ホーム の中の取材報告の中の 2011の中の世界に先駆けてMSCTのアルゴリズムを発表したジョンズホプキンス大学の田口克行氏が講演 —国立がん研究センターを会場にCT研究の現状を報告

取材報告

2011
世界に先駆けてMSCTのアルゴリズムを発表した
ジョンズホプキンス大学の田口克行氏が講演
−国立がん研究センターを会場にCT研究の現状を報告

田口克行氏
田口克行氏

  ジョンズホプキンス大学放射線科Assistant Professorの田口克行氏が一時帰国したことを受け,4月19日(火),国立がん研究センター中央病院特別会議室(東京・中央区)において田口氏の講演会が行われた。主催 国立がん研究センターがん予防検診研究センター,司会は山本修司氏〔国立がん研究センター外来研究員〕。田口氏は,東京工業大学理工学研究科機械物理工学専攻終了後,東芝医用システム社に入社し,米国のユタ大学放射線学部医用画像研究科に留学中の1998年,世界に先駆けてマルチスライスCT(MSCT)のアルゴリズムを発表した。現在はジョンズホプキンス大学で,CTの新しいイメージング法の研究を行っている。この日は,「Novel CT imaging methods:Cardiac 4-D imaging and spectral CT」と題し,CT研究の現状について報告した。

  CTは,4列MSCTの登場以降,xyz軸のすべての方向ににおいてほぼ等価な空間分解能を実現しており,三次元のイメージングはほぼ完成されたものとなっている。また,256スライスCTや320列の面検出器CTなどの登場により,4D撮影も可能となってきている。こうした現状を踏まえ,田口氏は今後のCTの開発の方向性として,1)4Dイメージング,2)photonエネルギーの情報を活用したカラーでのCTイメージング,3)IVRや放射線治療を初めとする治療への応用による治療精度や治療モニタリングの精度向上への貢献という3つを挙げ,これらに役立つ新技術として,現在研究が進められている“Fully 4D cardiac imaging algorithm”と“Spectral(photon counting)CT imaging”について紹介した。

  4Dイメージングの対象として,田口氏は,1)心臓,関節,肺など,動きをそのままとらえることが診断能につながる臓器,2)造影剤を使用した機能や生体としての活動の様態,3)myocardial perfusionなど,臓器の動きと造影剤の流れという2つの四次元情報を同時にとらえる場合という3つを挙げ,本講演では特に1)の心臓の4Dイメージングについて,現行の方法と比較しながら述べた。現在,心臓CTにおけるデータ収集の方法としてECG-gating法が用いられており,心電図同期を行う際には,データ収集する位相は動きがないという前提のもとに三次元再構成が行われている。しかし,実際にはその間も心臓はわずかに動いていることから,タイミングによってはアーチファクトを多く含んだ画像となり,超音波と比較すると時間分解能の劣った4Dイメージとなっていた。一方,田口氏が現在研究中のMotion Estimation(ME)法では,心臓の動きを推定して画像再構成に生かすことと,画像再構成を生かして動きの推定を行うことを反復して行うことで,動きの精度と再構成の精度を同時に向上し,これによって4Dイメージの精度向上が図られた。田口氏は,これが実現すれば,現行法ではカットしていた位相のデータをすべて使うことができるようになり,さらなる画像ノイズの低減や被ばく低減が可能になると述べた。

  次に田口氏は,Dual Energy撮影の先にある新技術として,Spectral(photon counting)CT imagingの研究の現状について報告した。現在,CT画像はグレースケールで表示されることから,形態をトリガーとし,輝度のみを頼りに診断を行っている。しかし,輝度や形態だけでは識別が困難な組織もあることから,その解決策として,田口氏はphoton検出器を用いた撮影技術の有用性について述べた。具体的には,例えばX線を頭部に照射すると,組織を透過する前後ではスペクトラムの形が変わるが,現在の検出器ではエネルギーに応じた重み付けが行われており,物質特有のデータが得られず,それを反映した画像再構成を行うことはできない。しかし,photon検出器を用いた方法では,物質特有の情報がそのまま得られることから,田口氏は,CT画像のCNRの向上や,被ばく低減,組織識別の精度向上が図られるほか,分子イメージングがCTで行える可能性があると述べた。

  一方,photon検出器には,解決しなければならないいくつかの課題が残されていることから,田口氏は,今後も理論と計算機シミュレーション,ファントム実験などを重ねていきたいと抱負を述べた。