ホーム の中の取材報告の中の 2010の中のこれからの電子カルテ,地域医療連携の鍵となるクラウドの技術や運用の企画に注目が集まる─第30回医療情報学連合大会1日目

取材報告

2010
これからの電子カルテ,地域医療連携の鍵となるクラウドの技術や運用の企画に注目が集まる
─第30回医療情報学連合大会1日目

会場となったアクトシティ浜松
会場となったアクトシティ浜松

1日目の最初のセッションとして行われた大会企画1「電子カルテ基盤としてのクラウドコンピューティング」
1日目の最初のセッションとして行われた
大会企画1「電子カルテ基盤としての
クラウドコンピューティング」

大会企画2のオーガナイザの木村通男氏
大会企画2のオーガナイザの
木村通男氏

大会企画2のパネラー。左より阿曽沼元博氏,小林利彦氏,服部達明氏
大会企画2のパネラー。左より
阿曽沼元博氏,小林利彦氏,服部達明氏

I会場のワークショップ4「クラウド基盤の現状と展望」
I会場のワークショップ4
「クラウド基盤の現状と展望」

企業展示には47社が出展
企業展示には47社が出展

大会特設コーナーではIPv6やクラウド技術を利用したシステムを紹介した
大会特設コーナーではIPv6やクラウド技術を
利用したシステムを紹介した

  第30回医療情報学連合大会が,11月19日(金)〜21日(日)の3日間,アクトシティ浜松で開催された。大会長は,安藤裕氏(放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院病院長)。テーマは,「連携と協調が創る、新たな医療―未来に向けたシステム基盤を考える」。特別講演,学会長講演,大会長講演,大会企画8題,シンポジウム5題,ワークショップ9題のほか,“連合大会”の名前の通り,他学会などとの共同企画(12題)や産学官共同企画(2題)などさまざまな領域と連携したプログラムが数多く行われ,3日間で2658名が参加した。

  1日目の開会式に続いて行われた大会企画1「電子カルテ基盤としてのクラウドコンピューティング技術の実際」(オーガナイザ:近藤博史)では,これからの電子カルテシステムのキー技術となる医療クラウドやServer Based Computing(SBC)の現状と課題,将来に向けた可能性についてディスカッションが行われた。
  日本ヒューレット・パッカードの高橋誠氏は,クライアントを仮想化(シンクライアント化)することによるTCO(Total Cost of Ownership)削減の効果とワークスタイルの変革について,生命保険会社などの実例を挙げて紹介した。日本電気の石山賢一氏は同社が取り組む社内のシンクライアント展開について,狙いと現状を中心に講演した。NECでは,2006年からVPCC方式で仮想化に取り組み,現在では1万3000台のシンクライアント端末で運用中とのことだ。
  続いて発表した鳥取大学の近藤氏は,2008年にシンクライアントで構築した電子カルテシステム導入の経験から,SBCのメリットと問題点を紹介した。同大学病院では,院内の多数の端末のソフトウエアの整合性やハードウエアの故障など管理,情報漏洩やウイルス対策などへの対応を図るため,SBCのソフトウエアとして“Go Global”を採用して,70台の中間サーバで1100台の端末を運用している。鳥取大学病院では,電子カルテシステムのシンクライアント化に続いて,地域医療連携システム(おしどりネット)をSBCをベースに構築している。同大学では,シンクライアントで問題となるファイルのアップロードやダウンロード,動画の再生,画像閲覧,ユーザーローミング(ログインしたまま外来と病棟で電子カルテを参照する)などの機能を実現した。問題点としては,プリンタの設定やモニタの設定,SBCに対応するためのOSの改修が必要だったことを挙げた。
  「病院情報システムにおけるクラウド技術の利用」を講演した福井大学の山下芳範氏は,医療情報システムへのクラウド技術利用の目的として,アプリケーションの統合的な利用,ハードウエアの合理的な活用,管理コストの低減などを挙げた。さらに,山下氏は,端末のシンクライアント化は,従来のハードウエアに片寄った投資のバランスを最適化して,ネットワークなどインフラを含めて全体のバランスを見直す方法のひとつだと述べ,福井大学病院での次期病院情報システムの構想を概説した。サーバはもちろん,ネットワークまで仮想化することで,可用性の高い柔軟なシステムの構築が可能で,端末を選ばず,地域医療連携システムへの発展も容易だと述べた。
  「SBC・クラウドコンピューティングを用いた病院情報システムネットワーク・学術ネットワークのシームレスな統合について」を講演した京都大学の竹村匡正氏は,2011年に稼働する次期システムの“KING5”でのFatClient(通常の端末)とSBCを組み合わせて,ファイルメーカーによる研究データベースとリンクしたシステムの構想を紹介した。
  最後に国立成育医療研究センターの山野辺裕二氏が「院内分離ネットワークインフラ下のSBCと仮想デスクトップの運用」を講演した。同センターでは,院内のネットワークを,事務や医局のPCがリンクしインターネットにも接続できる基盤系と,電子カルテなど病院情報システムの業務系に分けて構築してセキュリティの向上と基盤強化を図っている。この業務系の端末で安全に外部との接続などを行うために“Citrix Presentation Server”を導入して200台分の仮想デスクトップを利用できるようにし,基盤系の端末ではVMWareを使って電子カルテを仮想端末で利用できる。山野辺氏は,院内の端末900台のうち,ピーク時でも400台しか利用されておらず,端末を“仮想化”することで効率的な運用が可能になるのではと提案した。

