療法の決定などを解答していく。浜本氏は,医学生の教育だけでなく,女性医師の復職支援のための教育にも有効であると紹介した。

  この後行われた,第3セッション「医療情報分野における各省庁の今年度の取り組みについて」では,内閣官房情報通信技術(IT)担当室内閣参事官の野口 聡氏,総務省情報流通行政局情報流通振興課情報流通高度化推進室室長の片淵仁文氏,厚生労働省医政局政策医療課医療技術情報推進室室長の山本 要氏,経済産業省商務情報政策局医療・福祉機器産業室室長の増永 明氏が,それぞれの省庁における取り組みを説明した。

  最後の第4セッションは,(財)医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)研究開発部主席研究員の山田恒夫氏が,経済産業省の実証事業として取り組んだ,香川県,東京都,千葉県,岩手県の周産期医療における電子カルテシステムとネットワークの成果について報告した。また,岩手県遠野市が展開しているWeb母子手帳などの事業について説明した。次いで,保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)における近年の活動内容と今後の展開について,運営会議議長の西原榮太郎氏が紹介した。

  長時間にわたるセミナーであったが,医療ITに対する行政や産業界の取り組みだけでなく,eラーニングのような,医師不足などの問題解決に有効と思われるITの活用が紹介される内容の濃いものとなった。多くの参加があったことに加え,受付周辺には協賛企業の展示もあり盛況なうちにセミナーは終了した。


●問い合わせ先
特定非営利活動法人日本医療情報ネットワーク協会
〒110-0034 東京都文京区湯島2-2-1東邦深澤ビル5F
TEL 03-3814-3431
http://www.jamina.jp/