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取材報告

2011
福島原発災害チャリティ講演会を開催
— 正しい知識をもって いつもどおりの生活を! —

菊地 透氏(医療放射線防護連絡協議会)
菊地 透氏
(医療放射線防護連絡協議会)

高久史麿氏(日本医学会)
高久史麿氏
(日本医学会)

杉村和郎氏(日本医学放射線学会)
杉村和朗氏
(日本医学放射線学会)

中村仁信氏(日本医学放射線学会)
中村仁信氏
(日本医学放射線学会)

丹羽太貫氏(京都大学)
丹羽太貫氏
(京都大学)

大野和子氏(京都医療科学大学)
大野和子氏
(京都医療科学大学)

香山不二雄氏(自治医科大学)
香山不二雄氏
(自治医科大学)

清 哲朗氏(岡山大学病院)
清 哲朗氏
(岡山大学病院)

パネルディスカッション
パネルディスカッション

  東日本大震災に伴う福島原発災害を受け,3月27日(日)にメルパルクホール(東京都港区)にて,放射線影響や食品衛生の基本を学ぶチャリティ講演会が緊急開催された。「福島原発災害にともなう放射線影響とは—放射線・放射能から大切な命を守ろう!—」をテーマに教育講演と4題のパネリスト講演が行われた講演会は,参加費は無料とし,東日本大震災の義援金が受け付けられた。主催は医療放射線防護連絡協議会,共催は日本医学放射線学会,後援は日本医学会日本放射線技術学会

  総合司会を務める菊地 透氏(医療放射線防護連絡協議会総務理事)が,初めに,福島原発災害により国民が放射線・放射能への極度の不安と混乱に陥っている状況を受け,日ごろ医療の放射線利用と医療安全・放射線安全にかかわる関連団体が,放射線影響や食品衛生を学び,前に進む方策を提言するための場として講演会を緊急で企画したと,開催主旨を説明した。そして開会に先立ち,今回の震災の犠牲者に黙祷が捧げられた。
  開会にあたり,日本医学会会長の高久史麿氏と日本医学放射線学会理事長の杉村和朗氏が挨拶に立った。高久氏は,福島原発災害の一連の報道により,放射線・放射能による飲料水や食品の汚染などに対する不安が広がり,国民がパニックに陥っているとし,この講演会を通してメディアには正確な情報を広めてほしいと述べた。続いて杉村氏が挨拶に立ち,さまざまな誤解や混乱が広まっていることを憂慮し,学会としてできるだけ正確な情報を提供するためにホームページで情報を発信していることを説明した。そして,この時期に専門家による,わかりやすい事実説明を講演会で行うことの意義を述べた。

  まず初めに教育講演が行われ,中村仁信氏(日本医学放射線学会放射線防護委員長)の司会進行のもと,丹羽太貫氏(京都大学名誉教授)が「放射線の健康影響」について講演を行った。国際放射線防護委員会(ICRP)の委員でもある丹羽氏は,今回の災害で感じていることとして,放射線量について一般国民が理解することの難しさを挙げた。“目に見えない”“わからない”ことで不安がより一層増大していること指摘した上で,国民が最も気にしている健康影響について,影響を受ける時期や程度,具体的な内容,妊婦・胎児への影響などを解説した。すなわち,健康影響は線量に依存し,ゆっくり受ける1000mSvの被ばくでがんの生涯リスクは5%上昇するが,100mSv以下でははっきりわからないが無視できる程度であるとした。現在の公衆被ばく線量限度は,1mSv/年ときわめて低いことも再検討する必要があるのではと指摘した。
  なお,公衆被ばく線量限度については,ICRPが3月21日に,日本の現在の限度である一般人で1mSv/年を,100〜20 mSv/年に引き上げる検討を求める勧告を出したとのことだ。

  続く,大野和子氏(京都医療科学大学)を司会に据えたパネル討論会では,4名のパネリストによる講演と,参加者を交えた討論が行われた。
  パネリスト講演1題目は,総合司会を務める菊地氏が「対応を影響線量から考える」を講演した。菊地氏は,放射線の線量限度への理解が,医療被ばくと公衆被ばくで混同されていると指摘した上で,放射線・放射能量の単位や,線量の安全管理について講演した。メディアで頻繁に使用されている「現在の放射線量は通常の何倍」との表現が,国民の混乱や不安を招くとし,健康影響を基準に放射線量を評価することの必要性を述べた。また,安定ヨウ素剤の服用効果などについて解説した。
  2題目に,香山不二雄氏(自治医科大学)による「食品衛生の基準値」の講演が行われた。香山氏は,委員を務めていたコーデックス委員会とFAO WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)について,また,カドミウムやメチル水銀を例に挙げながら安全係数(不確実係数)について解説し,今回の水道水や食品に対する放射性ヨウ素やセシウムのガイドラインレベルの考え方を示した。
  続いて3題目に清 哲朗氏(岡山大学病院放射線科,元厚生労働省医療放射線管理専門官)により「正確な情報収集」の講演が行われ,行政サイドにいた経験から,情報源の信頼性やその理由について解説した。また,情報化の進んだ現在の日本において,情報の隠蔽は不可能であり,行政の発信する情報に嘘はないと考えて良いとした。
  最後に大野氏による「医療関係者に必要な基礎知識」の講演が行われ,原発災害への対応の基本について説明した。現在多くの医療機関・関係者に寄せられている放射線に関する相談・質問への対応は,一般患者への対応と同様であるとし,不安を取り除くことの重要性を指摘した。そして,食品へ放射線影響,胎児への影響についてなど,具体的な質問例を挙げ,対応・回答方法について説明した(日本医学放射線学会のホームページを参照)。また,原発災害関連で寄せられている質問からも見て取れる,妊婦への放射線検査が危険であるという誤った認識に対しての警鐘を鳴らした。今後の課題として,生物学的な安全を,環境の変化として国民が容認できるかどうかであるとした。

  続いて,丹羽氏と中村氏,パネリスト4名が登壇し,参加者との討論会が行われた。参加者からは,乳児への母乳による放射能の影響や乳児製品の煮沸消毒と放射性ヨウ素の関係について,また,小児の甲状腺疾患についてなど,医療従事者を中心に,具体的な質問や相談が数多く寄せられた。小さな命を守るためには,産婦人科医や小児科医ら医療関係者,および行政,メディアなどの役割に期待したいと主催者から要望が述べられた。現状では,行政や専門機関が発表する情報に注意を払いつつ,普段通りの生活を送って差し支えないと強調し,それが本講演会の企画意図であるとした。


●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会
TEL 03-5978-6433
http://www.fujita-hu.ac.jp/~ssuzuki/bougo/bougo_index.html


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