  大会企画2「電子カルテの再評価―『医療情報学20年の宿題報告』から10年たって」では,2000年に木村通男氏(浜松医科大学医療情報部)を大会長として浜松で開催された大会で企画された「医療情報学20年の宿題報告」から10年を経て,同じ浜松で行われることをきっかけとして,この10年間を総括するプログラムとして企画された。オーガナイザである木村氏は,冒頭で前回の発表内容を振り返り「10年前に電子レセプト,標準化,電子カルテなどの領域で“宿題”として,われわれに託された課題がその後の10年でどのように取り組まれて解決されたのか,あるいは課題として残っているのか,常に評価をしながら進んでいくことが重要だ」と述べて,企画の意義を説明した。木村氏は,これからの10年の課題として,医療情報をいかに臨床評価や指標に活用できるようにしていくかが問われると総括した。
  講演では,まず,阿曽沼元博氏(順天堂大学客員教授)が「平成17年から18年に行った電子カルテシステム導入評価研究を振り返る」と題して,厚生科研(当時)で行った“電子カルテが医療および医療機関に与える効果と影響に関する研究”の考察について,当時を振り返りながら概説した。阿曽沼氏のグループでは,2006年当時に電子カルテを導入していた60病院にアンケート調査を行ったほか,自治体病院での電子カルテ導入の先駆けとなった島根県立中央病院で調査・分析を行い,システム導入による診療録の質的評価の結果を,改めて報告した。
  小林利彦氏(浜松医科大学附属病院副院長)は,「外来患者を対象とした電子カルテ・オーダリング診療の満足度調査 2010年外来患者アンケート調査結果」として,浜松医大病院および静岡市以西の26施設に依頼したアンケート調査(うち22施設,患者331人より回答)の結果を中心に報告した。22施設では,システムの導入状況にバラツキはあるもののPCを使った診療が行われており,全体的に患者の満足度は高く,コンピュータを使って診療を行う医師に対する評価は,使わない場合と比べて変わらなかった。患者側の意見としては,“時間”がキーワードで,待ち時間や予約時間が短くなることを望んでいた。医師がコンピュータを使って診療することに関しては,医師のパーソナリティが問題で説明能力の向上を求める声があったと述べた。医師の立場からは,システム化に対して,検査結果や画像の共有は進んでおり,今後の要望は操作性やレスポンスの向上と,データの二次利用に期待していることが示された。
  最後に,浜松医科大学病院医療情報部でデータ解析などの研修を行った服部達明氏(岐阜県総合医療センター診療情報管理部)が「臨床研究DBシステムを用いたデータベース二次利用」を発表した。浜松医科大学病院では,2002年からD☆D(ディースターディー)を使った臨床研究データベースの構築を行っている。D☆Dでは,患者一般属性,検査結果,全処方内容,最近2年間のDPC情報などが蓄積されて,院内の診療端末から利用が可能になっている。服部氏は,時系列検索機能によって,薬剤投与後の検査データの推移や変化を容易に注視でき,治療効果や副作用のチェックが簡単な操作で短時間で検索できるとして,2型糖尿病患者のHbA1c値や脂質異常症対するLDL-コレステロールのコントロール状況など具体的な例で,データ検索結果と,そのためにかかった作業時間をあわせて発表した。

