Advanced MR研究会(3T MR研究会)・杉村和朗代表理事に聞く
6月19日(土)の3T MR研究会終了後,報道関係者向けのインタビュー取材が行われた。代表幹事の杉村和朗氏(神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野教授)は,わが国における3T MRIの現状とAdvanced MR研究会の活動などについて答えた。

─3T MRIの普及が思ったほど進んでいない理由は何でしょうか。

杉村氏:頭部領域においては,1.5T装置と比較して圧倒的に3T MRIの方が優れた画像を撮像できていました。しかし,腹部領域では期待していた画質を得ることができず,ルーチン検査で使うならば1.5T装置の方が良いという考えが,放射線科医や診療放射線技師の中で広まっていきました。さらに,現状の 1.5T MRIは非常に完成度が高いこともあり,大学病院のような大規模病院以外の施設の多くでは,1.5T装置が選ばれていました。
  ところが昨年からMultiTransmit技術など,腹部領域でもわれわれがびっくりするような高画質を得られる技術が登場してきたことで,これから導入する施設に自信を持って3T装置を勧めることができるようになりました。3T MR研究会は終了しましたが,そのタイミングに合わせ新しい3T装置の時代が開かれたとも言え,われわれの活動が先鞭をつけることができたと思っています。

─装置の高度化に伴い,撮像のための教育も重要になってくると思いますが。

杉村氏:そのとおりです。MRIの場合,完成度の高い装置でも撮像する診療放射線技師やそれを教育する放射線科医によって,まったく異なった画像になってしまいます。そこで私が日本磁気共鳴医学会の会長をしていた時に,診療放射線技師の技術の向上を目的にMR専門技師制度を創設しました。今後は放射線科医とこのような教育を受けた診療放射線技師がいて, さらに高性能なMRIがある施設に対してインセンティブがつけられるように,行政などに向けて,働きかけていくことが必要だと思います。

─3T MRIは今後,日本の臨床現場でどのように使われていくのでしょうか。また, 7T MRIなど今後のMRI技術の展望について,お聞かせください。

杉村氏:3T MRIは腹部領域の撮像が標準化できるようになったので,これをどのように使っていくのか,例えば高いSNRをスピードに生かすのか,空間分解能に生かすのか,あるいはMRテンソル画像などに用いるのか,どこに重きを置くかによって異なってくると思います。神戸大学でも今年の5月からMultiTransmit技術を搭載した装置が稼働したことで,撮像での失敗が大幅に減り,ルーチンでいろいろな研究に使えると考えています。一方で,世界的にも7T MRIのデータが出始めています。臨床で使用するためには,3T装置のときよりもハードルが高いと思いますので,まずは頭部領域から使っていくことになるでしょう。また,コイルの多チャンネル化は,時代の流れであり,いままで以上に撮像時間を短縮することが求められているので,さらに開発が進んでほしいと期待しています。

─新たに立ち上げられるAdvanced MR研究会についてのお考えをお聞かせください。

杉村氏:メーカーに対して技術の方向性をしっかりと示していくことが重要だと考えています。われわれが求めるものをメーカー側に提言していくことで,メーカーも効率的に開発ができ,お互いにとってプラスになるはずです。3T MR研究会では,メーカーの担当者が参加し,われわれとディベートするという,これまでにない良い形式で開催してきたので,Advanced MR研究会でもこれを引き継いでいきたいです。

(2010年6月19日 文責:iNnavi.NET)