  ワークショップ4「安全に医療情報を保存するためのセキュアなクラウド基盤の現状と展望」では,上杉真人氏(北海道情報大学経営情報学部)をオーガナイザとして,医療クラウドの必要性とその運用における課題と展望を4人の講演者によってディスカッションした。
  最初に,福田築氏(スカパーJSAT宇宙・衛生事業本部)が「医療クラウドにおけるセキュアなデータ保管の仕組み」として,スカパーが提供するクラウドサービスである「S*Plex3」について,セキュリティ技術の仕組みを含めて概説した。同社では,北海道医療情報プラットフォーム試験として北海道大学の遠隔読影サービスであるメディカルイメージラボなどにセキュアなシステムを提供している。
  続いて,工藤與亮氏(岩手医科大学先端医療研究センター)が「遠隔画像診断業務による実証実験」として,「S*Plex3」を使った遠隔画像診断について講演した。従来の方法であるDICOM Q/Rを使った転送に比べて,S*Plex3ではVPN接続が不要でローカルのHDDに依頼書PDFやDICOM画像が残らないメリットがあり,これからの広域PACSや電子カルテに必要な技術であると述べた。
  寺本振透氏(九州大学大学院法学研究院教授)は,法律家の立場から「医療クラウドの法的な考え方」を講演した。寺本氏は「法的観点では,医療情報に求められるのは真正性とアクセシビリティが重要だが,行政も患者側も忘れがちだ」と述べ,人間の寿命が80年の時代に,医療機関は40年弱で倒産する例もあり,医療の継続性から考えて,データへのアクセシビリティを確保することが重要になる。その中で「法律は完璧を要求しない。均衡を要求する」として,今後はセキュリティの確保と医療安全,データの利用のバランスを見直す時期にきていると述べた。
  最後に,山本隆一氏(東京大学大学院情報)が「医療クラウドの展望」として,医療情報の安全管理ガイドラインにいたる経緯と現状,今後の課題について総括的に講演した。山本氏は今後の課題として「医療でのクラウド利用を安全確実に進めるためには,基盤となるネットワークインフラの進展が必要だ。高速で高い可用性,信頼性を持ち低コストなポストインターネットへの取り組みが求められる」と語った。

  イベントホールでは,50社が参加して企業展示(カタログ展示などを含む)が行われた。電子カルテから,PACSなどの部門システム,医療情報データベースまでさまざまな製品が出展されたが,紙のスキャンやPDFの管理など,院内の書類を病院情報システムと連携して運用する文書管理システムの展示が目についた。また,イベントホール前では大会特設コーナーとして,クラウド技術やIPv6を使ったネットワーク技術の展示が行われていた。

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●問い合わせ先
第30回医療情報学連合大会
事務局
独立行政法人放射線医学総合研究所
重粒子線医科学センター病院医療情報課
E-mail jcmi2010@e-rad.jp

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